アニメ監督・山本寛氏の主張「アニメ観てるような人間は……」の心理を考察してみる

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あえて炎上を誘う侮辱的な発言をする人は、自分が正しい、自分が正義だと信じているのかもしれない。
あるいは、注目されたい、かまってもらいたい、という承認欲求もあるのだろう。
なにも発言しなければ、誰からも注目されないし、自分の存在を誇示できないからね。

言葉は、その人の思想や価値観、人となりがにじみ出てくるものなので、どういう言葉を使うかは考えた方がいいと思う。

全文表示 | 「ええ歳こいてアニメ観てるような人間は障害者」 アニメ監督・山本寛氏の主張がまたも炎上 : J-CASTニュース

「らき☆すた」「フラクタル」などの作品で知られるアニメ監督の山本寛(ゆたか)さん(43)が投稿したツイートが、ネットユーザーの間で炎上騒ぎに発展している。

「やっぱええ歳こいてアニメ観てるような人間は障害者だよ」。山本さんはさらに、後に更新したブログで「アニメを観ることは間違いなく脳に重大な障害を与えている」と踏み込んだ。

やっぱええ歳こいてアニメ観てるような人間は障害者だよ」……と、この発言で一番の問題は、侮辱的に使われている「障害者」という例えだね。

山本氏は蔑む対象であるアニメファンの例えとして、「障害者」を持ち出している。
つまり、山本氏の思想・価値観の中では、障害者は侮辱する対象であり、レベルの低い人間だと定義されていると推察できる。

平たくいえば、障害者は人間のクズだと考えているのだろう。
その考え方は、相模原障害者施設殺傷事件の植松聖被告を想起させる。

「やっぱええ歳こいてアニメ観てるような人間はクズだよ」……という表現であれば、特定のカテゴリに属する人々を連想させることなく、対象範囲は漠然としていて、怒りは買っても差別的な表現にはならなかった。

反論として出された発言では……

アニメを観ることは間違いなく脳に重大な障害を与えている」……と、今度は精神疾患や発達障害を患っている人々を連想される表現をしている。山本氏にとっては、脳に障害を持っている人たちも、蔑む対象なのだと思われる。

そもそも「間違いなく……」という、確定的な根拠はなんなのだろう?
医学的に脳に障害が与えられているのであれば、診察し、MRIなどの検査をしていけば立証は可能だろう。それをやって、「証拠はこれだ」と提示して、初めて「間違いなく」……つまり、100%確実だと断言できる。そうでなければ、山本氏の憶測や思い込み、勘違いになってしまう。

「オレがそう思ってるんだから、間違いない」というのであれば、悪霊に取り憑かれたとか、悪魔の仕業といっているのと大差ないことになる。

仮に、脳に障害が出ていると医学的に立証されたとしよう。
その場合、アニメに限った話ではなく、テレビを見ること、スマホを見ること、ディスプレイを見ること自体が脳に影響を与えている可能性がある。

実際、そういう研究をしている科学者はいる。

若い時のテレビの見過ぎ、中年期の脳に悪影響か 米研究 (2015年)

研究チームは調査開始から25年目に、認知的処理速度、実行機能、言語記憶に関する3種類のテストを通じて対象者の認知機能を評価した。

テストの結果では、身体の活動レベルが低く、テレビを長時間視聴する対象者に認知的処理速度および実行機能の低下がみられ、そこに因果関係が存在していることが示唆された。論文では、「活動的な行動パターンが最も少ない(つまり、身体活動性が低く、テレビ視聴時間が長い)調査参加者らは、認知機能が低下する確率が最も高かった」と指摘されている。

長時間テレビ視聴が小児の高次認知脳領域の発達性変化や言語性知能に悪影響を与えることを発見
~発達期の小児の長時間のTV 視聴には一層のケアを喚起~

東北大学加齢医学研究所 認知機能発達寄附研究部門 (2013年)

小児の縦断追跡データを用いて、TV 視聴習慣が数年後の言語機能や脳形態の変化とどう関連しているかを解析し、長時間のTV 視聴が、脳の前頭極を始めとした高次認知機能領域の発達性変化や言語性知能に悪影響を与えていることを明らかにしました。今回の知見により発達期の小児の長時間のTV視聴には一層の注意が必要であることが示唆されます。

