アニメ業界ほど「やりがい搾取」している業界はないと思う。
ブラック企業大賞で、そのときどきで話題になった企業がリストアップされるが、それらのブラック企業に比べたら、アニメ業界はもっと黒い「超ブラック」だ。
ただし、すべてのアニメ制作会社が超ブラックなわけではないものの、比較的恵まれているのはほんの一握りの数社だけ。
アニメ市場は絶好調、でも儲からないアニメ制作業界 市場退出は過去最多に(帝国データバンク) – Yahoo!ニュース
近年はアニメ映画などで大ヒット作も相次ぎ、年間のアニメ放送本数は300本以上、版権などを含めた市場規模は2兆円に到達するなど、一大産業へと成長したアニメ業界。しかし、その制作現場では近年トラブルが相次いでいる。2019年4月にはアニメ制作大手のマッドハウスが、上限を超えた時間外労働があったとして、新宿労働基準監督署より是正勧告を受けた。
(中略)
こうしたなか、経営が行き詰まるアニメ制作企業が増えている。倒産や休廃業、解散などで、市場から退出したアニメ制作企業は3年連続で増え続け、2018年は11件判明。件数こそ小規模だが、2017年(6件)と比較すると約2倍の水準だ。
(中略)
帝国データバンクの調査(アニメ制作企業の経営実態調査、2018年8月)では、2017年に増収となった制作企業は39.6%。ヒット作品の増加や版権収入の恩恵を受けた大手などでは増収傾向だった。利益面でも、増益企業が54.9%を占め、3年ぶりに全体の半数超を占めたが、減益となった企業も4割を占める。また、赤字企業も21.6%を占め、5社に1社は採算が取れていない。
減益や赤字となった背景は、アニメーターの正社員登用や育成、デジタル技術の導入と言った、人件費の増加と先行投資によるものもある。
(中略)
経済産業省は、こうしたアニメ業界の現状を背景に、2013年からアニメ制作における適正な取引を示したガイドラインを公表。取引環境の向上や人材育成、スケジュール管理など、法令順守に向け、業界を挙げての課題解決に向けた取り組みを期待している。
「アニメ市場は絶好調」を支えているのは、じつのところ極めて低い人件費のお陰で、制作費が低く抑えられているからだ。ハリウッド映画だと、制作費が数百億円なんてざらだが、日本のアニメ映画制作費は平均的には1億~3億円といわれ、10億円以上かけるジブリなどは例外的。
大ヒットした「君の名は。」は、興行収入250.3億円に達したが、その制作費は公表されていない。新海誠監督の前作「言の葉の庭」の興行収入が、推定で約1億5000万円とのことで、クオリティ的にはほぼ同等の作品なので、制作費はかなり安かったと思われる。
おそらく、「君の名は。」は同程度か、少し上乗せしたくらいではと想像する。これほどの大ヒットになる確証はなかったはずだからだ。
制作裏話で、制作会社の社長が「制作が行き詰まらないよう、借金で3億円は用意していた」というくらいだから、1桁の億なんだろうな。それが約100倍になったわけだ。
制作費が安いからちょっとヒットすれば、利益は大きくなる。その利益の大部分を取るのは、制作現場ではなく配給会社や版権を持つ会社だ。ヒエラルキーの上の方は潤うが、下の方の制作現場はカラカラの砂漠状態。100円で作ったものを、1万円で売るような話。
ディズニーでは「アナと雪の女王」の制作費が、1.5億ドル(約163億円)だという。
これだけ制作費がかかると、「君の名は。」の興行収入が250.3億円でも、87.3億円のプラスにしかならない。
日本のアニメは、安く作って高く売る構図なのだ。
アニメ業界は、労働環境、雇用環境がちゃんとしていないから、入ってくる新人がいても長続きしない。私もそのひとりだったが、夢や「やりがい」だけでは食べていけないのだ。
また、ベテランになってくると、フリーランスとして独立したり、自ら制作会社を立ち上げたりする。もともと完全歩合給の自営業扱いなのだから、独立しても同じことだ。会社を作っても、アニメーターを正社員として雇用する必要はない。自分がそうであったように、歩合給で名目社員にしておればいいし、人件費は低く抑えられる。会社のトップであれば、取り分は自分で決められるわけで、使われる身分よりは使う身分の方が収入の点ではよくなる。そんな事情もあって、制作会社が乱立する……という展開なのだろう。
記事中の……
「減益や赤字となった背景は、アニメーターの正社員登用や育成」
……という部分。
ここなんだよね。正社員として雇用すると赤字になる。
つまり、普通のサラリーマン並みの給料は払えないってこと。アルバイトですら最低賃金があるので、アルバイトにもできない。歩合給の場合、枚数をこなせない新人は、時給換算すれば数百円だろう。
私がアニメーターだった頃は、1枚100円だから、もっと安かった。多数の人物が出てくるモブシーンなんか描かされた日には、1枚描くのに数時間はかかる。1日に10枚しか描けない日もあって、そういうときは日給が1000円だ。その過酷さを想像してほしい(×_×)
経産省のかけ声は……
「取引環境の向上や人材育成、スケジュール管理など、法令順守に向け、業界を挙げての課題解決に向けた取り組みを期待している。」
期待するだけじゃ、なにも変わらないと思うよ。
業界の自助努力でどうこうできるレベルじゃないと思う。
テレビアニメの制作本数が多いのは、制作費が安いからであって、需要が多いからというわけでもないだろう。テレビ局は24時間の番組表を埋めなくちゃいけないようで、深夜枠をアニメで埋めている。人気タレントの出るドラマを、アニメのように量産すると、タレントのギャラだけで高額になってしまう。
30分アニメの1話分の制作費は、1000万~1300万円程度。
役所広司さんや水谷豊さんは、ドラマ1話分が350万円。木村拓哉さん、福山雅治さん、佐藤浩市さん、織田裕二さんは300万円らしい。人気俳優を3〜4人出したら、アニメ1本分になる計算。
改善するための効果的かつ即効性のある策は乏しい。
クラッシュ&ビルドで、一度アニメ業界は解体した方がいいかもしれない。
危機だ、危機だといわれ続けて40年あまり。わずかな改善は見られるものの、進行性のがんのように症状は悪いまま。
監督になれば収入もよくなるだろうが、誰もが監督になれるわけじゃないし、そうなれるのはアニメ業界に入った人のうち0.1%もいない。
その他大勢のアニメーターであっても、ある程度の才能と能力は必要だ。
下っ端のアニメーターがいないと作品は制作できない。底辺が食えないと、土台から崩れていく。
才能と努力が報われる業界にしないと、明るい未来は望めないと思う。