NHKがかなり力を入れていると思われる、新年のドキュメンタリー2本。
昨今の世相を反映し、暗澹たる近未来を予想する内容だ。
多くの示唆と提言が挙げられているが、希望よりも絶望感が勝っている。
救いはあるのだろうか?
混迷の世紀 「2023巻頭言 世界は平和と秩序を取り戻せるか」 – NHKスペシャル – NHK
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、世界の平和と秩序を根底から覆した。その影響は、私たちの暮らしにも及んでいる。深刻化しつつあるインフレ、食料安全保障、エネルギー危機。グローバル化による相互依存が進めば、世界は安定すると信じられてきたが、その理念は打ち破られた。世界の安定は失われ「混迷の世紀」へと突入した。世界の識者へのインタビューから、これからの時代を生きるヒントを探る。
欲望の資本主義2023 逆転のトライアングルに賭ける時 – BS1スペシャル – NHK
2017年から新春恒例、異色の経済教養ドキュメント。インフレ、乱高下する円、エネルギー問題、膨張する債務…。混迷の中、世界の知性と本質を考察。今、考えるべきは?
難問山積の世界情勢。石油危機から50年、狂乱物価再来を危惧する声も。イノベーションが叫ばれるが真の可能性は?グローバリズムの功罪が問われる中、一早く撤退を決めたはずのイギリスは最悪のインフレに苦しみ、GAFAMでデジタル経済を謳歌したアメリカにも不透明感が広がる。「富を生むルール」が変わる時代に欲望をキーワードに現代社会の構造を問い続けてきた番組が危機を直視、今後を展望。逆転のトライアングルとは?
内容的には重複する部分があるが、悲観的な未来しか見えない。
『混迷の世紀 「2023巻頭言 世界は平和と秩序を取り戻せるか」』から、重要な発言を書き起こし。
ナレーター:去年12月、旧ソビエト連邦の国々で市民の声を記録し続けてきたひとりのジャーナリストがインタビューに応じました。ノーベル文学賞を受賞したスベトラーナ・アレクシェービッチ氏。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から10ヶ月。この戦いは一体どこに行き着くのでしょうか?
アレクシェービッチ氏:この戦争は長く続くと思います。少なくとも2023年いっぱいはウクライナは戦い続けるでしょう。
プーチン大統領は自分の計画を諦めないでしょう。
今ロシアの街に行ったらショックを受けるはずです。戦車の形をしたベビーカーや、軍服を着た幼い子どもの姿を目にするからです。
子供用の軍服のお店まであります。ヒトラー政権下のドイツでも、そんなことありませんでした。世界はそれを見てどんな危険が待ち受けているか知るべきなのです。一年前は、今起こっていることを我々は全く想像できませんでした。
このような犯罪が起こること、第二次世界大戦後の全ての秩序を破壊していること、何百万人の犠牲者をだして打ち立てた秩序なのに、誰もこんなことになるなんて想像できませんでした。
もちろんロシア人の中に、帝国を志向する傾向があることは知っていました。
しかし、それが殺戮という形で結実してしまうとは全く考えが及びませんでした。インタビュアー:ロシアの人々の間で、戦争についての考え方は変わってきたと思われますか?
