「気になる最先端テクノロジー10のゆくえ」を読んで(6)

「気になる最先端テクノロジー10のゆくえ」を読んで(5)の続き。

脳-コンピュータ・インターフェース

脳-・インターフェース

著者が10番目に挙げたのが、脳とコンピュータのインターフェース。
これはARやVRにも関連した技術だが、実現できそうでできそうにない技術でもある。

脳とコンピュータを直結するためのインターフェースは、W・ギブスンの「ニューロマンサー」、アニメ「ソードアート・オンライン」や「攻殻機動隊」の世界では、物語の根幹をなす技術だ。
問題は、それが可能なのか?……ということ。

その試みはいろいろと行われているが、成果は限定的だ。
本書の一節を拾うと……

このような種類の脳の読み取り器で得たデータが特によいのは、特定のニューロンやニューロンの小集団レベルで起きている電気的なことについて教えてくれる点である。大きなマイナス点は──脳に刺されることは大きなマイナス点ではない──品質の劣化だ。
脳内に置かれた検出器は品質が急激に劣化しがちだ。これは想像できるように、金属やケイ素が突き刺さることを、脳が望んでいないからである。このハードウェアを入れると、脳は免疫反応を起こして、最終的には瘢痕組織の神経版のようなもので異物を包み込んでしまう。1年か2年で、電極の半分以上からの信号が途絶えるだろう。

(中略)

理想的な脳-コンピューター・インターフェースなら、脳全体に関する詳細なデータが得られるべきだ。実はこれに関して、「ニューラルダスト」というものが提案されている。小さなセンサーを脳のいたるところに取り付けるというものだ。これはなかなかすごい。最初に試すのが自分たちでなければだが。

(中略)

本書で取り上げたすべてのテクノロジーのなかで、最も予測のつかない影響をもつ装置は、完成した脳-コンピューター・インターフェースだろう。核融合炉が造られても操作するのは人間であり、宇宙エレベーターの場合も、それに乗って軌道へ向かうのは人間だ。だが、脳がコンピューターとつながって、両者がお互いを変えることができるようになると、自分たちがずっと認識してきた人間ではなくなる。それは終わりであり、始まりでもあるだろう。

アイデアはいくつか出ているが、どれも決め手にはなっていない。
その理由は、脳はどのようにして「思考」しているかがわかっていないからだ。

いま、こうして私が文章を書いているのは「思考」しているからだが、その思考の仕組みがわからない……というもどかしさ。脳の働きであることは間違いないが、脳細胞やシナプスがどのように働いているのかわからない。いわばブラックボックスだ。

このテーマは過去記事にもいろいろ書いてきたが、脳とコンピュータでは計算の仕組みがまったく違うため、相互に互換性がないということ。

コンピュータは2進法だが、脳は2進法ではない。脳の中に電気信号を発生していることはわかるが、単なるON-OFFではないし、化学物質による信号もあり、とにかく複雑。脳細胞をバラバラに分解しても、コンピュータでのデータに相当するものは見つからない。

脳とコンピュータでは、データの互換性がない。
プロトコルの違いという単純なことではなく、データの記述方法そのものが違う。
考えていることを文字として書くことができるのは、脳が文字に翻訳しているからといえる。しかし、文字は思考のすべてを表現できるわけではないので、ほんの一部、断片を翻訳しているだけだ。

脳細胞単体では機能せず、脳全体として「意識」が発生している……らしい。意識の断片が脳細胞に存在しているわけではないのだ。
脳は、きわめて不可解な器官ということだ。

脳から情報を取り出すために、脳波を検知したり、血流量を追跡したりする。
しかし、それは脳から出ているノイズを拾っているだけで、情報そのものではない。

たとえば、テーブルの上に炊飯器があるとしよう。この炊飯器が脳だ。炊飯器には小さなコンピュータが内蔵されている。その情報をどうやって取り出すか。
電気製品は、少なからず電磁波を出す。その電磁波を検知するか。
炊飯器から出る熱を測るか。
情報の入出力のための端子がないから、炊飯器の外部から、発せられる電磁波や熱で、その情報を探る。この方法で、内蔵されているチップからデータを取り出せるだろうか?
これが、現在の脳からの情報の取り出し方だ。

炊飯器にプログラムを書き込む装置はあるから、それがあれば情報は取り出せるし書き換えられる。脳には、その装置……インターフェースがない。

ソードアート・オンラインでの設定は、以下のように説明されている。

VRマシン
「完全ダイブ(フルダイブ)」を可能とするVR技術を搭載したマシン。ユーザーの脳に直接接続して仮想の五感情報を与え、仮想空間を生成する。信号の入出力は電磁パルスによって行われる。

形状としては、ヘルメット型のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)だった。かなり曖昧な設定で、具体的なことは描写されていない。直接接続というのは、脳にアクセスするという意味だと思われ、ニードルを刺すような物理的な接続ではない。
映画「JM」も、このタイプ。

ソードアート・オンライン

ソードアート・オンライン

攻殻機動隊では、首の後ろに接続コネクタがあり、そこにケーブルを挿すという、ギブスン流のジャックインを踏襲している。しかし、引用部分にあるように、端子を脳などに挿すと免疫反応で拒絶される。ただし、素子は全身義体なので、ケースに入った脳と、義体を動かすための回路をどうやってつなぐのか?……という別の問題が生じる。

攻殻機動隊

攻殻機動隊

映画「マトリックス」では、体は液体に満たされたタンクに浸かり、脳を始め体中にケーブルがつながっていた。

マトリックス

いずれの方法も、脳につなげることで、脳-コンピュータ・インターフェースを確立する。
……のだが、おそらくこの方法ではうまくいかない。

神経には電気信号が流れているが、その信号の意味を解読できない。
攻殻の首の後ろのコネクタは、脊髄につなげて信号を拾う……というような設定だが、神経は銅線のような伝導体とは異なり、電気そのものではなく電化を持つイオンを放出することで情報を伝える。たとえるなら、ドミノ倒しのように連鎖的に化学反応が起こり、それが神経を伝わっていく。外部から電気刺激を加えると、手足が勝手に動いたりするのは、古いブラウン管式のテレビの映りが悪くなったときに、バンッとぶっ叩くことで乱れた画像が改善するようなもの。

平たくいえば、脳とコンピュータは親和性が著しく悪い。水と油どころか、水と金属くらい相容れない。

脳-コンピュータ・インターフェースは可能なのか?
問題点は3つ。

  1. 脳の信号を、ダイレクトに読み取れるか?
  2. 脳の信号を、解読できるか?
  3. 脳の信号を、コンピュータが読める2進法に変換できるか?

この3つの解決策が見つからないと、ソードアート・オンラインの世界は実現しない。

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「気になる最先端テクノロジー10のゆくえ」を読んで(7)に続く。

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