貧困層だけでなく、富裕層ではない貧乏層もツライ

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 ちょっと涙が出てしまうような記事。
 貧乏の辛さは、貧乏を経験してないとわからない。

いま、学校で(2) 制服買えず入学式欠席 – 西日本新聞

 3年前の春、九州北部のある公立中学校。入学式に新入生の陽介(仮名、12)の姿はなかった。2日目も、3日目も。母親は電話で「体調が悪いから」と説明するばかり。ぴんときた担任教諭は学校指定の制服業者に電話した。

「ああ、その子、受け取りに来てませんよ」

採寸して注文はしたが、約3万5千円のお金がなくて取りに行けず、登校させられなかった-。母親は、そう打ち明けた。

(中略)

「義務教育は、これを無償とする」。憲法26条はこううたうが、実際は公立校であっても保護者の負担は重い。

 この「子どもに明日を」の連載記事は、過去の記事を読んでも目が潤んでしまう。
 私も昔、極貧の時期があったので、貧乏の辛さ、お金がないことの惨めさは身に染みている。貧乏になると考えることの視野が狭くなり、将来のこととか、計画的になにかをするとか、そういう建設的な発想ができなくなる。近視眼的に目前の問題をなんとかすることしか見えない。それは、限界まで切り詰めた食費の中で、今日、なにか食べたい……とか、そういうことだ。明日のことまで考えられず、いま、この空腹をなんとかしたいと思うのが精一杯になる。

 「貧困」の定義には、絶対的貧困相対的貧困があり、日本で問題にされるのは相対的貧困の方だ。
 日本では、等価可処分所得(つまり手取り収入)の中央値の半分を「貧困線」として、貧困層の境界線になっている。
 その所得額は……

貧困率の状況
平成24年の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は122万円(名目値)となっており、「相対的貧困率」(貧困線に満たない世帯員の割合)は16.1%となっている。また、「子どもの貧困率」(17歳以下)は16.3%となっている。

 ……と、平成24年(2012年)で122万円。これって、昔(若かりし頃)、私がアニメーターをやっていたときの年収よりは多い。アニメーターは貧困層だったのだ。
 では、123万円だったら貧困層ではないのか?
 統計上の線引きとしては、貧困線より上なので、貧困層ではないということになってしまう。ある基準線を境に、扱いが変わってしまうのは理不尽な話。1万円の違いでは、たいした違いはないにもかかわらず分けられてしまう。

 また、中央値の244万円でも貧乏だろう。この額は平均値ではなく、中央値だというのがポイント。平均値では桁違いの高収入の人が少数でもいると高くなってしまうが、中央値では低所得の人が多いと低い方にシフトしてしまう。このような分類をするときには、最頻値による多くの人が属する階層で算出した方がいいように思う。
 どこかで線引きは必要なのだが、この線引きには疑問を感じる。

 貧困層が含まれる「低所得層」という呼び方もある。
 その定義は……

低所得者の年収(基準や定義)を徹底解説します! | 給料BANK

現在、低所得者と言われている基準で最も簡単なのは年収が全て合わせて300万円以下だと言われています。
300万円と言うと、「そんなに低所得では無いのでは?」と感じるかもしれません。
ですが、この年収は全て合わせてなので、税金等を引くともぅと少なくなってしまいます。
年収300万円から税金等を引いていくと、手元に入ってくる金額はいくらになると思いますか?
実は、約200~250万円になってしまうのです。
毎月に換算すると約16~20万円になってしまいます。

 ……というのが、目安のひとつなっている。ただし、この線引きは明確なものではない。論じる人によって線引きは変わる。
 若者の単身であれば、手取り月収20万円でもなんとか食っていけるが、夫婦や子どもがいたらかなり厳しくなる。都市部で、世帯収入として手取り年収200~250万円はギリギリの生活だ。田舎で家賃や食費が安くなるところは、いくぶん余裕はあると思うが。

