「怪しい年金マンガ」と「若い男性のセックス離れ」

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少し前に、『セックス離れ:若い男性、性の「絶食化」』という記事があって、それについてツッコミを書こうと思っていたのだが、忙しくて保留にしてあった。

関連した記事が目に留まったので、保留を復活。

年金問題から、メタボに話が飛び、さらにセックスレス問題、不妊症の問題まで広がっている記事が以下。

「メタボの次は、セックスレス!?」 40代男の傷をえぐる世間の興味:日経ビジネスオンライン

 厚生労働省が昨年5月にウェブサイトに公開した“漫画”が、ちょっとした話題になっている。

(中略)

この漫画は「いっしょに検証! 公的年金」と題し、“年 金子(とし・かねこ)”なる講師役の独身女性が解説する設定で、0話から11話まである。2013年度の予算1600万円で、委託業者を入札で選定し、制作された。

いっしょに検証! 公的年金

いっしょに検証! 公的年金

「いっしょに検証! 公的年金」のマンガ全ページPDF

ここまでの内容で私が気になったのは、「1600万円で、委託業者を入札」という部分。

11話のマンガの制作費が、1600万円だと!?
1話あたり、約145万だぞ(^^;)
すごいギャラだ。

1話が4ページから9ページの、きわめて短いマンガで、このギャラ。おいしい仕事だね。

さぞかし有名なマンガ家が描いているかと思いきや、作者不明の稚拙なマンガだった。作者のことを悪くいうつもりはないのだが、正直なところ絵は下手だし、マンガとしてのテクニックも未熟。マンガを描くのが専業ではない人が描いたのでは?……と思ってしまう。

かといって、この作者が1600万円のギャラを手にしているはずはなく、制作会社の社員であれば、給料の一部だろうし、外注してマンガ家の卵や美術学校の生徒に描かせたのなら、カラーであることを加味してもページ1万円くらいのギャラが相場だろう。商業誌のマンガでも、新人の場合の原稿料は、ページあたり5000円~1万円なのだから。

つまり、実質的な制作費は、1話10万円としても、110万円しかかからない。
それが1600万円だぜ!

請け負った会社にしてみれば、ぼろい儲けだな。こういうところでも、税金を無駄遣いしているんだよね。
私なら、その半分の額で、個人として請け負ってもいいよ(^_^)

余談ながら、厚労省に限らず、国や地方自治体が広報のための出版物などを作ることは多いが、それらの仕事は民間に下請けに出している。その制作費は、けっこう割高になっていて、請け負う制作会社としては、おいしい仕事なんだ。

私の勤め先でも、そうした仕事があるが……
「この内容でこの値段かよ?」

……というくらい、実入りのいい仕事だ。お役所の広報誌なんて、内容はたいしたことはない。誰がこんなのを読むのか、これがなんの役に立つのか、そもそも出すことに意味があるのか……というものでしかない。

お役所の自己満足、自分たちのやってることを自画自賛するため、あるいはちゃんとやってることのアリバイ証明のような内容だ。
まぁ、そのお陰で、私は給料をもらえているわけで、一概に否定はできないのだが、必要度の低いものだとはいえる。

話を戻して。
記事の続き。

「しかもそのセックスレスの原因を、長時間労働と結びつけるでしょ? あれ、どうかと思いますよ。長時間労働とかとくっつけることで、うちみたいに子どもができなかった夫婦はその度に、せっかく塞がった傷をえぐられる」

「世間がメタボメタボって騒いだときは、歩数計を持たされて会社で“ハラ周り”を管理されました。今度は、セックスの回数の報告義務とかができちゃったりするんじゃないかって思うくらい、妙な空気を感じちゃいますよ(苦笑)」

で、例の「セックス離れ」の記事につながる。

セックス離れ:若い男性、性の「絶食化」 3000人調査 – 毎日新聞

 若い男性の「セックス離れ」が進んでいることが、一般社団法人日本家族計画協会がまとめた「男女の生活と意識に関する調査」で分かった。夫婦の約半数がセックスレスという実態も判明。専門家は「男性は『草食化』どころか『絶食』傾向。若年層の労働環境の悪化など、社会背景も関係しているのではないか」と分析している。

(中略)

また、セックスについて、「あまり、まったく関心がない」と「嫌悪している」を合わせた男性の割合が18.3%で過去最高に。特に若年層ほど関心が低く、16~19歳で34.0%▽20~24歳で21.1%▽25~29歳で21.6%--となり、45~49歳(10.2%)も上回った。

ほんとかいね?……というのが率直な感想。
これはデータをどう読むかの違いでもある。

「セックスに関心がないのは……20~24歳で21.1%▽25~29歳で21.6%」ということだが、逆にいうと、
「約8割はセックスに関心がある」となる。
それを少ないというかどうか。

