とあるニュース記事から、疑問に思ったので調べていたネタ。
「タバコの煙」 と 「車の排気ガス」は、どっちがより有害か?
Yahoo!知恵袋に、同様の質問があり、以下のような解答がされていた。
下記のリンクにある実験では、「エコディーゼル車を室内で30分アイドリングした場合」と「タバコを室内で30分燃やし続けた場合」を比較した結果、タバコのケースの方では粉塵濃度がエコディーゼル車のケースの10倍になったようです。
http://tobaccocontrol.bmj.com/content/13/3/219.abstract
この実験は、条件がタバコにとって不利だと思うね。
第一に、タバコを30分も吸い続けることは、普通はしない。
第二に、車1台を室内でアイドリングさせることはない。そもそもなぜエコディーゼルなのだ?
条件を同じにしているようで、非現実的な実験ではないか。
この実験室内(6〜8畳を仮定)に人がいたら、車の場合は一酸化炭素中毒で死ぬ。そのことを考慮に入れないのは不自然。
交通量の多い交差点を想定しよう。渋谷のスクランブル交差点だと、4〜7車線あるから、車用の信号が全部赤になると、普通乗用車から大型トラックまで、50〜100台くらいが溜まる計算になる。
信号停車が1分と仮定すると、少なく見積もって50台分の排気ガスが交差点に漂うことになる。
この場所、交差点のど真ん中でもいいが、喫煙者を1人立たせた場合、排気ガスとタバコの煙はどちらの量が多くなるだろうか?
喫煙者が1人では少ない?……では、5人、10人と人数を増やして、1分間の量を測定しよう。
そういう実験があるか?
残念ながら、ないんだよね。
1500ccのエンジンで、アイドリング時1000rpmとすると、1分間で750㎤の排気ガスが出る。
750㎤×50台=37,500㎤
と、1分間の排気ガスの総量。
1 回の呼吸で肺から出される空気流は、約 0.1 リットル/秒だという。1 分間に約 20 回の呼吸(5 秒に 1 回) だと、1分の空気流は2リットルということになる。このペースで、せっせとタバコの煙を吐く。しかし、こんなにせわしくプカプカは現実的ではないが、MAXの場合だ。
2リットル=2,000㎤
10人いても、2リットル×10人=20リットル=20,000㎤
量としては、排気ガスの方が圧倒的。
実験するのなら、このようなリアルな環境を想定しないと、比較するのに適切じゃない。
現実的な条件では、車の排気ガスの方が量は多い。そもそも大気汚染のスモッグを発生させるほど、大量の車から大量の排気ガスが出ているわけで、物量的に車の方が圧倒的じゃないか?
次の問題は、成分だ。
タバコの煙も排気ガスも、有害な成分を含んでいるが、その比較。
以下、「たばこの諸問題」より
平成12年排出ガス規制
走行モード | ガス成分 | 発生量 | 発生量/分 |
10・15モード排出ガス(g/km) | 一酸化炭素(CO) | 1.27g | 0.462g |
炭化水素(HC) | 0.17g | 0.062g | |
窒素酸化物(NOx) | 0.17g | 0.062g | |
11モード排出ガス(g/test) | 一酸化炭素(CO) | 31.1g | 3.89g |
炭化水素(HC) | 4.40g | 0.550g | |
窒素酸化物(NOx) | 2.50g | 0.313g | |
アイドリング時の排出ガス濃度 | 一酸化炭素(CO) | 0.01g | |
炭化水素(HC) | 300ppm |
【用語説明】
一酸化炭素(CO) | 無色、無臭、水に難溶の気体。大気中濃度 0.15~0.20%で吐き気が激しくなり、意識を失う。0.40%の場 合短時間でも吸引すれば生命が危険になる。1%を超えると6~7分で絶命 する。 |
炭化水素(HC) | 炭素と水素からできている化合物の総称。神経系や肝臓障害 をひきおこすため、「労働安全衛生法」で管理体制等が定められている。大 気中で拡散した炭化水素は、強い紫外線を受けてオキシダントを生成し、人 体や植物に害を与える。 |
窒素酸化物(Nox) | 刺激性があり、汚染が激しい地域で生活していると呼吸器障 害を起こすといわれている。酸性雨の原因物質の一つでもある。 |
10・ 15モードテスト |
主に都心部での走行をシャシダイナモ上で再現し排出 ガスを測定する方法。10及び15の走行パターン(アイドル、加速、 減速等)を組み合わせたもの。
所要時間:660秒 走行距離:約4km 平均速 度:22.7km/h 最高速度:70km/h
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11 モードテスト |
郊外から都心部に向かう車の走行状態を11のパター ンにしてシャシダイナモ上で再現し排出ガスを測定するもの。コールド スタートによりテストする。
所要時間:480秒 走行距離:約3.2km 平均 速度:30.6km/h 最高速度:60km/h
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ppm | 一定の空間あるいは容積内に、検証したい気体等がどのくら い含まれているかを100万分の1の値で示す濃度の単位。 |
マイルドセブン・スーパーライトの副流煙
条件: 8.75(回/本) 1回60秒
成 分 | 発生量/本 | 発生量/分 | 発生量/分(g単位) | |
