「気になる最先端テクノロジー10のゆくえ」を読んで(5)

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「気になる最先端テクノロジー10のゆくえ」を読んで(4)の続き。

プレシジョン・メディシン(精密医療)

プレシジョン・メディシン(精密医療)

プレシジョン・メディシンを端的にいえば……
「素早く、正しい診断で、最適の治療を施す医療」
ということかな。
そのための未来の医療だ。

ありふれた病気であれば、診断しやすいし治療薬も有効だろう。
とはいうものの、風邪薬は風邪のウイルスに効くわけではなく、出てきた症状を緩和させるだけなのだが。新型コロナで大騒ぎの現在だが、普通の風邪にもワクチンは存在しない。

ある症状があり、病院に行っても、なにが原因かわからないことがある。それを診療するのが、総合診療科だったりするのだが、類似した症状から真の原因を突きとめられる名医は少ない。数少ない名医が診察できる患者の数は、どんなにがんばってもそんなに多くはならない。名医に巡り会えない人は、何が原因かわからず、根本的な治療ができないことになる。

医療が進んだ現在でも、いろいろと運が左右するという意味では、タロットカードの占い的でもある。
いい医師に治療してもらえるかどうか。
診断が正しいかどうか。
治療法が適切かどうか。
薬が効くかどうか。
闘病の末、病気が治るかどうか。
一か八かみたいところがある。

そうした問題を解決しようというのが、プレシジョン・メディシンだ。
プレシジョン・メディシンは、DNA情報や体内の化学物質の情報、さらには個人の行動履歴の蓄積データから、兆候を読み取り、早期に解決方法を提供するという。

ある人がインスタグラムに投稿した写真の色合いや明るさによって、その人が落ち込んでいるかどうかを予測できると突き止めた。落ち込んでいる人が投稿したインスタグラムの写真は青色や灰色が多くなる傾向にあり、そうでない人が投稿したものよりも全般に暗くなりがちだったという。こういった規模の大きな情報を、かなり繊細な大量のバイオマーカーに加えることで、精神的な問題を抱えている人に対する分類や治療の向上につながるかもしれない。

(中略)

つまり、プライバシーの問題が多少存在するものの、あなたに関する正確な情報──読んでいる本や運動の程度から、尿に含まれる分子の量まで──を得ることが、自分の現在の健康問題を知り、今後抱えるかもしれない健康問題を予測する手段となる日が来るかもしれないのである。

インスタで精神的な問題を見抜かれるのは、イタイ話。
でも、インスタ映えとかいって、見栄を張ってる人たちもいるわけで、その映えにも精神状態が出てくるのかな?

この章で取り上げられていることは、すでにある程度実現していることも含めて、わりと近未来……10〜20年以内には実現できそうなことだ。

ただし、著者も指摘しているが、問題はコストだ。
多くの人が患う病気であれば、量的なコストは下がるが、ごく少数の難病の場合にはコストは高くなる。技術的に可能でもコスト的に難しいというケースは出てくる。コストと命を、天秤にかけなければいけなくなる。

なぜ、プレシジョン・メディシンが必要とされているかというと、人は少しでも長く生きたいのだ。
私は、そうは思わないが。

日本人の平均余命は80歳を超えているが、人間の生物的な本来の寿命は30歳くらいだという。30年で世代交代できるように、15歳前後から生殖できるようになり、20歳くらいで体は成長を終える。15歳で出産すれば、親が30歳で死んでも、子供は15歳になっていて、子孫を残せる年齢になっている。ホモサピエンスとしての初期の時代、人生は30年で終わりだった。

ほんの150年ほど前、明治時代の平均寿命は44歳くらいだった。もっと前の江戸時代は30~40歳だったとされている。長生きする人がいないわけではなく、乳幼児の死亡率が高かったのだ。平均寿命が50歳を超えたのは、戦後の時代になってからで、比較的最近のこと。つまり、高齢者が少なく、親は早くに亡くなるから、認知症や親の介護などは問題にならなかった。

生物としての人は、ケガをしたときの自己修復機能や、感染症に対する免疫機能を持っているが、効力は限定的だ。大けがをすれば致命傷になるし、感染症が広がれば死ぬ者も出てくる。それは自然淘汰でもあるのだが、人は意図しない淘汰に逆らう。

事故で足を切断されても、足を再生できるとか。
どんな感染症でも、免疫で太刀打ちできなければ、体内のナノマシンがウイルスを駆除するとか。
老化で衰えた細胞を、新しい細胞で置き換えるとか。
長生きするための、未来の医療。

老化はDNAに書き込まれたプログラムともいわれるが、それを書き換えて20代の頃の新陳代謝をずっと維持できれば、老化することなく長く生きられる。
たぶん、究極の目標は不老長寿なんだろうね。

バイオプリンティング

3Dプリンターで、人体の一部や臓器を印刷する、というのがバイオプリンティング。
前章とも関連しているが、なぜこの技術が必要かというと、損傷したり機能が低下した体のパーツを、移植で補うためだ。

なぜ移植が必要かといえば、体の持つ自己修復機能では再生できないほどの損傷や劣化になっているからだ。

禅問答のようになっているが、これも長生きするためだ。

臓器移植は、生体肝移植などを除けば、基本的には死んだ人の臓器を取り出して移植する。
壊れた臓器を、中古ではあるが使える臓器と交換する。
バイオプリンティングは、新品の臓器を作れるようにするかもしれない。

 こういったあらゆる特色があるので、3D印刷は非常に複雑な構造のもの──人体の一部など──を作るすばらしい方法になる可能性を秘めている。3Dプリンターは原理上は、実際に機能する人間の臓器を構築するのに必要な、適切な細胞、タンパク質、化学物質、処置、それに構造要素を、すばやく作り出せるはずなのだ。
そのうえさらに、3Dプリンターはそれぞれの患者に合わせて製品を作ることも可能である。これは便利だ。身長が1.5メートルの女性と2メートルの男性に必要な心臓は、同じではないからである。

と、文中でも「原理上」という注釈付き。
アニメキャラのフィギュアを3Dプリントするのと違って、臓器は3Dであるだけでなく、内部は極めて複雑な構造になっている。それをプリントできるのかどうか。
特に難しいのは、内部が中空の血管だという。

また、生きた細胞を素材とするため、プリントして完成した臓器が、生きていて機能しないと意味がない。原理上、可能であっても、実現するのはかなりハードルが高いと思う。ただし、非常に薄いもの……例えば角膜などは、比較的可能性は高いらしい。

バイオプリンティングが発展するかどうかは、前述した体の組織の再生能力を外部からコントロールできるかどうかだろうね。再生能力をコントロールできれば、劣化した臓器を再生させればいいので、臓器をプリントして移植する必要はなくなる。

バイオプリンティング技術よりも、再生能力のコントロールの方が、明るい未来だろうね。

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「気になる最先端テクノロジー10のゆくえ」を読んで(6)に続く。

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