人工的に増殖させた大脳は、意識を持ちえるか?

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コンピュータの発展形としての人工知能が話題になっているが、生物的な人工知能が生まれるかもしれない……という研究についての記事。

細胞から生まれた「ミニ大脳」が、自ら血液をつくれるまでに進化した|WIRED.jp

ヒトの細胞を試験管内で成長させてつくるミニ臓器のうち、脳を模したミニ大脳が驚くべきスピードで進化している。最新の研究では、ついに自ら血管と血液をつくり出せることが明らかになった。脳卒中患者の完治などへの応用が期待される一方、倫理上の問題をいまから社会全体で考えるべきだという指摘がされている。

(中略)

「ここで問題になるのは、このような細胞が集まり、情報を処理できる1個の単位となったときです。どの時点で、現在わたしたちが実験に用いているマウスと変わらないものになるのでしょう。いつ、その段階を超え、人間にしかできない情報処理をこなすようになるのでしょう。そして、どのような情報を処理できるようになったら、『ここまで踏み込んではいけない』と考えるべきなのでしょうか」

もちろんこれは、オルガノイドが意識をもつようになったと神経科学者が認識できることが前提となる。生物学には、まだ人間の意識について一致した理論がない。もちろん脳細胞の塊が意識をもっているかどうか、推し量りようもない。

人間の意識、あるいは心(魂)が、脳の中に宿る(または発生する)のであれば、培養された脳細胞にも意識の断片が芽生えても不思議ではない。

意識、心、魂……と、呼び方は異なるが、基本的には同じであり、捉え方や見る面の違い。医学的には意識であり、文学的には心であり、宗教的には魂と呼んだりする。
ここでは「意識」とする。

生物が、原始的な単細胞生物から複雑な構造をもつ生物へと進化する過程の、どの段階で意識や心が芽生えたのかは定かではない。
人間や類人猿には意識はある。犬や猫にもある。ほ乳類には意識があるといってもいいだろう。
では、ハ虫類は? 両生類は? 魚類は? 昆虫は?……と、進化のレベルを遡っていくと、意識のあるなしの線引きを、どこで引くのかが曖昧になっていく。

ロジャー・ペンローズの量子脳理論では、線虫のような原始的な生物でも、単純な神経系を持っていることから、意識は発生するとされる。ペンローズの理論には異論も多いのだが、完全に否定する理論もない。ようするに、わからないことが多いということだ。

一般的な感覚として、「意識」はひとつの形、あるいは存在として捉えていると思う。人の体がひとつの形であるように、意識もひとつの形であると。心や魂を描写するときに、半透明な体のコピーを形として表現する。意識はひとつの不変なものだという認識だ。

しかし、おそらくこの考え方は間違い。
意識が独立したひとつの形をなしているのであれば、脳が損傷しても意識は変化しないはずだからだ。認知症で脳細胞の一部が欠損すると、その人の意識にも変化が現れる。性格が変わったり、行動が変化したり、別人のようになったりする。
意識は脳の機能……つまりは、性能によって変化する。若く健康で脳機能も正常であれば、意識も健全になる。しかし、老いて脳機能が低下すると、意識を正常に保つことができなくなる。
意識と脳、ひいては体そのものは、分離できない関係にある。

体はひとつの形をなしているが、実際は約37兆個の細胞の集合体だ。
脳細胞やシナプスのひとつひとつに意識の欠片があるとすれば、その集合体である脳全体で、はじめて「自分」を認識する「意識」が成立するのではないか?
つまり、細胞レベルの小さな意識の点が集まり、全体として人の意識を形作る。肉体がそうであるように、意識も数兆個の「微意識」の集合体なのではないか?
認知症患者の人格が崩壊するのは、集合体としての意識が、大きく欠損しているからともいえる。

培養された脳細胞にも、微小な意識は存在している可能性はある。しかし、その数が少ないため、意識は意識として自覚されるレベルにはなっていない。より大きく、より複雑に、より人間の脳に近いレベルにまで人工的に脳を作ることができれば、意識は目覚めるかもしれない。

コンピュータによる人工知能(AI)が、シンギュラリティを超え、自意識を持つ強い人工知能あるいはポストヒューマンが誕生する……と予測されている。そのことに警鐘を鳴らす著名人もいるのだが、現在のコンピュータの延長線上には、意識に目覚める人工知能はないと、私は考える。たびたび書いていることだが、意識を発生させるパーツが、コンピュータには装備されていないからだ。

量子コンピュータであれば、もしかしたら強い人工知能は可能かもしれない。しかし、開発中の量子コンピュータは試行錯誤の段階であり、過去の技術史にたとえるなら、半導体が発明される前の真空管のようなレベルだろう。安定した量子ビットを可能とする最適な素材や方法は確定されておらず、微細化、集積化して大量の情報を一度に処理できるシステムの構築は、まだまだ数十年は先の話。

未来の量子チップには、意識の欠片が存在するだろうか?
線虫にあるかもしれない意識の欠片が、量子チップにもあるとしたら、数百億個の量子チップがつながると、脳のように意識が芽生えるかもしれない。まぁ、ここまでくるとSFの話になってしまうが。

人間の脳が意識を持つということは、脳を構成する脳細胞のひとつひとつに意識の欠片があると考えることもできる。その脳細胞を人工的に培養して、進化させていけば、人工脳に意識が宿っても不思議はない。
人工脳を利用するバイオコンピュータは、シリコンベースのコンピュータよりも、自意識を獲得する可能性は高いかもしれない。ただ、可能性としてのバイオコンピュータの研究はされているものの、実用性については否定的だ。

生物学には、まだ人間の意識について一致した理論がない。

ポイントは、ここなんだよね。
意識とはなにか?
意識はどこで発生するのか?
意識の発生に必要な条件はなにか?
これが解明されないと、人工知能がポストヒューマンに進化することもできない。偶然、意識が芽生えるなどというのは、バラバラな部品を空中に放り投げたら、奇跡的にもコンピュータが組み上がった……というくらい、あり得ない確率だからだ。

現在の技術では、脳の意識あるいは思考を、ダイレクトに取り出すことができない。人は意思を言葉やボディランゲージとしてアウトプットすることで、自分以外の他者に思考を伝える。その方法は、間接的かつ断片的だ。こうして書いている文章は、私の思考の断片であって、すべてではない。

脳機能は、脳波計や脳内の血流によって、脳の中のどの部分が活発に活動しているかを観察する。しかし、その方法は、脳活動の副次的な作用を拾っているだけで、意識そのものを抽出しているわけではない。

未来的な電脳世界では、仮想空間と脳を直結して、没入(ジャックイン)するというイメージで描かれる。この表現は、サイバーパンクのSF作家、ウイリアム・ギブスンの功績だが、思考を信号としてダイレクトに取り出して、コンピュータとの通信を可能とする変換をしなければ、ジャックインはできない。
思考が脳内の電気信号をともなっていることはわかっているが、それだけではない化学的な反応もあわさっていることが、脳の複雑さになっている。

培養した人工脳が、意識を持ちえるかどうかは興味深い。
脳波計の電極を刺して、果たして脳波を拾えるのかどうか。
培養された心筋細胞が拍動をするように、培養された脳も脳波を発するかもしれない。
そうなると、シャーレの上の脳細胞にも、意識があるということになる。
ただし、意識があったとしても、線虫がそうであるように、意思を表現する術は持たない。

これは、SF小説のネタになるな(笑)。

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