「アニメーターだけじゃ食っていけない」という見出しの記事。
「アニメーターだけじゃ食っていけない」3年離職率が9割、厳しいアニメ制作現場で働き方改革に挑む人々 | AbemaTIMES
「クールジャパン」の象徴として、世界に誇る日本のアニメ。「日本動画協会」の調査によるれば、日本のアニメ産業の売り上げは2016年に2兆円を突破した。この4月クールも70作品が新たに公開されるなど、勢いはとどまることを知らない。その一方で、アニメの制作現場は”ブラック”だというイメージが定着して久しく、低賃金や離職率の高さも指摘され続けてきた。
(中略)
寮生の新人アニメーター・阿久津徹也さんも「1枚描いたら大体200円なので、500枚で10万円の計算。ただ、これは速く描ける人、効率よく描ける人が到達できるラインで、新人だと100枚描けるかどうか。場合によっては”研修”という名目で、給料ゼロがずっと続く場合もある」と話す。原画マン・動画マンの大半は歩合制で給料を稼いでいるのだ。
アニメーター支援機構によれば、彼らの年収は20代前半の原画マンが平均282万円、動画マンが平均111万円となっている(2013年調べ)。過酷な現場であることもあいまって、3年での離職率は9割に達している。
(中略)
原画マンの報酬はカット数×4000円だというが、業界の慣習では、登場するキャラクターが1人でも3人でも同じ。つまり、いくら手間暇のかかる場面だったとしても報酬は変わらないのが現実だった。そこで、スタジオ雲雀では、複雑な絵ほど高い報酬が得られるようにした。現在は原画マンだけが対象だが、将来的には動画マンにも導入する考えだ。
(中略)
日本アニメの産業売り上げが2009年の約1.25兆円から2013年には1.47兆円と18%増えているのに対し、動画マンと呼ばれる駆け出しのアニメーターの年収は2009年の105.6万円から2013年には111.0万円と5%しか増えていない。
(中略)
慶應義塾大学の若新雄純・特任准教授は「日本には海外に比べて”売れないかもしれないけれど、作品を作る土壌は守っていこう”という雰囲気がないし、投資する人も少ない。他の分野に比べ、アニメの地位が低かった時代もあったが、これからは金を出し合ってでも守らなければいけないものだという認識にならなければならない」と訴えていた。
この記事、配信されたのは8/24だったが、27日の現在は閲覧できなくなっている。
この短命掲載の意図はなに?
他の記事は、1年前のものでも残っているのに……。
なにか載せちゃいけないことが書いてあったのか、それともなにかの圧力があったのか?
そんなことを勘ぐってしまう。
私の過去記事にも以下のような記事ある。
→「アニメーターでは食えなかった」
私の記事は2006年に書いたもので、私がアニメーターをやっていたのは1985年頃(笑)。
その頃から、現在に至るまで、アニメ制作現場の労働環境は、一部に改善は見られるものの、全体的にはあまり変わっていないようだ。
一部の改善というのは、一部の制作会社が、独自に労働者としてのアニメーターの雇用条件を考慮しているからにすぎない。業界全体としては、相変わらず低賃金で長時間労働が続いている。根本的な部分で、なにも変わっていないといえる。
前にも書いたことだが、アニメーターの労働環境が劣悪なことの一番の要因は、正社員として雇用されていないことだ。大部分のアニメーターは、制作会社に属していても、正社員としての契約をしていない。仕事場として机は与えられるが、名目社員であって、実質的には自営業(フリーランス)扱いなのだ。
正社員ではないから、最低賃金は適用されず、1枚描いていくらという歩合給のみとなり、雇用環境としては時給計算のアルバイト以下である。
労基法に違反しないだろうギリギリの労働環境が、慣習として続いている。
しかし、厳密にいえば正社員契約をしていなくても、会社に一定時間拘束されるし、上司と部下の関係があり、ノルマやペナルティもあり、仕事に関しては正社員のような扱いを受けているのだから、裁判を起こせば正社員と同等と判断されるのではないかと思う。
だが、そこまでやる人はいない。そんな裁判を起こす余裕すらないのがアニメーターでもあるからだ。また、その裁判に勝ったとしても、得られるものは少ない。
毎シーズン(春・夏・秋・冬)に制作される新番組アニメは、50〜70本ほどある。
なぜ、これほど量産されるかといえば、コストがかからない安い番組だからだ。人気俳優の出演するドラマが、1シーズンで50本も作られることはない。俳優に払うギャラだけで、かなりの金額になってしまう。
キムタクのギャラは、ドラマ1話あたり450万円ほどだそうだ。毎週放送の月に4本では、1800万円となる。
これは月収10万円のアニメーターを、180人雇える金額。
いかにアニメが安上がりかという話。
本来なら、これほど劣悪な労働環境であれば、人材は集まりにくくなる。建設業界や介護業界で人手が足りなくなっているように。
しかしアニメ業界は、アニメが好きで、アニメ制作に夢を抱く若者たちが一定数いることで、なんとか回っている。
3年離職率が9割だとして、1000人中100人残れば、抜けた穴はとりあえず埋められる。毎年、毎年新人を採用し、そのうち1割残れば御の字という計算を立ててきたのだと思う。
私がアニメ制作会社に在籍していたとき、毎月のように新人が入ってきた。そして、毎月辞めていく人がいた。差し引きはゼロから若干のプラス。会社として用意できる机の数は限られているから、そこが埋まっていればいいのだ。
新人アニメーターは使い捨てだった。
動画アニメーターにも、それなりの技術は必要だが、多少の絵心があれば、習得するのに1カ月もかからない。
動画マンから原画マンへ、さらに作画監督や演出、監督にまで出世するのは、ごくごく一部。末端の動画アニメーターがいないと作品は完成しないから、不可欠なピースではあるものの、低賃金でもやるアニメーターがいることで成り立っている。
何度も書いていることだが、まず、アニメーターを正社員としての雇用契約すること。
これが大前提だ。
正社員であれば、年収が111万円などということにはならない。少なくとも、高卒初任給の平均額である年収160万円(平成29年度調査)程度にはなる。
アニメーターの待遇改善は必要なのだが、賃金が上がれば制作コストも上がるから、現在のような量産はできなくなる。制作本数が減れば、アニメーターの仕事も減る。仕事が減れば、雇用する人材も減る。……という、悪循環に陥る可能性もある。
アニメーターの労働環境を向上させつつ、アニメ業界を発展させるのは、なかなか難しいように思う。
ひとつの方策としては、「君の名は。」のように大ヒットした作品の場合、制作に関わったスタッフたちにも、興行収入に応じた利益の還元をすることだろう。
ヒットしたらボーナスが出るとか。
正社員ではないアニメーターには、ボーナスなんてないからね。
前途多難なのだが、30年前、20年前、10年前も同じような問題提起がされてきたのに、いまだに改善されていない。
おそらく、10年後もアニメ業界が存続していれば、同じことをいっていそう。