 低所得層は、たんに収入が少ないだけでなく、少なからず借金もあると思う。それは生活のための借金であったり、学業のための借金だったりする場合もある。
 関連して、NHKのドキュメンタリー番組の『NEXT 未来のために「“それでも学びたい” 奨学金に揺れる母と娘』」(2016年2月18日放送)で、大学進学のために奨学金を借り、その返済に追われる人たちを取り上げていた。
 取材対象となった母娘は、世帯収入300万円ということで、前述の低所得層に該当する。娘ふたりは奨学金で進学することはできるが、卒業して社会人となった瞬間から、500~600万円の借金の返済を始めることになる。返済期間が20年と長いとはいえ、よほどの高給の職につかないかぎり、新卒の給料では厳しいだろう。
 貧乏が貧乏を呼ぶ。そこから抜け出すのは容易ではない。貧困線を下回る層は、生活保護などの公的支援を受けられるが、貧困層ではないが低所得層に属する人たちは、自分でどうにかするしかない。世帯年収300万~400万円の層は、セーフティーネットから漏れてしまう状況に陥ることもある。
 この世帯年収300万~400万円の層の呼び方はないのだが、仮に「プレ貧困層」と呼ぼう。このレベルを保てればいいが、ここから滑り落ちると貧困層になってしまうという意味だ。

 贅沢をするわけでもなく、生活費を切り詰めていても、公共料金等を払えなくなるときがある。電話、電気、ガス、水道は毎月ほぼ一定の料金が発生する。それらはライフラインともいわれるが、文字通り生活の基盤となる命綱だ。
 それらは、滞納が一定期間続くと、容赦なく止められる。止められるということは、ライフラインの会社に命綱を切られてしまうことを意味する。

 大げさな言い方をすれば、「段階的死刑宣告」に等しい。
 ライフラインを止められ、餓死したり熱中症で死亡したりといったニュースは、ときどき流れている。ニュースになっているのは目立った事例だけで、実際には頻繁に起きていると思われる。
 以前書いた記事で…… 

貧乏は視野と思考を狭くしてしまう

 ……で、そのことに触れている。
 ライフラインの料金を払えないと、電話、電気、ガス、水道と、この順番に止められるのだが、これはそこの住人の貧困レベルのシグナルだ。4つともシグナルが点灯すると、死に至る危険性が迫っていると考えていい。しかし、それぞれは別会社であり情報の共有はしていないし、自治体もそこまでの把握はできない。命綱を握っているそれぞれが、勝手にそれぞれのマニュアルを実行しているだけ。その結果どうなるかなどは、配慮しない。見ているのは、そこに住んでいる「人」ではなく、回収すべき「金」なのだ。

 前述の「プレ貧困層」を苦しめる一因のひとつが、国民健康保険(国保)の保険料だったりする。
 この件に関して、赤旗が取り上げていた。

主張/高すぎる保険料/命を危機にさらす事態打開を

「皆保険」が機能不全に

「滞納」の背景にあるのは、負担能力をはるかに超える高い国保料(税)です。年間所得250万円の自営業4人家族が支払う国保料が年40万~50万円にもなる例が続出しています。これだけの負担額はあまりに過酷です。

(中略)

乱暴な差し押さえやめよ

国保料の「滞納」を理由にした市区町村による財産などの差し押さえが昨年、約28万件と過去最多となったことも重大です。滞納分を「分納」している人の銀行口座までいきなり差し押さえるような乱暴なやり方が各地で批判を浴びています。滞納者の事情を考慮もせず、生活をさらに困窮させるような容赦ない機械的な差し押さえは、絶対にやめるべきです。

 共産党を支持するわけではないし、彼らの主張は「それは違うだろう」と思うことが多いのだが、この件に関しては支持する。
 国保は、自営業やサラリーマンではない人が入る保険というのが一般的な認識だが、そうでもない。会社の規模が小さく、中小企業のうちの「小」の方の会社では、社会保険に入っておらず、国保に入らざるをえない場合も多い。
 本来、社会保険(厚生年金・健康保険)は、法人であれば加入することが義務づけられているが、小企業の場合、折半する保険料を払う余裕がない(あるいは払いたくない)ために、従業員には国保に入るように促される。
 私の勤めている会社もその口だ。
 この件についての関連記事として……

