もっと根本的な問題があるよ→「日本のポップパワー発信10策」

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 「日本のポップパワー発信10策 」について、やまもといちろう氏に便乗して、私からもツッコミを(笑)。

「規模の経済」が働かないコンテンツ産業に変な振興策を持ち込むのはやめて欲しい(やまもといちろう) – BLOGOS(ブロゴス)

 中村伊知哉せんせから極論が出てきていて、ツッコミ待ちの状態になっていたので、こちらも極論で突っ込んでおきたいと思います。

 若かりし頃、極貧アニメーターをやっていた私にいわせれば……

アニメーターになったら、リッチになれるようにしてくれ!

 ……という一言に尽きる。
参照→「アニメーターでは食えなかった

 クールジャパンの代名詞にもされるアニメやマンガだが、末端の現場で働く人たちは、所得の低い人が多く、貧乏の中で「好きだから」という一途な思いでがんばっている。
 彼らが、平均所得以上の収入を得られるようにしてやって欲しい。
 平均所得とは、442万円(2012年)だ。

平均年収/生涯賃金(100職種別) 2012年版 - DODA[デューダ]

2012年度の平均年収は442万円(前年比-4万円)

 私がアニメーターをやっていたころは、現在よりもひどい状況ではあったが、年収が100万円に満たなかった。普通のサラリーマン並みの生活などできるわけもなく、貧乏で食べものも買えず、電話、電気、ガス、水道を止められたこともあった。ちなみに、止められる順番もこの並びだ。
 貧しい生活というか、生きることにギリギリの状態だった。
 私が在籍していた下請けアニメ制作会社には、同様の境遇の人が50人くらいいた。ほかにも下請けの制作会社は10~20社はあったので、1000人くらいの極貧アニメーターがいただろうと推測される。
 アニメ制作はアニメーターだけではなく、昔はセル画の色塗りなどもパートやアルバイトを使っていたが、待遇はアニメーターよりも悪い。そういった人たちも含めれば、数千人が雀の涙の賃金で今ではポップカルチャーと持ち上げられる作品を作っていたのだ。

 マンガ家も楽ではない。
 友人にマンガ家が何人かいるが、売れないときはどん底だった。マンガ家は、雑誌に連載を持って、単行本が定期的に出せるようになって、やっと食えるようになる。
 新人は新人賞を取ってデビューするのがお決まりのコースだが、最初から連載を持たせてくれるのはかなりまれだ。ときどき読み切り作品を掲載してもらえるのがせいぜいで、1枚(1ページ)5000円~1万円が原稿料になる。16ページ描けば16万円になるが、それが3カ月に一度では食っていけない。
 ある友人は年に数回、メジャー誌に短編を描いているが、別の仕事をしながらマンガを描き続けている。すべてをひとりが描けば、時間もかかるため量産ができない。マンガだけで食っていくことはできない。
 そんな若きマンガ家は少なくないと思う。

 アニメが好きな、クリエイターの卵はたくさんいる。過去にもたくさんいた。
 しかし、その卵を孵化させることなく、腐らせてきたのがこの30~40年だと思う。優秀なクリエイターも登場してきてはいるが、彼らは恵まれた環境にいたともいえる。すべての人間がトップに立てるわけではなく、みんなが監督になれるわけではない。末端で動画をコツコツと描く人間がいないことには、アニメは完成しない。
 ある作品が大ヒットしたからと、末端のアニメーターに還元されるわけでもない。収益は制作会社や序列が上位の人たちの懐に入るだけ。貧乏アニメーターは、いつまでたっても貧乏なままだ。

綾波レイを起用した箱根のクールジャパンポスター

綾波レイを起用した箱根のクールジャパンポスター(2013年)

 残念ながら、優秀な人材は、お金のあるところに流れる。
 これは一般的な企業でも同様だろう。
 アニメーターは医者並みにリッチになれる……という状況になれば、優秀な人材はどんどん集まるだろうし、産業としてまともになれるかもしれない。

 根本的な問題は、アニメ業界が産業として成り立っていないことだ。安いコストで制作されるから、アニメは重宝されてきたのだが、そこで働く人たちは並以下の生活を余儀なくされてきたのも事実なのだ。
 クリエイティブな仕事に見合った報酬が必要だ。それはつまり、アニメの制作費にもっと多くの資金をかけるということだ。
 税金を投入するのなら、制作現場の人たちに平均的な生活ができる程度の経済的な保証をしてやって欲しいと、切に願う。

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