事業仕分けとスパコン絡みの話題の続き。
スパコンが仕分けで凍結されたことで、科学界から批判が相次いでいるが、以下もその関連記事。
「歴史の法廷に立つ覚悟あるのか」野依氏が事業仕分けを批判(産経新聞) – Yahoo!ニュース
野依氏は「科学技術振興や教育はコストではなく投資。コストと投資を一緒くたに仕分けするのはあまりに見識を欠く」と強調。「仕分け人」が「(スパコンは)世界一でなくともいい」と発言したことに関しても「中国やアメリカから買えばいいというのは不見識だ。科学技術の頭脳にあたる部分を外国から買えば、その国への隷属を意味することになる」と糾弾した。
う~む……、それはちょっと違うだろう?……と思う。
スパコンが「科学技術の頭脳」なんて、誰が言ったんだ? どこにそういう概念があるんだ?
汎用のコンピュータは、CPUもOSもアメリカ製だ。日本製のCPUもOSも、市場には存在しない。国産のCPUとOSそのものは存在はしているが、市場価値がなく、究極のガラパゴス的存在と化している。
純国産ではないパソコンを使っている我々は、アメリカに隷属していることになるのか? まぁ、ある意味、その通りかもしれない。文化も食生活も、アメリカを見習ってきて、アメリカ化を進めてきたわけだからね。
グローバリズムなんていうのは、早い話がアメリカ化だしね。
野依氏の言葉を、ほかのことに置き換えてみよう。
食生活の根幹にあたる部分を外国から買えば、その国への隷属を意味することになる
外国の賞であるノーベル賞をもらえば、その国への隷属を意味することになる
なんていう、言い方もできる。
食糧自給率が低く、中国からの輸入に大きく依存しているわけだから、我々は中国に隷属していることになる。
ノーベル賞は世界的な賞となっているが、スウェーデンのスウェーデン科学アカデミーなどが選ぶ賞であって、国際機関が選んでいるわけではない。ノーベル賞受賞者は、スウェーデンに隷属したことになるのか?
私みたいな一介のブロガーが言うのもなんだが、野依氏は問題の本質を履き違えていると思う。
スパコンランキングで世界一になったからと、日本の科学頭脳が世界一になるわけじゃない。現実問題として、優秀な科学者の多くが海外に流出している。日本よりも海外……特にアメリカで研究する方が、環境としていいからだろう。
スパコンで世界一になれば、科学者の頭脳流出が止められて、ノーベル賞をたくさん取れる……とかいうことにはならないと思うね。
欧州ではスパコンのハードの開発はやっていないようで、もっぱらシミュレーションソフトやコンパイラなどの開発に力を注いでいるという。
そのことからも、「スパコンの開発が科学の頭脳」という論理は、当てはまらない。欧州も基本的にはスパコンは海外から調達しているからだ。だからといって、欧州各国がハードを生産しているアメリカや日本に隷属しているわけではない。
科学の頭脳は別の所……つまりは、人間の頭脳そのものだということだ。
別の記事には以下のようなことも書かれていた。
「歴史の法廷に立てるか」野依さん仕分け批判(読売新聞) – Yahoo!ニュース
「科学にムダはつきものか?」という自民党議員の質問には「うまく行かないこともたくさんあるが、先進国の平均寿命も、科学技術がなければこんなに伸びなかった」と強調した。
利点として寿命が延びたことをいうのは、公平性に欠ける。
科学技術がなければ、世界戦争も原爆もなかった。地球温暖化の問題も起きなかった。
といった負の面も言うべきである。
私は科学の力を信じる方だが、いい面ばかりではないことも事実だ。
また、研究者からの意見として、以下のような記事もあった。
「研究を続けられない」…事業仕分けで若手研究者(読売新聞) – Yahoo!ニュース
「低い給与や不安定な身分で最先端の研究を支えている現状。このままでは研究を続けられなくなる」と危機感を抱いたためで、東大大学院で、たんぱく質を研究しているという谷中冴子さん(25)は「お金も時間もかかるのが科学技術の研究。効率を重視し、短い時間で結論を出すのにはなじまない」と語った。
「低い給与」というのが、どのくらいなのかがわからない。
調べてみると、研究者の立場によっていろいろのようだが……
国家公務員研究員(研究職俸給表)の給料&平均年収-年収ラボ
研究員の推定年収:908.2万円
↑これは公務員としては研究員の場合。
理研:私の知人は約30才、年収350万円で研究しています。
理研とは「理化学研究所」で、独立行政法人。準公務員扱いだね。
もっとも待遇的に低いと思われるのは、非常勤の研究員のようで、公務員ではなく大学に雇われる身分だということ。給与も大学から支払われ、その給与水準は大学によって差があるようだ。
いくつかの大学で金額が記載されていたが、20~30万円くらいのところが多かった。
まぁ、非常勤だと高給取りとはいかないだろうが、「クールジャパン」としてコンテンツ産業の花形のように扱われるアニメーターよりはマシだよ(^_^)。
科学研究だからと、「効率と時間を無視して、たくさんの資金をつぎ込む」のがいいとも限らないだろう。金がかかるのは事実だが、研究にも効率と時間の節約は必要ではないか?
時間に関しては、10年が長いのか、5年が短いのか、といった問題にもなるが、研究者自身にとっても早く成果を出した方が、実績にともなって身分も給与だって上がるのではないかと思うのだが?
基礎科学のため、教育のための投資は必要だ。
投資であるからには、そのリターン……つまり、成果がどのくらいになるかの見通しも立てる必要がある。
10年後、20年後に、こういう成果を出すためには、今、これこれこれだけの投資が必要……という設計図というかビジョンがなければ、投資する意味が薄れる。
予算を要求する側に、そういう未来を明確に論じられないことにも問題があるのではないか?
