ときどき出てくる宇宙エレベータの話題

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 当ブログで度々取り上げている「宇宙エレベータ」だが、周期的にネット記事に出てくる。繰り返しになる部分もあるが、問題点というか盲点を指摘しておこう。

宇宙と地球を3万km超のチューブでつなぐ…大林組が「25年で建設可能」とする宇宙エレベーター構想 宇宙開発に挑んでいるのは米中企業だけではない | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

人類はなぜ月を目指すのか。宇宙ビジネスコンサルタントの齊田興哉さんは「食糧危機や自然災害、地球上の災厄から逃れるためと言われているが、それだけとは思えない。宇宙は、新しい発見、ビジネスの可能性に満ちている」という――。

(中略)

大手ゼネコンが夢見る宇宙エレベーター

「宇宙エレベーター」をご存じだろうか。その名の通り、宇宙へとエレベーターを使ってアクセスするテクノロジーだ。SF映画『ジオストーム』でもそのシーンは描かれている。宇宙とはロケットで行くもの。そんな常識を壊す広大な構想に果敢に挑戦し続ける企業がある。それは、日本のスーパーゼネコンの大林組だ。

大林組が構想する宇宙エレベーターでは、静止軌道と地球上をケーブルで結ぶ。このケーブルを通じて、人や物資を宇宙へと輸送するのだ。

大林組は宇宙エレベーターを次のような建設方法で検討している。まず、低軌道である高度300km付近に宇宙船を建設する。この宇宙船はロケットで打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)のように組み立てられて大型化していく。次に宇宙船は高度を上げ、静止軌道へと上昇する。宇宙船は、静止軌道からケーブルを地表に向けて垂らしながら、さらに高度9万6000kmまで上昇する。ケーブルは、地表面のアース・ポートに接続される。

9万6000kmかなたの宇宙へと伸びるタワー「宇宙エレベーター」

9万6000kmかなたの宇宙へと伸びるタワー「宇宙エレベーター」

このケーブルにクライマーを設置し、クライマーによってケーブルを補強していく。クライマーとはケーブルに沿って移動し、さまざまな輸送・建設作業を実施するロボットだ。そして、このケーブルをつたって、建材や物資を輸送しながら、静止軌道に宇宙ステーションを建設するのだ。これによって、地上から静止軌道まで物理的に繫がれた輸送システムが構築されたことになる。

「課題」さえクリアできれば、実現まで25年

現在までに、宇宙エレベーターの実現にはさまざまな課題がある。

地球上の建築物で最も高いブルジュ・ハリファ内のエレベーターとはわけが違う。これだけの高度を確実に上れる前人未到の技術が必要になるのだ。

ケーブルには、強度が高いカーボンナノチューブ製のものが検討されているが、これだけの長距離のものを作り上げる技術はなく、宇宙放射線への耐性確認など、宇宙環境に耐えうるものなのかについての研究を進める必要がある。クライマーも開発しなければならない。

ほかにも課題はあるが、これらの課題がクリアできれば、アース・ポートの建設に着工してから25年の年月で建設可能だという。予算についての言及はない。この宇宙エレベーターの実現について、専門家の間では「不可能だ」「実現はもっともっと未来だ」などという悲観的な意見もある。

静止軌道ステーション外観

静止軌道ステーション外観

 前半はアルテミス計画に関連したことで、後半に宇宙エレベータの話題になっている。

 私の過去記事で指摘したことは以下に。

 記事の冒頭で、

「食糧危機や自然災害、地球上の災厄から逃れるためと言われているが、それだけとは思えない。宇宙は、新しい発見、ビジネスの可能性に満ちている」

 と、あるのだが、「地球から避難するために宇宙に出ていく」というのは、得策ではないというか、それを可能とする技術的・経済的な壁が大きすぎる。
 スペースコロニーにしろ、月に建設する都市にしろ、ゼロから環境を作り上げなくてはならず、そのような超巨大プロジェクトは技術的に難しく、莫大な資金が必要になる。そんな難しいことをするよりも、現在の地球環境を改善する方が簡単だし、コストも宇宙に出ていくのに比べれば安上がりだろう。

 単純に考えて、現在の人口の80億人のうち、食料危機で飢えている人口が8億人もいるとされているが、その8億人が宇宙に移民できるようなスペースコロニーや月面基地を建造できるのか?
 それにかかるコストはどのくらいなのか?
 以下のような試算をしている記事がある。

Space Elevator ☆宇宙への架け橋☆

宇宙エレベータを使った旅行の一番の利点は、費用が安いということだ。

宇宙エレベータを使った宇宙旅行の料金は地球低軌道でディナーを楽しむツアーが2万ドル日本円で200万円、月面に数日間滞在するツアーが100万ドル日本円で1億円程度になる。

 宇宙エレベータが完成したとしよう。
 それでも月まで行くのに、ひとり1億円だ。片道だとしても5千万円。飢えている人が5千万円を出せるはずもない。政府や国連が救済として8億人を移住させるには、40,000,000,000,000,000円(4京円)がかかる計算だ。そんな金を誰が出すんだ?(^_^)b
 4京円の金があるのなら、荒廃した地球環境を再建するために使う方が、ぜったいに有効だ。宇宙に移民させるメリットは低いんだ。

 また、「新しい発見」はあるだろうが、ビジネスの可能性については疑問符が付く。
 SpaceXが民間企業としてロケットを飛ばしていられるのは、顧客としてNASAが金を出しているからだ。NASAとはつまり政府機関。NASAは科学的探究心を根幹として宇宙開発をしているから、採算は度外視。SpaceXは儲かっても、NASAは税金を食い潰すだけ。予算を削られるのは、金のかかる宇宙開発が財政赤字の一因でもあるからだ。

 NASA抜きで、SpaceXが単独で収益を上げられるかどうか。他の民間宇宙企業が、NASAやJAXAの請負なしで、儲けることができるかどうか。
 コストが下がったといっても、海運で日本からアメリカまで貨物を運ぶのに比べたら、まだまだコストは高い。そのコストに見合うだけの資源が、宇宙(月や小惑星)にあるのかどうか。
 ちなみに、海運での40フィートコンテナ(最大積載量は約3トン)の輸送費の目安は8万円~30万円だという。宇宙への輸送費がこのくらいにならないと、ペイしないのでは?

 記事中にも書かれているが、

  • 9万キロに及ぶカーボンナノチューブのケーブルを作る技術がない。
  • ケーブルが宇宙環境に耐えられるかどうかも未知数。
  • そのケーブルを昇るクライマーもない。

 と、ないないづくしなのに、25年で建造可能という根拠が不明だ(^o^)

 多くの宇宙エレベータ記事で抜けているポイントなのだが、静止軌道の3万6千キロまで上がるのに、新幹線並みの時速200kmで走ったとしても、1週間かかるということ。
 1週間、エレベータ内で飲み食い排泄して宿泊することが考慮されていない。新幹線で品川から新大阪までは、距離にして556.4km、時間は2時間16分だ。このくらいで行く感覚で、宇宙エレベータを考えてないか? そこが大きな勘違い。

 前にも書いたと思うが、いまだ未開発の技術を前提にして、25年で建造できるとか、無責任なことをいうなよ(^_^)b
 建設中のリニア新幹線は、30年経った現在でも完成していないぞ。宇宙エレベータよりは、簡単なはずなのに。

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