これらの研究は「テレビの視聴時間」との関連性を説いている。アニメだけに限定した研究は、残念ながらないようだ。もし、アニメと実写のドラマ、あるいはバラエティ番組との比較で、アニメを見ている方が優位に悪影響が出ていると明らかになれば、それは医学的に小さくない発見になる。そうなったとき、山本氏の発言はおおいに評価されるものになるかもしれない。

ただ、こういう研究報告がある一方で、異論を唱える研究者もいる。
動物実験では、閉じられた環境で、条件の異なるストレスを定量的に与えて、死ぬまで追跡することができるが、人間が対象の実験や調査の場合はそうはいかない。
対象となった人間は、それぞれに生活があり、異なる環境で日々を過ごし、テレビを見ている時間だけを比較することになる。テレビ以外の環境が影響していることを、完全には排除できない。そこが弱点だ。

これらの問題は、度々話題になる。
テレビ脳とかゲーム脳、最近だとスマホ依存などがそれだ。スマホ脳という言い方はされていないようだが、ここではスマホ脳と呼ぼう。

スマホが脳に与える4つの影響

イギリスのある調査によると、実に81%もの人が常にスマートフォン(スマホ)を手の届く範囲に置いている。そしてさらに、若者の5人に1人が5分ごとに携帯の画面を確認してしまっているの だとか。『毒になるテクノロジー iDisorder』(東洋経済新報社)の著者、ラリー・ローゼン博士によると、今日、我々の脳はスマホに対応した変化を遂げつつあり、それは脳科学者が 言うところの「神経可塑性」というものだという。「神経可塑性とは脳の神経細胞が経験に応じて、強くなったり弱くなったりする絶え間ないプロセスです。 我々の脳が変わり続ける事自体は完全にプラスのことです。我々の脳は一日中刺激を受け続けるのですから、神経可塑性は脳を救うためのものなのです」。

詳細はリンク先を読んでもらうとして、スマホは私たちのライフスタイルを変えたし、コミュニケーションの方法も変えた。記事では、悪影響ばかりを挙げて警鐘を鳴らしているが、メリットもあるはずだ。脳は新しい環境に適応している過程でもあるからだ。

集中力は持続しなくなったとしても、頭の回転は速くなっているかもしれない。スマホを手放せなくなったが、瞬時にメッセージを発信できる発言力はついたかもしれない。その発言が、罵詈雑言やくだらないことだとしても、意思を表に出していることには変わりはない。

山本氏が、アニメファンがクズになったと思っているのは、じつは勘違いで、ネットやスマホが主原因という可能性も否定できない。
ツイートに対する炎上なのだから、書き込みをしている人たちは、パソコンやスマホを使っている。じつは、ネットそのものが元凶の可能性は高い。アニメファンが、アニメ監督である山本氏の発言に反応しているにすぎない。

それを検証するためには、山本氏の発言に対して、アニメファンの反応と一般人の反応とを峻別して、比較する必要がある。
その検証は、やってみる価値はある。どれほどの違いがあるかは興味深い。

「言葉狩り」と怒りの発言もしていたが、ツイートでは限られた文字数で、書かれた言葉でしか意思は表現できないし読み取れない。言葉に対しては言葉で返すしかない。監督として表現者でもあるのだから、言葉でどう表現するかは本業でもあると思う。真意を誤解されたと感じているとしたら、それは山本氏の言葉が足りないからだろう。そこは自覚した方がいいのでは?

百歩譲って、アニメを見る人間は障害者だとしよう。
だからといって、障害者を侮辱し、クズ扱いしていいことにはならない。そうではなく、社会に受け入れられるように手を差しのべ、偏見をなくし、助けられるところは助けるのが望ましい。
アニメが原因だと主張するのであれば、これ以上障害者が増えないように、嫌煙運動のようにアニメ撲滅運動を展開するのなら、それはそれで筋が通る。支持はしないけど。

アニメ監督である山本氏が、アニメならびにアニメファンを卑下するのは、自身のコンプレックスなのではないかと想像する。

自虐的でもある発言の数々は、自分自身に対するものでもあるのだろう。
自分の仕事に自信がない、あるいは誇れるものがない。
関わった作品に対する評価に納得がいかない。
理想と現実のギャップ。
名監督といわれる人には、名作や大ヒット作があり、ステータスとなる権威ある映画賞(アカデミー賞など)を取ったりするが、そこまで辿り着けていない焦りや妬み。
……等々、鬱積したものがあるのではないか?

まぁ、私も偉そうなことがいえる立場ではないし、山本氏に経歴に比べたら、ただの雑魚だ。
雑魚は雑魚なりに、言い分はあるのだよ。

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