「気になる最先端テクノロジー10のゆくえ」を読んで(1)

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今はまだ実現していないけれど、未来に実現するかもしれない技術についての予想。
想定する未来の時間のスパンによって、予想しやすいこととしにくいことがある。
10年後なら比較的予想しやすいが、50年後、100年後となると、だんだん怪しくなる。
100年前に予想された未来のようにはなってないからね。

そんな書籍の紹介記事なんだが……。

『贈与の系譜学』ほか 『いつになったら宇宙エレベーターで月に行けて、3Dプリンターで臓器が作れるんだい!?  気になる最先端テクノロジー10のゆくえ』(週刊東洋経済) – Yahoo!ニュース

数十年前になされた未来予測を見ると、2020年の世界に住むわれわれは、月まで自在に観光旅行に行ったり、錠剤1つでがんを治したりできることになっている。一方、通信やゲーム、代金の支払いまでもこなす、手のひらに乗る機械の出現は、誰一人予想していなかった。技術予測は、かくも難しい。

気になる最先端テクノロジー10のゆくえ

……と、この記事は有料だったのだが、読んでみたらただの広告的紹介記事で、中身は軽薄だった。これ、有料にする意味ある? すげー損した気分。

しょうがないから、書籍の方を買った。
いつになったら宇宙エレベーターで月に行けて、 3Dプリンターで臓器が作れるんだい!?: 気になる最先端テクノロジー10のゆくえ

気になる最先端テクノロジー10のゆくえ Kindle版

邦訳版は、紙も電子ブックも3080円。電子ブックは安くして欲しいなー。
そして、原本の英語版(Kindle版)は440円。
邦訳は翻訳という手間がかかっているとはいえ、この価格差はなに?
そんなに売れる本ではないとは思うが、もうちょっと価格差を考えて欲しい気がする。

本書は442ページと長い。とはいえ、1ページ当たりの文字数は少ないのだが。
物理的スケールの大きなものから小さなものへと、カテゴリー分けがされている。
レビュー記事として長くなりそうなので、複数回に分割することにした。

最初は、Section 1の「宇宙エレベーター」と「小惑星採掘」について。

宇宙エレベーターの可能性は?

どうにも「宇宙エレベーター」という呼び方が嫌いだ(^_^)
SFファンとしては「軌道エレベータ」である。

軌道エレベータに関しては、過去記事でいくつか書いている。
ガンダムOO:軌道エレベータに関する間違い
軌道エレベーターの記事
軌道エレベーターの実現性は低い(1)
軌道エレベーターの実現性は低い(2)
軌道エレベータの実現性は技術的な問題よりも政治的な問題の方が大きい

とまぁ、私の過去記事に書いたようなことが、本書にも書かれていた。
なにか目新しいことを期待したのだが、あまりなかった。
ちょっと面白かった一節は……

「理論上、そして素材として言うと、カーボンナノチューブは十分に強くなりました……宇宙エレベーターにとってはです。しかし、地上では、ある強度以上を求める需要が存在しなかったので、カーボンナノチューブの繊維は、宇宙エレベーターが必要とする強度にはなりませんでした」

たとえ十分に長さのある繊維を得られたとしても、カーボンナノチューブには問題があることを、ダーレス氏はこう指摘している。「この素材は電気に非常に弱いので、もし落雷があった場合は、大部分が崩壊してしまうでしょう。幸いにも、これに対しては解決策がありますが、あいにくと、知性の面から見るとあまり満足のいくものではありません。太平洋上に、落雷があった記録が一度もない場所があるのです。ですから宇宙エレベーターはそこに設置すればいいと……。これが解決策です。ただ、嵐になったら、おおいに心配でしょうが」

落雷で破断というのは、面白い指摘。それは想像してなかった。
過去記事にも書いたが、技術的に未解決な問題があり、建設コストは超莫大になるのは必至だから、それを経済的な損得の思考で行おうとしたら、採算は取れない事業になってしまう。儲からない事業を、誰がやるのかってこと。

挿絵で笑ってしまったのがあった。

宇宙エレベーターの可能性は?

そうそう、その中間部分が問題なのだよ(^_^)b
軌道エレベータの設計にもよるが、アンカー部分も含めると4万〜10万kmに及ぶ、中間部分をどうやって建造するのか。

カーボンナノチューブを主材料に使うにしても、それ単体では軌道エレベータにはならないし、エレベータのカゴに相当する軌道ビークルを、どうやって走らせるのか。そのための付属構造物が必要なわけで、とてつもない超巨大構造物になる。建設費もさることながら、維持費も相当なものになると思われる。

過去記事で、軌道エレベータを建造するとなると、100年かかる事業だろうと書いた。膨大な資金と時間と労力をつぎ込んでまで、建設するだけのメリットがあるかどうか。サグラダ・ファミリアじゃあるまいし、「夢」と「理想」のためだけに建設を続けられるとは思えない。

あと、あんまり触れられないのだが、エレベータで静止軌道(約3万6千km)駅まで上がるのに、新幹線並みのスピードで登ったとしても、1週間かかるからね。つまり、乗客は1週間分の水と食料が必要となり、客室内で寝泊まりすることになる。しかし、垂直に登るエレベータで新幹線並みのスピードを出す技術も、現在はない。

軌道エレベータは理論的には可能ではあっても、実現させるには超技術が必要だ。加えて、軌道エレベータを巡る国同士の争いが起きないように、世界政府が樹立されるような未来でないと、難しいように思う。

小惑星採掘

これについても、過去記事で書いたな。
スペースマイニングは夢物語?
恒星間宇宙は遠い…

ホリエモンは小惑星でウランを採掘するなんていってたけど、貴金属よりも少ないと思うよ。
たとえある程度あったとしても、それを持ち帰ることは、さらに難しい。

本書では、以下のように書かれている。

宇宙で採掘を行い、その産出物を持ち帰ることで、地球で利益を得ることが本当にできるようになると、深宇宙の旅が、政府にしか行えないものから、トラック運送業と同程度のものへと変わることになる。安価な素材による経済的利益は信じられないほどになり、安く宇宙旅行ができることはますますいいものとなる。

そうはいっても、私たちが調べた範囲では、これは起こりそうにはない。全人類の人生を変えるものとして有力なのは、小惑星で見つけた資源を用いることによって宇宙で定住を始めることができ、太陽系探査のペースが劇的に上がるというくらいだ。

とにかく、最大の難関は「距離」である。
最寄りの小惑星までが遠すぎるんだ。
現在のロケットは、地球の重力圏から離脱するのに、大部分の燃料を使ってしまうため、そっからさきはたいした加速もできず、慣性で飛ぶしかない。無人機であれば、惑星の重力を使ったスイングバイの方法も採れるが、そのために回り道をしなければならず、余計に時間がかかる。片道数年かかるようでは、ビジネスにはならない。

結局のところ、人類が宇宙に進出して行くには、もっと強力で、低コストで、スピードの速い宇宙船が必要だってこと。
それは化学燃料ロケットではない。
エンジンのエネルギー源として、原子力か核融合か反物質か……という未来技術がなければ、月より先の宇宙に人間が乗った宇宙船が飛ぶことはない。

それが可能になるには、地球が平和で、環境問題を解決し、滅亡を回避できるとして、数世紀先の未来だろうね。
23世紀か24世紀か。
22世紀を外したのは、22世紀は環境破壊による滅亡の危機の世紀だろうと予想するから。それを乗り越えた先に、真の宇宙世紀がくるかもね。

「気になる最先端テクノロジー10のゆくえ」を読んで(2)に続く。

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