人類の限界を超えるには…

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人類の限界を超えるには…

富野監督のインタビュー記事があちこちに出ていて、ひととおり目を通している。
この人、ストイックなのか自分に厳しいのか、自分が作ってきた作品に対して悲観的というか評価が著しく低い。

富野由悠季さん、展覧会で語った反省 「ガンダム、敗北感しかない」

「反省」「敗北」。自身の活動を振り返る展覧会について返ってきたのは、後ろ向きな言葉だった。「機動戦士ガンダム」シリーズの生みの親である富野由悠季さん(78)は、自らに対してとことんストイックです。人類の愚かさへの「絶対的な諦め」があるという世界観。それでも、消えない子どもたちへの希望。富野さんがガンダムをはじめとする作品を通じて伝えようとしていることは何か。話を聞きました。

(中略)

――複雑な社会問題を踏まえた富野さんの作品では、例えば『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』でのシャアの行動原理しかり、人類の愚かさに対する諦めの描写も見て取れます。これはやはり富野さん自身がそう感じているからなのでしょうか。

「ちょっとどころではない絶対的な諦めがありますよ。でも子供たちにうそをつきたくないから、本当の話はしない。だからとりあえずは明るく元気に楽しくというのを見せる。だけど、その体制、つまり地球をつくるというのはどういうことなのか、かなり問題があるんだよという設定を持ち込んだつもりです」

「ただ、この構造は、1番伝わりにくい構造だから、正攻法になるとは思っていない。だけどアニメで、こういう概念論を伝えることができるかもしれない作り方をしているのは、僕しかいないだろうという自負はあります」

「一つだけ言えるのは、30~50年後の子どもたちは我々より賢くなっているだろうと、そう信じているからこその提案ではあるのです」

前にも書いたが、富野さんが自分の評価をそれほどまでに卑下してしまうと、若い監督はもっと評価の低いクズになってしまう(^_^)b
少なくとも、若い世代で富野さんを超える監督はまだ出ていない。つまりは、ガンダムを超える作品も生まれていないということだ。

30~50年後の子どもたちは我々より賢くなっているだろう」というが、たぶんそれは願望であり幻想だ。
逆に、50年前、100年前の大人たちより私たちは賢くなったのかというと、ぜんぜんなってないよね。むしろ、劣化して愚かになっているようにさえ思える。

トランプ大統領や安倍首相のように、嘘つきで不誠実な人間が国のトップに立っている現在の状況は、恐ろしく愚かなことではないか?
そういう人を選挙で選んでしまった国民も愚かなのだ。
与党の暴走を許してしまっている野党も、揚げ足取りをするのが精一杯で無力で愚かだ。
我々は劣化しているのではないか?

これほどまで劣化してしまったのは、もしかしたら大気汚染や化学物質汚染が原因かもしれない。長年、汚染に暴露されてきた世代は、細胞レベルで劣化している可能性は高い。様々なアレルギーを発症する人や発達障害の人が増えているのは、環境汚染と無縁ではないと思われる。

おそらく、50年後の子供たちが、今の私たちより賢くなっていることはないだろう。
というか、50年やそこらで劇的に賢くなったりはしないのだよ。

100万年前の人類よりは、現代人は賢くなったとはいえる。
それが進化というやつだ。
なぜ、100万年前より賢くなったかといえば、第一に脳容積の増大。脳が大きくなったことで、より多くの情報処理ができるようになり、知性が発達する余地が生まれた。
物理的なことをいえば、50年では脳の大きさは変わらないから、賢さも変わりようがない。
学ぶことによって賢くなるというのは幻想であって、脳のスペックが変わらなければ、脳にできる能力も変わらない。

そういう意味では、脳の大きさが変わらないのにニュータイプが発現したりはしない。アムロはニュータイプにはなりえなかったのだ(^_^)
処理能力が高い「天才」にはなれたかもしれないが、それはニュータイプとは別の能力だ。

人類が賢くなるためには、脳の大きさが現在よりも10%増しになるとか、そういうスペック的な上積みがないと無理だろう。
超科学を有する異星人のイメージで、頭でっかちの姿が描かれたりするが、脳が大きいという点では理にかなっている。

人類の愚かさに対する諦めの描写
ちょっとどころではない絶対的な諦めがありますよ
……という富野さんだが、私はそこまで悲観的ではない。
なぜなら、愚かさと賢さは表裏一体でもあるからだ。

愚かなだけの人間ではないし、賢いだけの人間でもない。両方を備えていてこそ人間なのだと思う。愚かさと賢さは反語として捉えられるが、じつは同じものの違う面を見ているだけ。言い方を変えれば、賢い面があるから愚かさも同時に存在できる。知性のない線虫には、愚かさも賢さも存在しない。知性を獲得した人間は、賢さと愚かさを兼ね備えた。

