超電導技術を手軽に実現することは、21世紀の産業革命になる革新的なものとなる。現状は、極低温にまで冷却する必要があり、その冷却でエネルギーがかかりすぎるのが難点となっている。日本のリニアモーターカーは、超伝導で車体を浮かせるわけだが、低温超電導磁石は液体窒素と液体ヘリウムによって約4K(-269℃)まで冷却する必要があるという。
その超伝導を常温常圧で実現したらしいのだが……
「室温かつ常圧で超電導状態になる物質」を開発したとする論文&ムービーが公開される – GIGAZINE
韓国の研究チームが「室温かつ常圧での超電導」を実現したとする研究論文をプレプリントサーバーのarXivで公開しました。研究チームは超電導によって磁気浮上が発生する様子を撮影したムービーも公開しています。
これまでに開発された物質では「比較的高温」と言ってもマイナス100度を大きく下回る温度まで冷却する必要がありました。そんな中、韓国の研究機関「Quantum Energy Research Centre」に所属する研究者を中心とする研究チームが「室温かつ常圧での超電導」を実現したとする論文を2023年7月22日に発表しました。
超電導体は外からの磁場を打ち消すように逆向きに磁化する「完全反磁性(マイスナー効果)」を備えています。研究チームは開発した超電導体「LK-99」にマイスナー効果が生じていることを示すムービーを公開しています。
「室温で超電導を実現した」と主張する研究論文は2020年にも別の研究チームによって発表されていました。しかし、2020年に発表された論文では物質を1ギガパスカル(1万バール)という高圧環境下に置く必要があった他、「データが欠如している」といった指摘を受けて発表が撤回される事態に至っています。今回の論文も記事作成時点ではプレプリントサーバーに公開されただけなので、今後の検証結果に注目する必要がありそうです。
なお、2020年に「室温で超電導を実現した」と主張してその後発表を撤回した研究チームは、2023年3月にも「室温で超電導を実現した」とする論文を発表していますが、過去の実績を踏まえて懐疑的な意見が寄せられています。
原文の概要は以下。
[2307.12008] The First Room-Temperature Ambient-Pressure Superconductor
以下翻訳。
初の常温常圧超電導体
世界で初めて、改良アパタイト鉛(LK-99)構造を持つ常圧で動作する室温超伝導体(Tc≥400K, 127∘C)の合成に成功した。LK-99の超伝導は、臨界温度(Tc)、ゼロ抵抗率、臨界電流(Ic)、臨界磁場(Hc)、マイスナー効果によって証明された。LK-99の超伝導は、温度や圧力などの外的要因ではなく、わずかな体積収縮(0.48 %)による微細な構造歪みに由来する。この収縮は、Pb(2)-リン酸塩の絶縁ネットワーク中のPb2+(2)イオンがCu2+に置換されることによって起こり、応力を発生させる。この応力は同時に円柱のPb(1)にも伝わり、円柱界面に歪みを生じさせ、界面に超伝導量子井戸(SQW)を形成した。熱容量の結果から、新しいモデルがLK-99の超伝導を説明するのに適していることが示された。LK-99が室温・常圧で超伝導を維持・発現する最も重要な要因は、界面に微細な歪構造を維持できるLK-99のユニークな構造である。
室温・大気圧下で浮遊を示す超伝導体Pb10-xCux(PO4)6Oとそのメカニズム
Pb10-xCux(PO4)6O(0.9<x<1.1)の組成を持つ修飾鉛アパタイト結晶構造のLK-99と呼ばれる物質が固体法を用いて合成された。この物質は、超伝導臨界温度Tc以上ではPb(6s1)のオーミック金属特性を示し、Tc以下では室温・大気圧下で超伝導体のマイスナー効果としての浮遊現象を示す。LK-99試料は126.85ȨC (400 K)以上のTcを示す。この物質の室温超伝導の可能性は、PbをCuに置換することで絶縁体-金属転移が起こり体積が収縮することと、Tcでの超伝導凝縮による一次元(D)鎖(c軸方向にPb2-O1/2-Pb2)構造の変形によって現場での反発クーロン相互作用が増強されることの2つの要因によると分析した。室温超伝導の機構を1次元BR-BCS理論により議論する。
この「常温常圧で超電導」が事実なら、ノーベル賞級の大発明だ。これが実用化できるなら、エネルギー問題の大革命であり、世界は一変するほどのインパクトがある。
問題は、本当なのかどうか。
第三者による追試が必要だろうし、確証が得られるのには時間がかかりそう。
世紀の大発明か、それとも世紀の捏造か?
なんとなく、STAP細胞事件を思い浮かべてしまう。
日本は論文不正大国という不名誉な経歴があるので、他国のことはいえないのだが、韓国も不正論文が多いといわれる。
参考記事は以下。
日本が世界一の「研究捏造大国」になった根因 「カネ取れなければダメ」が不正生み出す | ブックス・レビュー | 東洋経済オンライン
撤回数を国別に見ると、いちばん多いのから順にインド、イラン、韓国、それから中国、日本、米国と続く。日本は捏造が多く、ほかの国は盗用が多い。また3分の1は間違いが理由。それも不名誉なことには違いない。
はたして、「常温常圧で超電導」の真偽はいかに?
今後の続報に注目したい。
【続報】2023/08/17
続報が出てきた。
「LK-99は超電導体ではない」 Nature誌が掲載 世界中の科学者の追試結果を紹介 – ITmedia NEWS
LK-99は超電導体ではない──英学術誌「Nature」は8月16日(現地時間)、そんなタイトルの記事を公開した。韓国の研究チームは7月、「常温常圧で超電導性を示す物質を合成した」とする査読前論文を公開。世界中の科学者が関心を示していたが、Natureは「この物質が超電導体ではないという証拠が発見された」と複数の研究者の証言を紹介している。
(中略)
しかし、さまざまな研究者たちが検証した結果から「LK-99の不純物である硫化銅が磁石上での浮遊と、電気抵抗率の急激な低下を引き起こした原因」「超電導体が示す性質に類似している」などを示す証拠が見つかったという。
浮遊現象については、世界中の科学者が追試をしても同じ現象を観測できなかった。米ハーバード大の元物性物理学者のデリック・ヴァン・ゲネップさんは、韓国チームが投稿した浮遊動画を見て「この現象は、強磁性が原因の可能性が高い」と指摘。実際に、グラファイトと鉄粉から非超電導性の強磁性物質を作り、韓国チームの投稿動画で確認できた浮遊現象を再現している。他にも北京大学の研究チームなどが同じ指摘をしている。
一定温度下での電気抵抗率の急激な低下の原因も不純物の硫化銅にある。硫化銅には104度で相転移(物質の状態が変化する現象)する特性があり、この温度以下で空気に触れた硫化銅は、電気抵抗率が大幅に低下するという。これを指摘した米イリノイ大学の化学者であるプラシャント・ジェインさんは「韓国チームはこの特性を見逃していたことに不信感を覚えた」とコメントしている。
他にも純粋なLK-99を合成したドイツの研究チームは「不純物を取り除いたLK-99は超電導体ではなく、数百万Ωの抵抗を持つ絶縁体である」と説明。「わずかな強磁性と反磁性を示すが、超電導性の存在は否定される」と結論付けている。
……ということで、捏造とはいわないまでも勘違いではあったようだ。