一酸化炭素 | 45.5mg | 5.20mg | 0.00520g | |
水分 | 2.26mg | 0.258mg | 0.000258g | |
ニコチン | 総計 | 4.48mg | 0.512mg | 0.000512g |
タール | 総計 | 21.7mg | 2.48mg | 0.00248g |
カルボニル類 | ホルムアルデヒド | 423μg | 48.3μg | 0.0000483g |
アセトアルデヒド | 1789μg | 204.5μg | 0.0002045g | |
アセトン | 1023μg | 116.9μg | 0.0001169g | |
アクロレイン | 314μg | 35.9μg | 0.0000359g | |
プロピオンアルデヒド | 185μg | 21.1μg | 0.0000211g | |
クロトンアルデヒド | 62.7μg | 7.17μg | 0.00000717g | |
MEK | 210μg | 24.0μg | 0.0000240g | |
ブチルアルデヒド | 121μg | 13.8μg | 0.0000138g | |
ベンゾピレン | 112ng | 12.8ng | 0.0000000128g | |
窒素酸化物 | NO | 2030μg | 232μg | 0.000232g |
NOx | 71μmol | 8.1μmol | 0.0000081mol | |
シアン化水素 | 130μg | 14.9μg | 0.0000149g | |
アンモニア | 6923μg | 791.2μg | 0.0007912g | |
有機化合物 | 1,3-ブタジエン | 376μg | 43.0μg | 0.0000430g |
イソプレン | 2516μg | 287.5μg | 0.0002875g | |
アクリロニトリル | 104μg | 11.9μg | 0.0000119g | |
ベンゼン | 303μg | 34.6μg | 0.0000346g | |
トルエン | 618μg | 70.6μg | 0.0000706g | |
ニトロソアミン類 | NNN | 79.7ng | 9.11ng | 0.00000000911g |
NAT | 42.8ng | 4.89ng | 0.00000000489g | |
NAB | 9.37ng | 1.071ng | 0.000000001071g | |
NNK | 110ng | 12.6ng | 0.0000000126g |
……と、数字だけではわかりにくいかもしれないが、ようするに排気ガスはg(グラム)単位であるのに対して、タバコはmg(ミリグラム)、μg(マイクログラム)単位で、桁が違う。
有害物質の量も、排気ガスの方が多い。それは車のマフラーから出てくる排気ガスを見れば、感覚的にもわかる。特に、大型トラックの黒い排気ガスなんかは、タバコの比じゃない。
リスク評価の例として、タバコの害を説明する場合に、必ずといっていいほど出されるデータがある。
「10万人あたりの生涯のリスク」というやつだ。
この数字があちこちに引用され、一人歩きしていて、この数字の算出の元となった調査方法やデータの分析方法については、まったく触れられていない。
10万人中、5万人が喫煙で早死にする???
よくよく考えてみたら、これはとんでもない数字だ。こんなに死亡率が高いのに、喫煙率の高い日本の平均寿命は世界一だったりする。この矛盾はなに?→(追記)
調べてみると、別のデータもあった。
厚生省保健医療局地域保険・健康増進栄養課
たばこの依存性と有害性
右列にあるのは、前述の「10万人あたりの生涯のリスク」のデータ。
左列は、アメリカにおけるデータ。こちらは年間死亡リスクではあるが、能動喫煙がトップなのは同じだが、受動喫煙が飲酒や交通事故よりも少なくなっている。
古いデータなので、現在は喫煙者が減っているとは思う。
死因を特定するのに、喫煙が主因だと断定できるケースが、どれほどあるのか?
排気ガスと受動喫煙を死因から区別できるんだろうか?
単純な比較はできないものの、データの根拠に疑問符がつく資料ではある。
かといって、喫煙を擁護しているわけではない。
タバコは吸わないにこしたことはない。
ただ、闇雲にタバコの悪を強調する一方で、排気ガスのリスクはあまりいわれないことに疑問を感じる。禁煙や分煙が浸透してきて、受動喫煙で煙を吸うことは少なくなったかもしれないが、車の排気ガスは毎日気づかずに吸っている。都会に住んでいれば、なおさらだ。
タバコには敏感なのに、排気ガスには鈍感というのは、偏ったリスク感覚なのではないだろうか?
(追記)
10万人中、5万人が早死にする場合についての、考察。
早死にというのが、何歳までに死ぬのかの定義がされていない。
日本人の平均寿命は2016年調査で、女性87.14歳、男性80.98歳となっている。男女を合わせた平均は、約84歳。
早死にを60歳と仮定すると、平均寿命84歳を達成するためには……
長生きする5万人が、108歳まで生きなくては達成できない。
早死にを70歳と仮定すると、平均寿命84歳を達成するためには……
長生きする5万人が、98歳まで生きなくては達成できない。
このように考えると、早死率50%というデータが、怪しいデータに思えてくる。