厚生年金の未加入企業 きめ細かな相談と効果的対策を | ニュース | 公明党

厚生年金への加入義務のある企業が、未加入のまま保険料を納めていない事態を改善する動きが出てきた。

日本年金機構が、従業員に代わって所得税を納税している企業(約250万社)のデータを国税庁から初めて入手して調べたところ、厚生年金の未加入企業は約80万社に上ると推定された。

そこで、厚生労働省と同機構は、今年度から3年間かけて対象企業に加入への周知を徹底するほか、調査活動や指導を行っていく。保険料の負担能力があるにもかかわらず、加入に消極的な姿勢を取る企業などには、強制加入を求める方針だという。

厚生年金は、全ての企業(法人事業所)と従業員5人以上の個人事業所が加入しなければならない。労使が折半して保険料を納めるが、経営体力の弱い中小零細企業の中には、保険料負担を避けるために加入していない企業も少なくない。当初は従業員が1人だった個人事業所が、従業員の増加に伴う年金加入の必要性に気付かずに長年放置しているケースもある。給与から天引きした保険料を国に納めていない可能性もあり、未加入の事情はさまざまだ。

 ……というのがある。この記事では、厚生年金を問題にしているが、社会保険として健康保険もセットなので、厚生年金に加入していない会社は健康保険にも加入していないと思っていい。
 そういう会社(つまり、ブラック企業もしくは濃いグレー企業)に勤めている人は、国民年金や国保に入ることになる。国保の保険料は度重なる値上げで、けっこうな負担になっている。「プレ貧困層」は、それを払えなくなってしまうことがある。
 国保の保険料は、各自治体レベルで決められるので、全国一律の料金体系にはなっていない。自治体によって料金格差がある。

国民健康保険料 高い自治体(市、区) ランキング

国民健康保険料 高い自治体 ランキング 年収400万円(単身、介護保険未加入)の場合

国民健康保険料 高い自治体 ランキング

国民健康保険料 高い自治体 ランキング

 最安と最高で2.18倍の格差がある。
 私は東京都だから35万円弱になるが、月割りすると2万9504円……なのだが、このデータはちょっと古いかな。現在はもう少し高くなっている。
 お恥ずかしい話をカミングアウトするが、私も国保の保険料を払えなくなり、給料を差し押さえられたことがある。払えない事情を区の「国保せいり係」の人に、生活がカツカツであること、私の安月給で夫婦二人が生活するには、3万円弱の保険料は捻出できないと説明した。
 しかし、容赦なく差し押さえられた。その額は、月々15万円。
 妻は健康上の理由(糖尿病などの持病)からまともには働けないので、私の収入イコール世帯収入なのだが、手取りで30万円そこそこの安月給。つまり、給料の半分を持って行かれたのだ。手取り年収360万円が、180万円になった。
 「プレ貧困層」から、一気に貧困線に近くなってしまったのだ。
 崖の縁でなんとか踏ん張って生活していたのに、後ろから突き落とされたようなもの。

 もとより生活費は切り詰めていたのだが、さらに切り詰めなくてはいけなくなった。まっ先に削るのは食費だ。1日1000円にしていた食費(2人分)を500円にする。給料日前でいよいよ金がなくなると、ごはんを茶碗一杯に卵1個の、卵かけご飯で済ませる。それが1日分の食事だ。
 これはツライよ。腹はいつも空腹で、グーグー鳴ってしまう。だが、食べるための金がないから堪えるしかない。ライフラインの料金も支払いが滞るようになり、督促状と供給停止の連絡が、毎月来るようになる。その支払いのために、持ち物で売れるものは売ってしまう。本とかCDとか家電とかだ。売るものがなくなると、今度は借金をしなてはいけなくなる。クレジットカード会社や消費者金融から借りる。だが、借金の返済が追い打ちをかける。負の連鎖は止まらなくなってしまう。

