ほんの数か月前、「メタバース」の話題で大盛り上がりしていたのだが、急速に話題性が失われてしまっているようなニュースが流れていたりもする。
そんな記事のひとつが以下。
ザッカーバーグ氏のメタバース、見通しは暗く【オピニオン】 | coindesk JAPAN | コインデスク・ジャパン (2022年9月7日)
フェイスブックからリブランディングした「メタ」の完全かつ壊滅的な失敗を予測してから、1年も経たないが、ここまで速く屈辱的にすべてが崩れ落ちていくとは本当に思っていなかった。
(中略)
少なくとも3つの理由から、これは爆笑ものだ。まず、室内で座ってスクリーンを見つめているだけで、活力が湧いて来ることは決してない。次に、ザッカーバーグ氏自身がすでに、Facebookとインスタグラムを通じて、ホルモンを低下させる受け身的態度をおそらく世界の誰よりも拡散させてきた。そして3つ目に、より充実した人間的暮らしにつながる近道を宣伝させるのに、無情で惨めなザッカーバーグ氏ほど説得力のない人物を思い付くのは難しい。
(中略)
実はメタは、2021年のホリデーシーズン、相当の数のOculus Quest 2のヘッドセットを売り上げた。アプリのインストール数のデータによれば、2週間の間に、新しく約200万台がアクティベートされたのだ。一方、過去2年間で販売されたプレイステーション5のコンソールは2000万台弱。Xbox Series Xは1500万台だ。
しかし、ザッカーバーグ氏の真の目標にとっては、そのような比較自体が問題だ。Oculus Questやその後継機がビデオゲームコンソールとして成功しても、それでは失敗なのだ。
このヘッドセットはほぼ間違いなく、かなりの赤字で販売されている。そのことが、Horizon Worldsの長期的ビジネスモデルは、フェイスブックやインスタグラムの基盤となっているデータの収集と収益化と同じものだと言うことを、多かれ少なかれ裏付けている。
つまりザッカーバーグ氏はユーザーに、ヘッドセットを使ってビデオゲーム「Superhot VR」をプレイして欲しくはないのだ。Horizon Worldsに来て欲しいのである。ユーザーの嗜好、習慣、ネットワークを探るために使えるデータ豊富な交流をしてもらって、広告をクリックするよう促したいのである。
問題は、Horizon Worldsのグラフィックスが冴えないだけではない。機能的にもぎこちなく、はっきり言って無意味なのだ。最も重要なのは、実際に成功を収めたフェイスブックやインスタグラムのように、人々が戻ってきたがる絶え間ない投稿やアップデートに相当するものが欠如している点だ。
ザッカーバーグ氏に対して、かなり意地悪な記事だが、指摘されている問題点については的を射ていると思う。
「実際に成功を収めたフェイスブックやインスタグラムのように、人々が戻ってきたがる絶え間ない投稿やアップデートに相当するものが欠如している点だ。」
これがメタバースの一番の欠点と特性だろうね。
メタバースの最大の利点とは、仮想空間でのリアルタイム性だろう。3D空間でアバターを介して、世界中からリアルタイムのコミュニケーションをできるのが、メタバースの売りだ。物理的な距離をメタバースで埋められる。
しかし、このリアルタイム性は弱点にもなる。
FacebookやTwitterなどのテキストベースのSNSは、タイムシフト性ゆえに即時性である必然性をともなわない。言い換えると、リアルタイムに束縛されず、時短が可能なんだ。
メタバースはリアルタイム性ゆえに不自由さがある。テキストは30分かかって書いたものでも、数分で読めてしまうが、リアルタイムのコミュニケーションは30分の会話を早送りはできないし、5分に縮めることもできない。時間の束縛からは逃れられないんだ。
WEBサイトやSNS、動画サイトは、タイムシフトが可能であることで、時短ができたり、いつでも見られる自由さがある。
また、対面でのコミュニケーションのような手順があまりなく、省略することで簡略化し、情報量を少なくできる。Twitterの140文字制限のように情報量を制限することで、メッセージがシンプルになる。ときにそれが誤解の元になったりもするが、1万字の情報量より140字の情報の方が、情報は伝わりやすい。