愚かさゆえに戦争をしたりするが、戦争で勝つためにテクノロジーを進歩させ兵器を作る。
賢さは科学や社会を良き方向に導くが、同時に愚かさのために誤った方法として使ったりもする。
賢さと愚かさは、常に共存し、互いを補完し合う。単独では存在できないと考えた方がいい。

現実に目を向けると……
環境破壊はこれからも進み、劇的な解決をすることはないだろう。
経済優先の世界から抜け出すことは難しいだろう。
貧富の格差や差別がなくなることはないだろう。
戦争がなくなることはないだろう。
世界がひとつになることはなく、分断はなくならないだろう。

悲観的なことだと思われるかもしれないが、そうではない。
これは現状の人類の能力の限界なのだ。
この限界を超えるには、より大きな脳を有する進化した人類の出現を待つ必要がある。
それには100万年かかるかもしれない。100年、200年でできることではない。しかし、100万年後まで人類文明が存続しているかどうかは疑わしい。度々書いていることだが、1万年後ですら、人類文明が存続している可能性は低い。つまりは、それが人類の限界。

我々は知性を獲得し、賢くなったつもりになっているが、じつのところたいしたことなくて、どうにかこうにかロケットを飛ばしている未開の文明だ。
SFの世界では、スターウォーズやスタートレックのように、ワープ航法で星間宇宙を自在に飛び回れるが、現実的にワープ航法を獲得することはないだろう。不可能というのではなく、その科学技術を手に入れるための社会的背景が整っていない。

世の中は経済で動いている。
科学の発展も、結局のところ金しだい。投資した金を回収できない研究には、金が出てこなくなる。結果、発展は停滞する。
これまでの宇宙開発でも、予算を削られて停滞してきた歴史がある。採算が取れない事業は続かない。経済的な利益を優先すると、科学の発展はいびつになっていく。

ガンダムのスペースコロニーにしても、経済的な採算性を考えたら、採算が取れるはずのない事業なのだ。あまりにも莫大な資金が必要であり、それを回収するビジネスモデルはない。夢ではあっても儲かる事業にはならない。経済的な動機では実現不可能な事業なんだ。

ときどき話題に出てくる「ダイソン球」も、経済的には成立しないアイデアだ。
仮に、太陽系でダイソン球を造るとなると、地球はもとより太陽系の惑星や衛星をすべて潰して材料にする必要がある。それを経済的な動機で行うことは不可能。環境問題などクソ食らえで、太陽系を破壊する事業だ。そうやって完成したダイソン球の内側には、莫大な「土地」が生まれる。あまりにも莫大な広さなので、不動産価値はタダ同然になる。ダイソン球を造る異星人がいるとしたら、彼らには「経済」という概念は存在しないだろう。

イーロン・マスク氏は、火星への植民をぶちあげているが、それも経済的な先行投資としてであり、彼の夢のためというだけではない。会社として儲けが出なければ、開発を続けることはできないし、赤字続きで資金繰りが悪化すれば倒産して、夢も消える。

ワープ航法の発見と開発も、純粋に科学的な目的だけでは達成できず、経済的な採算性がなければ実現しない。とはいえ、現状ではSFとしての空想の世界であり、理論としての手がかりすらない。
「空間を折り曲げて、A点とB点を結ぶ」などと比喩的な説明は可能だが、空間を曲げるのに必要なテクノロジーとはなにか?……というヒントすら出てこない。
おそらく、ワープ航法の実現には、天文学的費用がかかる(^_^)b
スタートレックのように、ガレージでワープエンジンを作ってしまうほど、単純な話ではない。

人類が1つ上のレベルに進化するには、経済的な概念から卒業することが不可欠だ。
経済の束縛がある限り、科学は足枷をはめられたままだ。
しかしながら、これはかなりの難題。
そして、ここが人類の限界でもある。

だが、それでも私は悲観していない。
ワープ航法は実現できなくても、私たちはSFとして、物語として星々の海へと想像力の翼を広げることができる。
現実の未来は、けっして明るいものではないが、夢の未来を思い描くことはできる。
日々の暮らしで辛いことはあるけど、楽しいことだってある。
妻や猫と幸せなひとときを過ごせる。
生きていて、よかったと思うこともある。

なにより、私は富野さんの作ってきた作品に出会えて、楽しい時間を過ごせたし、ワクワクドキドキした。ガンダムが存在しない人生だったら、つまらなかったかもしれない。
富野さんは、私たちに夢中になれる物語を提供してくれた。
これは幸せなことだ。

富野さんが私たち世代に与えた影響は、計り知れない。
その功績は、もっと評価されるべきだと思うよ。

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