 夫婦二人で生活費としてどれくらい必要かという、以下のようなモデルケースがある。

老後の生活費26万円、貯蓄額2144万円 [定年・退職のお金] All About

老後の生活費、費目別に見るといくら?
総務省の「家計調査(二人以上の世帯)」平成27年5月分によると、無職世帯(セカンドライフ世帯が多く含まれます)の支出は次のとおりです。

●支出総額 26万7803円
<内訳>
・食費 6万7169円
・住居 1万5524円
・水道光熱 2万1286円
・家具、家事 9999円
・被服費等 8038円
・保健医療 1万3446円
・交通通信 2万5857円
・教育 537円
・教養娯楽 2万6522円
・その他 5万437円
(その他-理美容、交際費、嗜好品、諸雑費など)
・税金 社会保険料 2万8990円

 この中には、借金の返済が入っていないが、借金のない人は少ないのではないだろうか?
 都会だと家賃などの住居費がかなりの部分を占めるので、被服費、教養娯楽、その他を削っても、27万くらいには収まらない。貯蓄があればまだいいが、「プレ貧困層」は貯蓄に回す金もない。その金があれば、保険料は払える。

 国は格差是正や貧困対策を政策として打ち出すが、低所得層の現実では、公的機関である国保が「プレ貧困層」を貧困層に追い詰めている。まるで貧困ビジネスだ。
 こういうことを書くと、「払わないのが悪い。自業自得」といった批判が出てくるのだが、払いたくなくて払わないんじゃない。払う余裕がないんだ。

 健康保険は、皆保険ではなく必要な人だけが入る任意でいいと思う。どのみち、保険料を滞納すると保険証は無効にされ、無保険状態にされるので、病院に行く必要があったとしても治療費は払えないから行かない。保険証があったとしても、国保は3割自己負担だから、仮に1万円の治療費だったとしたら3000円は払わなくてはいけない。3000円は私の感覚では、3日分の食費。それすらも節約したいと思うのが、プレ貧困層貧困層だ。保険の恩恵を受けることはあまりないので、なくても困らない。

 なにがなんでも皆保険で、保険料は厳しく取り立てる……というのであれば、その支払い方法に生命保険の死亡保障を当てる「死後払い」というのはできないのだろうか?
 生命保険で死亡保障が1000万円の場合、調べてみると月々の掛金が5000円ちょっとくらいのものがある。3万5000円は無理でも、5000円なら捻出できると思う。保険金の受け取りは、2親等ないし3親等までに限られているが、そこに国保などの公的機関を加えられるようにすれば、被保険者が死亡したとき、保険料に相当する金額を回収できるだろう。国保の年間保険料が50万円としても20年分、30万円だと33年分だ。国保としては悪くない話ではないか?

 余談になるが、以前、国保や税金の滞納金を取り立てる人たちの、情報交換の掲示板があった。現在はなくなったのか、完全にクローズになってしまったようで見ることはできないのだが、そこに書かれていた本音カキコはかなり衝撃的だった。
 出典を示せないので、私の記憶にあることだけだが……

「金が払えないなら、さっさとシねーー」
「今月は、○人自殺に追い込んだぜwwww」
「くたばる前に、金払えよ」

 ……等々、自慢話のような罵詈雑言があふれていた。彼らは金を取り立てるのが仕事だから、相手の事情などどうでもよくて、いくら回収できるかで仕事の評価をされるのだろう。本音なのか、うっぷんばらしなのかはわからないが、そういう感覚があるのだと思う。
 私に対応してくれた国保せいり係の人も、どことなく高圧的で見下したような物言いをしていた。公務員の彼らからしたら、払えないヤツが悪いというのも、わからないではない。公務員は社会保険でも恵まれているから、それで苦労している人の気持ちなどわかるわけがない。

 貧乏なのがツライのではなく、貧乏であるがゆえに周囲から追い詰められるのがツライんだ。
贅沢をしたいとは思わないし、そこそこ食べていけて、夫婦や家族が笑顔でいられる生活をしたいだけ。健康保険はなくてもいい、病院に行けなくてもいい、今あるささやかな平穏な時間を過ごせればいい。
 夫婦二人で1日1000円の食事をすることは、許されないのか?
 国保の人にいわせると、許されないようだ。

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