アレクシェービッチ氏:最近のYouTubeに、母親がロシア軍にいた息子の葬儀をしている様子があがっていました。
母親はジャーナリストに対し、とても恐ろしい言葉を言いました。
「あなたの取材を受けると死んだ息子に支払われるお金がもらえなくなる。そのお金で娘の家を建てるつもりだ」と。
私がアフガニスタン侵攻の取材をしていたとき、当時の母親はこのようなことは話しませんでした。彼女たちは、戦死した息子の記憶をお金に換算しませんでした。反対に、息子の死を忘れないために、お墓を建てることにお金を使いました。
彼女たちはクレムリンを呪いました。今とは全く違う態度でした。
これだけを見ても、社会がいかに退廃しているかがわかると思います。テレビによる支配力がとても大きいです。
ロシア国民はテレビを全て信じているかのようです。
捕虜になったロシア兵は、両親に電話をかけることを許されますが、その会話を聞くと恐ろしいです。
兵士が「ここにはナチス主義者も民族主義者もいない、普通の人たちで僕たちを攻撃してこない」と言っても、両親たちは「私たちはテレビを見て全ての事実を知っている。あなたは英雄なのだから、敵を殺しなさい」と叫ぶのです。
ある女性は夫の兵士に、「できるだけ多くの女性を暴行しなさい。あなたはウクライナ人に復讐しなければならない」と叫びました。
兵士が、「何に対して復讐するの? 私は何もされていない」と言うと、妻は「あなたはテレビを見ていないからよ」と言うのです。
真実が奪われているのです。インタビュアー:ロシアの国民がプーチン大統領はおかしいんだと気づいて、世論でロシアの政治を変えることは、すぐには起きないという考えでしょうか?
アレクシェービッチ氏:家族の中でも子どもと親で対立する事態になっています。子どもは反プーチンで親はプーチン支持というように、多くの家庭で深刻な対立が起きているのです。夫婦間で対立している家庭もあります。
ロシアは今、2つに分断されているのです。しかし、プーチン大統領に反対する人たちは無力です。
例えば、教師が授業で戦争反対を言うと、すぐに職を失います。記者もそうです。プーチン大統領を批判すれば、誰でも同じ目にあいます。そのため社会が力を合わせることができません。
戦争に反対する力は今、無力なのです。
このような状況は、戦時中の日本と同じだ。
日本は鬼畜米英と叫び、お国のために死ぬことが正しいと信じられていた。時代が80年ほど巻き戻されたように感じる。歴史は繰り返すといわれるが、第三次世界大戦の端緒に立っているようだ。
ロシア分析はさらに続くのだが、そこは飛ばして、エネルギー問題での脱炭素化についての、新たな問題点の指摘についての発言。
ダニエル・ヤーギン氏は言う。
最近になって、明らかになった別の問題があります。
人々は風と太陽光は無料だと考えていますね。もちろん風と太陽光は無料ですが、それらを活用するには、膨大な量の鉱物や原料が必要になるとわかったのです。
我々は銅に関する調査を行いました。銅は電気をよく通す金属で、電気自動車には従来の自動車の2.5倍の銅が使用されていたのです。風力発電に使うタービンにも、大量の銅が使われています。
2050年のゼロエミッションを達成するには、世界の銅の需用が2035年までに2倍に増えると予測しました。しかし、現状の銅の供給では間に合わず、新たな鉱山を開くにも16年かかります。しかも銅の38%は、チリとペルーで産出されています。そして、どちらの国にも採掘への反対意見があります。
最終的なゼロエミッション達成には、その他にもさまざまな鉱物が必要になります。それらは中国がほとんどを管理し、製品化しています。リチウム電池やソーラーパネルの80%は中国が独占しているのです。
この方向に進むと、いくつかの変化が見えてきます。
エネルギー転換と新たな地政学、そして中国との緊張関係です。この問題の複雑さに、ようやく気づき始めたところです。
必要な鉱物は簡単には手に入らず、どこかで採掘し、加工しなければならないのです。
この鉱物資源問題は、『BS世界のドキュメンタリー「リチウムを獲得せよ! 欧州エネルギー安全保障と新秩序」』でも取り上げたが、脱炭素のために必要な資源が眠るどこかの地面を掘り起こして自然を破壊しなくてはならない。石油・石炭の使用をゼロにするために、別の自然環境を破壊することを良しとするかどうか。
気候正義を主張するグレタさんは、良しとする立場なのかな?
同様の主張と行動をする人たちの意見を聞きたいものだ。名画を汚しても、なにも解決しないんだ。
悲観的な予想ばかりで、希望が見えにくい。
長くなったので、続きは後日に。