「世界から3周遅れ。日本にAI研究者がいない理由」の理由


AI関連の記事なのだが、ちょっとピントがずれているところが、“理由”の理由だったりもする。
内容がアバウトで薄すぎるから、ますます変な誤解が浸透してしまいそう。

田原総一朗「世界から3周遅れ。日本にAI研究者がいない理由」 (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

 ジャーナリストの田原総一朗氏は、日本にAI研究者がいない理由を解説する。

(中略)

ところで、人工知能の権威である東大大学院の松尾豊特任准教授は、人工知能の最前線にいるのはグーグル、アップル、マイクロソフト、アマゾンなどアメリカ勢で、日本の企業は3周遅れだと表明した。

(中略)

パナソニックのシリコンバレーの研究所所長である馬場渉氏は、“スタンフォードやハーバードなどの研究者も日本に来たがらないのではない。日本社会が彼らを拒絶しているのだ”と語った。

(中略)

現在のAIは特化型AIで、囲碁では名人に勝てても、将棋やチェスはできない。つまり一つのことしかできないのである。それに対して、30年代になると、汎用AIが登場する。すると人間のようにいろんなことができるようになって、人間の仕事がAIに奪われるようになると危惧する学者や研究者が少なくない。さらに40~50年代になると、シンギュラリティーの時代、つまりAIがAIを創ることになって、人類の仕事の90%がなくなる、とアメリカの著名な発明家レイ・カーツワイル氏は指摘している。

日本にAI研究者がいない理由を解説する」といいつつ、納得のいく解説になっていないんだけど(^_^)。挙げられている理由は、いくつかある要素のひとつにすぎず、決定的な原因とはいえない。それらは日本固有の要素というわけでもなく、アメリカにも存在するであろうものだ。

AI研究者がいないわけではないと思うが、現状のベースとなる技術はアメリカに先を行かれていて、フォーマット的な部分がすでに形作られてしまっている。たとえるなら、パソコンのOSがアメリカ製に凌駕されてしまって、それを使ってパソコンを作るしかなくなった国産のパソコンメーカーみたいな立ち位置。

出遅れたことは否めないが、これからGoogle等に対抗して、日本独自のAIベースを提唱しても、誰も採用してくれない。ビジネスとして可能性がなければ、独自路線を選ぶ必然性が乏しい。

AI分野でも、かつての日本のパソコンの歴史をなぞっていると思う。
CPUを自前で製造したり、国産のOSを開発していた時期もあったが、結果的に自前で作ることはやめた。OSはMicrosoft、CPUはIntel、メモリすらも海外製になってしまった。国産メーカーは、OSの提供を受け、主要部品を外部から調達して、組み立てるだけ。

AIでも、同様の展開になりつつある。
中核部分はGoogle等から提供を受け、末端の出口部分だけ日本向けにローカライズする。
その方がリスクがなく、楽だからだ。
AIでなにができるか、AIをなにに使うか……は、Googleしだいの他力本願。Appleを除くスマホが、Google製のAndroidに依存しているのと同じ。

日本企業の弱点として、世界のスタンダード(標準)を作ることが苦手なことだ。ビデオテープ規格のVHSは、日本発の標準規格となったが、このような例は少ない。
AIのスタンダードをアメリカに握られてしまったら、もはや太刀打ちできない。ディープラーニングがAIの根幹であるような扱いになっているが、それが本当に最適解なのかどうかはわからない。いまところ、ディープラーニングに代わる手法が出てきていないだけかもしれない。

AIイメージ

©metamorworks / Shutterstock

記事中に出てくる「汎用AI」についての説明がないので、違いがわかりにくい。

汎用AI(ハンヨウエーアイ)とは – コトバンク

特定の用途や目的に限定せず、自律的に思考・学習・判断・行動する人工知能(AI)。まだ研究段階だが、いずれ人間と同等または人間以上の知的能力をもつ人工知能が登場すると考えられている。汎用人工知能。AGI(artificial general intelligence)。

汎用AIが、2030年代に登場するかどうかは疑問だ。
最短で12年後、最長で21年後という話だが、現状のAI技術の延長線では、遠からず壁にぶつかる。ディープラーニングがやっていることは、膨大な選択肢からの峻別であって、「考える」ことをしているわけではない。因果関係や結果を出した過程は不明で、ある条件を満たす答が、理由は無視して選択しているにすぎない。それが正解もしくは正解に近いということなのだ。

「その答を導き出した理由を説明せよ」
と、問いただしても、現状のAIは答えられない。そこを答えられるようになるのが、汎用AIだといえる。

汎用AIが実現するために乗り越えなくてはいけない壁を、私は「知性の壁」と呼んでいる。
参照→ 「知性の壁」は超えられるか?

