仮想通貨関連のニュースをいくつか。
仮想通貨のマイニングに利用されるGPUの品薄が続いていて、それが科学研究で必要とされるGPUの調達にも影響しているという。
仮想通貨の採掘でGPU不足、宇宙などの科学研究に影響 – CNET Japan
仮想通貨マイナー(採掘者)たちが供給を奪っていることで、高度なコンピュータハードウェアを必要とする科学研究プロジェクトに影響が生じつつある。
NVIDIAの最高経営責任者(CEO)であるJen-Hsun Huang氏は2017年に、「仮想通貨はこの先も残る」との見通しを示したが、この予測が目下、同社を悩ませている。
NVIDIAは、高度なPCシステム、レンダリングやスケーリング要件の高いゲーム、消費電力の大きいアプリケーションを動か すシステム向けに、グラフィックスプロセッシングユニット(GPU)を手がけるメーカーだが、これまでゲーマーが独占していた分野に新たに参入してきた仮 想通貨マイナーによって、自社製品の供給が枯渇しつつあることに気づいた。
(中略)
この研究チームは、さまざまな無線周波数の情報を大量に処理するのに高度なGPUを必要としている。一部の望遠鏡では、受信アレイのデータ分析におよそ100個のGPUが使われているという。
他の研究者たちも、同じくGPU不足に直面している。カリフォルニア大学バークレー校のAaron Parsons教授は、英国や南アフリカの研究チームと「Hydrogen Epoch of Reionisation Array」(HERA)電波望遠鏡で共同研究を行っているが、GPUの費用が倍増して予算を圧迫しているという。
私のように3Dアートを作っている者にとって、GPUはレンダリングのためのパーツという感覚だが、科学者にとっては情報処理のための道具であり、マイニングをする人にとっては採掘道具ということになる。
PCの基本動作を担うのはCPUで、グラフィックを表示するのにGPUが使われる……という認識。GPUは、Graphics Processing Unit の略で、文字通りグラフィックを処理するためのパーツ。
基本的な構造は同じだが、大きな違いは内蔵するコアの数。
CPUは8コアとか16コアなどが登場しているが、その昔は、1つのCPUに1つのコアだった。回路をナノ単位で微細にすることで、1つの台の上に複数のコアを載せられるようになった。
GPUでは、2000〜4000コアが載せられている。その分、パーツのサイズも大きくなる。
ただし、「どんな問題でも高速処理できるわけではなく、並列計算できるような問題でなければ処理は遅くなってしまう」という特性がある。つまり、単純な処理を並列して多数こなすことに特化しているというわけで、グラフィックの表示速度を速くすることに適している。
仮想通貨のマイニングのための計算は、「並列して膨大な計算をする必要がある」……という条件に合致しているため、GPUが使われる。
……という背景があって、GPUが仮想通貨の採掘者(マイナー)によって、買い占められているというわけだ。品薄になると価格が高騰するため、科学研究のために必要している人たちは、予定していた資金では買えなくなってしまう。
次は、ビットコインのありえない売買ができてしまったというニュース。
Zaifで「2200兆円分のビットコイン」売り注文 バグ? Zaifは「確認中」 / ITmedia NEWS
テックビューロが運営する仮想通貨取引所「Zaif」で2月16日、ビットコイン20億枚(約2200兆円分)の売り注文が出現し、ユーザーを驚かせた。ビットコインは発行上限が2100万枚で、「20億BTC」という数字はあり得ない。この事態はなぜ起きたのか――テックビューロは2月19日、ITmedia NEWSの取材に対し「事実関係を確認中」と答えるにとどめた。今後の対応も「未定」という。
仮想通貨取引所のお粗末さが露呈したようだ。
バグ、あるいは人為的ミスだとしても、0円で買えてしまったという取引は成立しているわけで、仮想通貨のあやふやさを象徴してもいる。
本来、ブロックチェーン技術そのものには、金銭的な価値はなかった。そこにリアルマネーの価値をひも付けしてしまったことで、仮想通貨とリアルマネーとの「レート」が成立することになった。これがゲームのルールとなり、マネーゲームがスタートした。
仮想通貨は欲望の具現化でもある。
実体のない、ただのデータであり数字でしかないものが、リアルに利益を生んでしまう。
それは、仮想通貨をリアルマネーに換金できるというルールが可能にしている。各国政府や中央銀行が仮想通貨に対する規制を始めているが、リアルマネーとの換金を「不可」にしてしまえば、仮想通貨はゲーム内だけの通貨と同じになってしまう。
また、「ビットコインは発行上限が2100万枚」となっているが、じつのところ、この制限は便宜上の制限でしかない。インフレ抑制を目的として、コイン数の上限を設けているが、現在の仮想通貨市場はバブルな状態で、とてつもないインフレになっているともいえる。いいかえると、発行上限に意味はないのではないか?
後発の仮想通貨は、上限をビットコインよりも大きくしているところが多い。つまり、インフレが起きやすい条件がそろっていて、価格が高騰しやすく、欲望が集まりやすいというわけだ。リアルマネーとの換金が可能である限り、仮想通貨は欲望で暴走し続ける。
勤務先スーパーコンピュータで仮想通貨採掘 ロシア核研究施設の職員ら逮捕 / ITmedia NEWS
ロシア最大の核研究施設に勤務する2人の職員が、施設内のスーパーコンピュータを使用して仮想通貨のマイニング(採掘)を試みたとして逮捕された。
スパコンをマイニングに使うのではないか?……という疑問は、「ビットコインはまるでサイバーパンク」(2013年11月22日付の記事)で触れていたのだが、実際にやるヤツがいたとは(笑)。
マイニングは、いまのところ企業や個人が主体となっているが、国家的なプロジェクトとしてマイニングを始めると、ますますおかしなことになりそうな気がする。赤字財政を、仮想通貨で埋める……というのが、あながち冗談ではなくなるかもしれない。
良くも悪くも、仮想通貨は「通貨」の意味と価値観が変わるきっかけになっているように思う。
現在は混沌としていて、レートは安定せず、仮想通貨が乱立しているため、通貨としての利用価値は低い。昨日と今日でお金の価値が変わってしまっては、使うことがばかばかしくなる。
淘汰され、生き残る仮想通貨はどれなのか?
元祖としてのビットコインは、優位な立場ではあるが、マインニングの半減期に達するのが早く来てしまう。そうなると旨みも薄れる。
もしかすると、仮想通貨が乱立しすぎて、共倒れになる可能性もある。
リアルマネーでは、アメリカ$が基本的な通貨になっている。各国の通貨をドルに変換することで、スムーズな取引が行われる。
仮想通貨にも、基軸となる通貨が必要になるのではないか?
いまのところ、仮想通貨でもドルをはじめとしたリアルマネーに対するレートによって、価値を決められている。それがなければ、利益を生まないからだ。
仮想通貨は、仮想通貨だけで成立しないところが、最大の弱点だともいえる。
現在は過渡期。
生き残るのか、一時のブームで終わるのか?
少なくとも、10年後、20年後は、今とは違う仮想通貨になっているだろうし、暗号技術だけ残って通貨としての価値はなくなっているかもしれない。
いずれにしても、仮想通貨に対する欲望の暴走は、しばらくは止められない。