調査対象として、「全国の16~49歳の男女3000人を対象に実施し、1134人(男519人、女615人)から有効回答を得た。」とのことだが、回答率37.8%で6割強の人が回答を拒否していることになる。その回答を拒否した理由がなんなのかが気になる。真面目に答えた人が、傾向として偏っていた可能性も否定できない。回答を拒否した人たちの方に、もっと真相があるような気もする。

記事でいうところの「草食化」や「絶食化」は、全体の約2割であり少数派だ。この部分だけを取り上げて「若者のセックス離れが進んでいる」と結論するのは恣意的だろう。8割の若者は、普通にセックスへの興味があるのだから、大騒ぎすることもないように思う。

また、セックスに関心がないことの理由は、おそらく「後付け」の理由だろうし、自己弁護あるいは保身のための理由ではないかと思う。そこに意味のある理由をつけることで、自分の置かれている状況を正当化できるというか、自分自身を納得させることができるからだ。

再び、河合 薫さんの記事に戻るが……

 なんでもかんでも、少子化、長時間労働、非正規雇用といったお決まりの問題にすり替えられることで、ホントの問題が置き去りにされている。セックスという、誰もが興味を示す話題だけに問題を矮小化する傾向はいかがなものかと、釈然としないのだ。

「長時間労働はそれ自体が問題」だし、
「年金の問題」だって、年金のあり方それ自体が問題だし、
「夫婦間のセックスレス」の問題は、夫婦間の極めてパーソナルな問題だ。

まったく同感。
無関係とまではいわないが、因果関係が明確ではないことを結びつけることで、危機感を煽っているだけのように思える。
「最近の若者は……」という定番のイメージ付けで語るのは、「木を見て森を見ず」の話になってしまう。

セックスは娯楽のひとつ……というと語弊があるかもしれないが、欲求・情動・快楽を満たすということでは、スポーツをしたり、映画を観たり、ゲームをしたり、スマホをいじったりするのと本質的には違わない。

娯楽が多様化して、夢中になれるもの、面白いもの、お金と時間をかけるものの選択肢が増え、セックスの価値が下がったとはいえるように思う。性的な商品やサービスはあふれているし、露骨ではないにしてもAKBに代表されるアイドルも美少女の「性」を売りものにしている。電車の中吊り広告には、週刊誌の性的な見出しが恥ずかしげもなく露出している。

そうしたものを見慣れているから、性的なものに対して鈍感になっているというのもあるかもしれない。食傷気味で、性的なものに嫌気がするとしても不思議はない。

少なくとも、8割の若者は人並みにセックスに興味があるのだから、まだ悲観することはない。それが逆転して、2割しかセックスに興味がないとなったら、生物として、種としての危機になってしまう。

恋愛、結婚、セックス、出産……と、これらを連動したものとして考える風潮がある。関係性はあるものの、それぞれは別の問題だ。
恋愛しているから結婚しなくてはいけないわけではなく、恋愛は恋愛、結婚は結婚で単独で成立する。昭和初期以前の見合い結婚は、相手の顔を直接見ることもなく、恋愛をすっ飛ばしていきなり結婚だったからね。

「非正規雇用で経済的・時間的に余裕がなくて、恋愛も結婚もセックスができない」……というのではなく、それぞれは分けて考えるものだ。

本来、恋愛はコストがかからない。初恋は中高生のときが多いと思うが、異性を好きになるのにコスト勘定はしない。大人になってからの恋は、贈り物をしたりデートでどこかに出かけたりと、コストをかけるようになるが、それは恋愛の手法としてのコストだ。

結婚には金がかかる……と考えがちだが、それはイベントとして結婚式をするからだ。結婚するだけだったら、役所に婚姻届を出すだけなので、コストはかからない。
私たちは夫婦は5年の同棲ののち結婚したが、結婚式はしなかったし、婚姻届を出しただけなので、結婚費用はゼロだった。形として正式な夫婦になっただけである。結婚式などという見栄っ張りなことをしなければ、結婚にお金はかからない。

また、子どもを作るかどうかも結婚とは別問題。不妊症のカップルや、精神的・経済的な理由などで子どもを欲しくない夫婦もいるのだ。

この手の調査は、調査方法でも違った傾向を示すことがある。厚労省の調査が実態を反映しているかどうかの検証も必要だろう。
別の調査で以下のようなものがある。

ニッポンのセックス|初体験、経験人数etc

年代別の調査なので、細かい年齢まではわからないが、イメージが少し変わる。このデータで目を引くのは、体験人数の部分だ。

「全体では8.1人となりますが、男性11.1人・女性5.1人」

恋愛、不倫、風俗など人数としてカウントするのは人それぞれだろうが、みんなけっこう経験している(^_^)。これを見ると「セックス離れ」なんて嘘っぽく聞こえてしまう。

セックス離れというよりは、セックスに対する価値観が変わりつつある、と考えたほうがいいのではないだろうか?


【追記】2015年2月20日
「若い男性のセックス離れ」の根拠となっていたデータは、集計ミスだったことが判明(^_^)
以下、参照。
「若い男性のセックス離れ」はデータのミスだった(^_^)

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