度々書いていることだが、AIが「ひらめき」あるいは「知性」を獲得するためには、それを可能とするパーツが必要だ。
人間の場合、「脳」がそれにあたる。
現状のAIには、知性を生むためのパーツがないのだから、どんなに頑張っても知性は芽生えない。シリコンチップは数学的計算はするが、思考するわけではない。

知性がソフトウエアで可能かというと、それは無理だろう。
人間の知性はソフトウエアなのだろうか?
おそらく、違う。
人間の脳と肉体の五感、そして経験から育まれる人格の総合体が知性になる。ハードとしての脳、ソフトウエアとしての心(あるいは魂)は、切っても切れない関係であり、知性はどちらか単独に存在するのではないはずだ。

宗教的あるいはオカルト的な表現をするなら、人間の体には魂が宿る。魂がどこからやってくるかなんて聞かないでくれ(^_^)。天国とか霊界とか前世とかいう話になってしまう。
AIのCPUやGPUに、魂が宿る余地はあるだろうか?
たぶん、ないよね。転生したらシリコンチップの中だった……なんてのは不幸としか思えない。

AIに知性が芽生える、あるいは魂が宿るためには、そのためのパーツあるいは器官が絶対的に必要だと思う。
そのパーツは、まだ発明されていない。
可能性として考えられるのは量子コンピュータだが、どのくらい量子ビットがあれが可能になるのかはわからない。

40~50年代に来ると期待されているシンギュラリティも、汎用の量子コンピュータなしには達成できないだろうね。現状の量子コンピュータは量子ビット数が少ないし、極低温でガンガンに冷却しないと使えない。電力をバカ食いするから、実用的な量子コンピュータ駆動のAIは、Googleような巨大企業にしか運営できないかもしれない。

人間の脳は量子的に動作しているとの説もあるが、常温で稼動できる量子コンピュータを作る方法はあるはずだ。

常温で使える量子コンピュータを開発している日本の研究者がいる。

100億個のシナプスで「量子脳」を作る、国産量子コンピュータの野望 | 日経 xTECH(クロステック)

量子ビットとして超伝導回路の代わりに、2000個の光パルスを用いるのが特徴だ。希釈冷凍機で極低温まで冷やす必要がなく、常温で演算できる。このため装置を小型化しやすく、また冷却に要する電力も不要になる。

なかなか興味深い発想なのだが、その後、どこまで進展したのかのニュースは発信されていないようだ。

AIとロボットはリンクして語られることが多い。
ロボットをより人間的にするには、AIによるバックグランドでのサポートが必要だからだ。
日本では、AIよりもロボット開発の方に傾注している。ロボットを限りなく人間に似せる方向性が正しいとは思わないのだが、見た目のインパクトがあるためか、不気味の谷を越えようと人間的なロボット開発が進められている。

鉄腕アトムのような心を持ったロボットが可能か?

アトムは小さな体の中に、スパコンよりも高性能な量子コンピュータを内蔵し、知性を発現させている。技術的にそれが可能になるには、早くても50年やそこらはかかる。

知性の壁を超え、汎用AIおよびシンギュラリティの未来が来るには、常温稼動の量子コンピュータなしには実現は難しい。

日本がAIで世界をリードしたいという野望を持っているのなら、常温稼動の汎用量子コンピュータのスタンダードを作ることだ。
道としては、この一点突破のみ。

しかしながら、莫大な研究・開発費と多くの優秀な人材が必要になる。それを調達できないのが日本の現状でもある。
野暮な話なってしまうが、結局「金しだい」ということ。Googleにかなわないのは、そこ。

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