京アニの放火テロが悲惨なことになっているが……。
まだ詳細が不明なので、その話題については続報を見守りたい。
少々気は重いが……、アニメ関連の話題。
「クールジャパンの失敗」という痛いところを突いている記事。
日本はいま最高にクールなのに自国文化の売り方を知らない | 電通や博報堂に任せた「クールジャパン」の失敗に学べ | クーリエ・ジャポン
日本のポップカルチャー人気はかつてないほど世界的に広まっているのに、日本はその売り出し方を全然わかっていない! 米経済メディア「ブルームバーグ」知日派コラムニストがもの申し、突っ込んだ代案を示す──。
日本文化の新世紀が到来しているのに
「ネットフリックス」は史上最も人気の高かったアニメ番組のひとつを再配信しはじめた。「新世紀エヴァンゲリオン」だ。
(中略)
だが四半世紀経ったいま、日本は新たに得た文化的威信を経済的財産へと変えるのに苦労している。
(中略)
だが、日本の文化的威信は、エンターテイメント商品をはるかに超えてその実力を発揮しうる。『Reinventing Japan』(『ガラパゴス・クール』英語増補版)で示されているように、日本製の商品やサービス──自動車、衣服、食品、建築、ジッパーまでも──は比類なき日本的美学の感性を体現している。この「日本らしさ」は言い表しにくいが、見分けやすくはある。そして、正確に宣伝されれば、日本の輸出を増やすために活用しうるものだ。
日本は輸出中心の経済だと思っている人は多いが、じつは大半の国より鎖国的だ。
(中略)
日本政府もずっと、「グロス・ナショナル・クール(GNC)」とも呼ばれるものの可能性に気づいてはいる。
だが、この流行をフル活用しようという政府の下手な試み「クールジャパン」構想は、ほぼ失敗している。政府は「電通」や「博報堂」といったトップ広告代理店に多額の公的資金をつぎ込んだが、こうした企業の努力はほとんど目に見える成果をあげていない。
(中略)
若く、柔軟な発想を持ち、国際的経験のある社員を登用してこの取り組みの先頭に立たせ、新市場開拓のために人材も資本も海外に送り出すべきだ。
世界中のテレビ画面に新世紀エヴァンゲリオンが初めて映ってから20年以上が経ち、日本はかつてないほどにクールだ。あとはただそのクールさを信じればよいのだ。
Netflixで配信しているエヴァの最初のTVシリーズは、懐かしさとともに見ている。
あらためて思うが、エヴァはこのTVシリーズが、一番面白い。監督は不満だらけの作品だったようだが、のちに映画化された作品は、焼き直しであり、蛇足であり、技術的に高度にはなっていても、TVシリーズの時のような衝撃はない。
前にも書いたように思うが、日本アニメの特殊性は、ガラパゴスゆえの産物だ。
鎖国的だったから、海外から見ると「クール」な作品が生まれる土壌になった。江戸時代の浮世絵が、海外に流れてゴッホなどに影響を与えたのも、鎖国されていた環境があったために独自に発展をした文化になったからだ。
これは諸刃の剣でもある。
鎖国的だからクールなサブカルを生み出せるが、ハリウッドのようにグローバルに展開するとクールさは薄まる。オープンな環境になっていくと、角が取れて平凡になってしまう可能性もある。ハリウッドのように巨額な資金が動くと、投資を回収するのにメガヒット作にならないといけなくなる。それは大きなリスクをともなう。
エヴァだって、当初はきわめてマニアックな作品であり、しょぼい制作費で地味だった。TVシリーズの終盤は、制作が追いつかなくて使った手抜きの手法が、逆に新鮮な手法になったという怪我の功名もあった。人気が出始めた頃でも、まだマニアの間でのことだった。
海外マーケティングがどうとか、制作時はあまり考えていなかったと思う。当時はネット配信なんてないし、海外で放送するにはハードルが高く、ビデオテープか円盤を売るしか方法がなかった時代だ。内向きだから作れた作品でもあったと思う。
日本アニメが海外からクールとして見られているのは、グローバル化していないローカル性に「日本らしさ」を感じているからだろう。その点では、京都や芸者、歌舞伎や忍者などに日本文化を感じるのと共通している。ある意味、日本アニメは伝統芸能化しているともいえる。
クールジャパンは、マニアックでローカルで希少性ゆえに価値を持っている。
それがハリウッドのようにメジャー化すると、おそらくクールではなくなる。
エヴァが海外でも人気といっても、「アナと雪の女王」や「Star Wars」にはかなわない。宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」がアカデミー賞長編アニメ映画賞を取ってはいても、興行成績トップ50に入っているわけではない。1位は「アバター」で「アナと雪の女王」は3位だ。
政府主導のクールジャパンは、当初から的外れだった。
過去記事の「官製クールジャパンは死に体に…」でも書いたが、実情を踏まえず、なにが必要かを考えずに資金を投じても、中間マージンを搾取する大手広告代理店が儲かるだけで、末端の制作現場にはなにも恩恵がない。
資金を投じるなら、制作現場に直接投じる必要がある。
アニメーターなどの労働者の待遇改善、作品の制作費、若手育成のための援助など、地味だけど足りていない部分に直接資金を注入する。それも一過性ではなく、継続的な支援が必要だろう。成果が出るには数年〜十数年はかかるからだ。
「新市場開拓のために人材も資本も海外に送り出すべき」とあるが、じつはこれが一番の難題。
とかく、日本人は内向きなところがある。アニメ業界を目指す人は、特にそうだ。
理由は、第一に言語の問題。
普通の日本人でも、英語が苦手だし、外人コンプレックスがある。あえて外国に行こうというような人は、アニメ業界を目指したりはしない……と思う。
日本のアニメ界は狭い世界だ。
ハリウッドのようにグローバルを意識してこなかった。
内向きに、内向きに日本でしか通用しないような作り方をしてきた。それがあるときから、「クール」だと海外のファンを獲得してしまった。クールジャパンを発掘したのは、海外のマニアックなファンだったのだ。
「自国文化の売り方を知らない」というのはそのとおりなのだが、マイナーだからクールジャパンたりえているともいえる。ガラパゴス諸島のイグアナは、孤立した環境だから生きられるわけで、海を渡って大陸に上がったら絶滅してしまうかもしれない。日本アニメは、はたしてグローバルでクールさを保ったまま生き残れるかどうか。
最近は、韓国や中国でもアニメが作られているが、日本アニメの手法をほぼそのまま取り入れている。それは、かつては日本から下請けをしていたことで、技術や手法を会得したからだ。
これは半導体やテレビなどの流れと似ている。かつては日本の得意分野だったのに、技術移転などをした結果、技術的に遜色がなくなり、生産力で追い越されてしまった。
アニメも同じ道を辿るかもしれない。
海外に進出することは必要だが、同時に日本らしいクールさが失われる副作用もある。
アメリカでは、ディズニーが巨大エンタメ企業になり、ブランド価値を高めているが、日本にはそうしたものがない。ジブリがそうなる可能性はあったものの、宮崎監督の引退宣言とともに消滅してしまった。いま、宮崎監督が復帰して再始動しているが、宮崎監督ありきのジブリなので、ディズニーのようにはならないだろう。
自動車業界でいえばトヨタ、家電業界でいえばソニーやパナソニック、カメラ業界でいえばキヤノンやニコン、ゲーム業界でいえば任天堂とソニー……というように、業界を支える世界的企業がアニメ業界にも必要な気がする。零細企業ばかりでは、どうしてもパワーで負ける。
なかなか難しい問題だね。