経済成長は、欲望の追求でもある。
競争原理で技術が発展し、豊かさを求めて突き進む。競争は勝者と敗者を生み、勝者は欲望を満たし、敗者は社会の底辺に甘んじる。勝者は少数であり、多くの人は敗者となる。
度々書いていることだが、世界の富は有限なので、少数が多くの富を得れば、多数の人々の取り分は少なくなる。それはパイの取り分け方に例えられる。
資本主義はパイの奪い合いだ。
『欲望の資本主義2023 逆転のトライアングルに賭ける時 – BS1スペシャル – NHK』から、識者の発言の書き起こし。
ダニー・ドーリング氏
オックスフォード大学の異色の地理学者。大家族時代の終焉を指摘し、実は世界は既に減速を始めていると主張する。ダニー・ドーリング氏:“恐怖のトリクルアップ”という記事を、最近、書きました。
社会の上位10%や1%に入っている人でも、脱落する可能性が高いため、恐怖を感じるのです。
国が豊かにならない状況で、大きな不平等が存在すると、恐怖は増大します。人々は自分の子どもたちが、安泰でいられるよう、自分が上位10%とか1%に入ろうと考え、努力します。必死にね。マリアナ・マッツカート氏
イタリア出身、現在はロンドンで研究。イノベーション創出における市場と政府の役割を問い直し、EUの政策にも関わり、世界が注目する気鋭の経済学者。マリアナ・マッツカート氏:光熱費が上がり、住宅ローンの支払いが増え、“暖を取るか、食事を摂るか” 多くの人が選択を迫られています。あるべき状況ではありません。
独占的部門や石油・鉱業部門の超過利潤によるインフレの可能性も。彼らは独占力で利益を増やしているのです。ジャック・アタリ氏:インフレの原因は……、需要超過ではなく、供給不足だと言えます。
供給不足です。例えば食料や穀物、肥料、さまざまな分野の代替部品。パーツや食料が足りず、価格が上がるのです。
そして戦争で、燃料費等がさらに高騰しました。燃料費は数か月前と比べれば、それほど上がっていないとしてもね。ナレーション:問題は単なるインフレではない。背景にある、エネルギーを巡る覇権争いだ。冷戦時代に逆戻りしたかのような世界。
エマニュエル・トッド氏:今回の(ウクライナ)戦争が始まって、印象的だったのは……、ロシアが経済的な観点から、生き残れると判断したことです。金融制裁や経済制裁を乗り越えて、もしかしたらアメリカ主導の世界経済を破壊できるのではと考えました。これが今、私たちが目撃していることです。
生産できるということは、全てが崩壊した世界で、国家として生き残れるということです。今や、心を入れ替えねばなりません。目標は、もはや金もうけではないのです。ナレーション:イノベーションをキーワードに、真の成長をどう生むか、イギリスとフランスを行き来する世界的な理論経済学者は……
フィリップ・アギヨン氏:インフレへの対処法?
明日の成長とインフレ抑制には、3つの手段が必要です。
金利を適度に上げ、賃金・物価スパイラルを招かないよう、国による予算措置を講じます。そして産業政策で、モノの供給を増やすのです。それにイノベーションも必要です。新たな企業の参入も、促さねばなりません。ナレーション:インフレへの対応に追われる世界。お金の価値が下がるインフレを、金利を上げることで相殺する。各国の中央銀行は、一斉に高金利政策に切り替えた。そんな中、さらに慎重な対応が必要とされる国が……(日本)
番組は1時間50分だが、第1章は約10分で、概要が述べられている。
おおざっぱに要約すると、「これまでのやり方(常識)は通用しない」ということなんだろう。
大量生産、大量消費、右肩上がりの高い成長率、贅沢な生活、誰もが豊かになれるという願望……等々、欲望のまま突き進む社会では成り立たなくなってきた。
イノベーションというのが、決まり文句のように出てくるのだが……
イノベーションとは、物事の「新機軸」「新結合」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」のこと。一般には新しい技術の発明を指すという意味に誤認されることが多いが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自律的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。
イノベーションにも程度の差があると思うのだが、小さなイノベーションから大きなイノベーションまで、どの程度のイノベーションが生み出せるかだよね。
そうそう簡単に、大変革を起こすようなイノベーションは出てこないのではないか?
なんとなく言葉がひとり歩きしていて、なんでもかんでもイノベーションと名付けているようにも思える。
番組の冒頭の言葉として……
……このケインズの言葉が、意味深だね。
しかも、1936年の発言だ。それが現在にも通用するというのは、先見の明があったというより、87年前から、社会はちっとも進歩していないからだともいえる。
「供給が足りない」との指摘が出ているが、生産・製造が追いつかないというより、供給しなくてはいけない量が多すぎるからだろう。なぜ必要供給量が多くなるかといえば、消費する人口が多いからだ。
過去100年で世界人口は4倍になったが、消費量は4倍になったのに、生産力は4倍にはなっていないということだ。それは生産・製造にかかわる生産的労働人口よりも、非生産(不生産)的労働である金融やサービス業などの労働人口の割合が多くなっているからでもある。
この「欲望の資本主義」シリーズの意図するところは、今までの資本主義ではダメだということ、資本主義の限界を示唆しているように思える。
第2章以降の書き起こしは……、時間があったらやります(^_^)b
けっこう時間がかかるので。