つまり、既存のネットメディアは「編集された情報」だといえる。
対してメタバースは、リアルタイム性ゆえに編集されていない生の情報ということになる。1時間分の情報は1時間かけないと受け取れない。テレビの生放送と同じで、決められた時間に終始テレビの前に座っていなければならない。
テクノロジーとしては新しくても、メタバースとの接し方は昔のテレビの時代に戻るような、時代の逆行現象ともいえるものだ。
このリアルタイム性の必然性が、メタバースの足枷になるように思う。
「何時にメタバースで会おう」と約束したら、その時間にメタバースに赴かなくてはならない。電車に乗って出かける必要はなくても、時間には束縛される。時差のある遠隔地であれば、ある人には昼間だが、ある人には深夜だったりもする。タイムシフトが可能なSNSであれば、メッセージを見て返信するのが翌日になっても許容される。
リアルタイムのメタバースでは、時間の拘束が問題になりそう。
ヘッドセットが200万台売れたというが、別記事によれば「Horizon Worlds」の登録者数は30万人ということで、ハードの売り上げとメタ社のメタバースの利用者数が著しく乖離している。
メタバースは夢か?──メタバーストークンも大幅下落 | coindesk JAPAN | コインデスク・ジャパン (2022年8月2日)
投資家は、メタバースの夢から覚めつつある。
「我々は基本的に約10億人の人々がメタバースにアクセスすると考えている。それぞれが数百ドルのeコマースを行い、デジタルグッズ、デジタルコンテンツ、自分自身を表現するためのさまざまなものを購入する。つまり、アバターに着せる服やバーチャルホーム用のさまざまなデジタルグッズ、バーチャル会議室の装飾物、VR/ARとメタバース全体での生産性を向上させるユーティリティなどだ」
これは、マーク・ザッカーバーグCEOがCNBCで語った夢だ。
(中略)
ザッカーバーグCEOは、収益性に対する現行のエンゲージメント率が問題だと認めている。同社のメタバース「Horizon Worlds」の登録者数は30万人と言われているが、アクティブユーザー数は公表されていない。
「10億人の人々がメタバースにアクセスする」ためには、ヘッドセットが少なくとも10億台売れないといけないのでは?
いちおう、ヘッドセットなしでもアクセスできるようだが、機能は制限される。それだと使い勝手が悪いわけで、そんなメタバースは使いたいとは思わないだろう。
前の記事でも書いたが、ヘッドセット(ゴーグル)が必要なのが、普及の障害になる。安くはないゴーグルを買える人、買ってもいいという人は限られる。PS5よりも売れない現状で、10億人が目標なんて笑い話にしかならない。
メタバースは広く普及するというよりは、特定の分野に特化して利用されると思う。
リアルタイム性が必要なオンライン会議やオンライン授業、オンラインでの演劇やコンサートなどもコンテンツとしては有力だろう。
しかし、SNS的な情報発信には適さない。テキスト、写真、動画といった情報は、現状のスマホで見たいときに見る方が便利だからだ。
ショッピングについても、メタバースで仮想店舗の中をアバターで歩き回るというような面倒な手順は定着しないだろう。
今のネットショッピングの利点は、目的のものを素早く検索して買い物カゴに入れられることにある。それをいちいちメタバースに入って、アバターでチープな商品CGを手に取るなんて、アホな時間を費やすのは愚の骨頂だ。なぜ、実店舗を模したメタバースの店に行かなくちゃならないんだ? そんな手間を省いてくれたのでネットショッピングだったはず。
Amazonがベストとはいわないが、メタバースのショップが現状のAmazonより優れたものになるとは思えない。
メタバースは技術的には新しいかもしれないが、メタバースの利用方法は昔の時代に逆行しているんだよね。
それは進歩なのか? 退行なのか?
アナログ回帰も悪くはないけどね。