だから、PS3スパコンを作れよ(^_^)
立派な国産なんだから。
谷中様
コメントありがとうございました。ご当人からコメントをいただけるとは思っていなかったので、驚いています。現場の生の声は、とても切実であることは、私もわかるつもりです。研究者の仕事だけではなく、ほかの業界でも、不景気や人員整理で切られるのは末端の人間です。
若手を育てる環境が整っていないのは、私の仕事である出版関係や、かつての仕事だったアニメ業界も同様です。ただ、大きな違いがあるとしたら、出版業界もアニメ業界も国が援助してくれるわけではなく、自ら生き残る道を探すしかないことでしょうか。
若い研究者を育成するために予算が有効に使われるのならいいのですが、途中でピンハネしている人たちがいるのも事実でしょう。それが予算が膨大に膨らんでしまう原因でもあるのだと思います。
じつは、某独立行政法人の仕事をしていますが、仲介する関連法人があり、孫請け、ひ孫請けの形になっています。そのため、制作費はおそらく2~3倍に膨らんでいるはずです。
こういうことは、研究機関でも同様なのではと推測します。
中間マージンや、中間で搾取する慣習を断ち切らないと、本当に必要な人たちに予算が行き届かないのだと思います。この問題を解決するには、行政や大学のシステムそのものを変えないと、根本的な解決にはならない気がします。それは簡単ではないですね。
私のブログなんて、極めてマイナーなので、あまり人の目には触れないと思いますが、貴重なご意見をありがとうございました。
3.研究者の給料や立場、仕分けとの関係について
まず、900万代の年収の話ですが、これはごく一部の教授という肩書きを持つ人だけの話です。
多くの若い研究者はポスト(終身雇用権)がなく、ポスドク(研究員)として働いています。理研30代の方の話ですが、彼らは任期付で働いており、教授が運営しているプロジェクト(大方3~5年スパン)で雇われています。そして、プロジェクトが切れると、それと同時に解雇されます。給料の問題もありますが、任期付でわたらなければならない(雇用不安定)のが一番の問題です。そして、仕分け通りの「縮減」が起きると、この人たちが真っ先に切られるあることが問題です。「縮減」ありきで「制度改革」がなければ、若い研究者は終身雇用権の権利すらえられることなく、研究者の道を閉ざされてしまいます。
今回の仕分けにあった「若手研究育成」はそう言った意味でも、削られると深刻な予算です。若手が自分のアイディアで研究を提案し、育つためには最低限の資金援助が必要です。そこを削り、余っているような大型プロジェクトのお金をそのままにしているのは大きい問題だと思います。
つまりは、しっかり若手の研究者が自立できる環境整備がないと、今大成している研究者だけが甘い汁を吸って、次世代は育たなくなるということを危惧しています。
「縮減」ありきの仕分けでなく、本当の「科学技術大国日本」になる「制度改革」が必要なんじゃないかと、考えます。
ひとまずは、若い研究者の立場を守るために、若い研究者の会の副代表として、みんなの声を代弁しないといけないかなと思い、プレスリリースし、記事にしていただきました。なかなか細かい部分までは伝えるのが難しく、ちょっともどかしいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
2.今の国の支援体制に問題はないか?
現行の国の予算システムには色々不備があります。本当の意味での”無駄”を削ることはいいことだと思います。例えば、大型予算を取っている研究室などは年度末に1000万以上も残高があり、制度上年度内に使い切らなければいけないので、無駄に装置を買っていたりします。例えばこういったお金は真に無駄です。しかし、現行のシステムでは、予算を減らしただけでは真に無駄な部分が削られるのではなく、本当にお金が必要な所にお金が回らなくなります。今のままのシステムだと、私たちのような末端の研究者からお金が切られていくので、その意味で、今回の仕分けは問題があると思っています。3で細かいことを書きますね。
ちなみに、研究機関に国が支援しないという道もあるかもしれません。そのときは、大学が基礎研究を支援するシステムを開発しなければとは思います。例えば、利潤性の高い研究から、基礎研究にお金を分配するようにしたりとか。しかし、今それが実行できるのは理研などの先端研究研究機関、東大、京大など、一部の機関と大学のみであり、他の研究機関と地方大学はほぼ国のお金で運営されています。国の支援がなくなると、地方から順に大学がつぶれていき教育格差が生じると考えられます。
1.科学に無駄はつきものか?役に立つのが何年くらいのスパンでわかるものなのか?
基礎科学への投資は、無駄(目に見えて、目先の利益とならないという定義)も多いと思います。例えば、去年ノーベル賞を受賞された下村さんは1960年代の発見で、2008年に受賞されており、役に立ったことが認知されるまで、40年かかりました。確かに、5年、10年先を目指し、目先の利益になるようなものを生むことはできますが、本当に後世で役に立つ研究は、そのときに価値がわからないことも多いです。判断はとても難しいです。目先の利益飲み追求するのも道ですが、それだけ求めていると、50年後、100年後に、何も独自の科学技術を持たない国になってしまうと思います。(私は創薬につながる研究をしているので、どちらかというと、目先の利潤を求めてしまっている研究者ですが。。)
はじめまして。自分の名前で検索したら、出てきて、記事が話題となっていることにびっくりしました。興味を持っていただき、ありがとうございます。書き込みさせていただきます。
長文失礼します。(4個に分けて投稿しますね。)
研究者は色々ですが、私の場合はまだ大学院生で、給料ももらっていませんし、授業料も払って大学院に通っています。博士を卒業してお給料がもらえるようになる(研究員になる)のは、早くて27歳です。将来は大学の研究者となり、大成したいと思っています。ちなみに、参考までに、1研究者の卵としての意見を述べさせてください。