捨て猫をめぐる対応の違いと誤解

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行政担当者が「善意」から捨て猫を逃がして、書類送検されたという記事。
犬や猫などのペットを巡る問題はいろいろとあるが、「命を大切に」という理想論と、「対応の限界」のはざまでペットたちの命は左右されるのが現実。

捨て猫「逃がして」で書類送検…行政担当者困惑 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

 捨て猫の保護を巡り、自治体の対応がまちまちになっていることが、わかった。

愛知県では先月、県警東海署に届けられた捨て猫を、県動物保護管理センターの支所長が逃がしてくるよう、そそのかしたとして動物愛護管理法違反(遺棄)の教唆容疑で書類送検されたが、同様の対応をする岐阜県の担当者は困惑しきり。その一方、三重県などでは、法に基づいて引き取っているといい、自治体によって異なる対応に遺棄の定義を求める声が上がっている。

動物愛護管理法」では、ペットたちの「」は尊重される。

その一方で、捨て猫・捨て犬、迷い猫・迷い犬は「拾得物」として「」扱いされる。

動物保護管理センター(もしくは保健所)に収容された犬猫は、飼い主または引き取り手が現れない場合、一定期間を過ぎると殺処分されてしまう。保護期間中は「動物」として命を尊重されるが、タイムリミットを過ぎると「物」として処分されてしまう。
その数は、年間十数万頭に及ぶ。

▼読売新聞(YOMIURI ONLINE)のサイトからスクリーンショット。

全国の自治体が引き取った猫の数と殺処分率の推移

全国の自治体が引き取った猫の数と殺処分率の推移


人間の都合で生かされたり殺されたり、ペットにとっては誰に飼われるかが長生きできるかどうかの分かれ目だ。
ペットを飼うと決めたのなら、最後を看取るまで飼うのが基本だが、その責任と義務を放棄する人が少なくない。殺処分されるペットの数だけ、無責任な人間がいるということでもある。

また、野良猫をわざわざ捕まえて、保健所に連れて行く事例もある。保健所に持ち込むことが殺処分につながることを知ってか知らずか、善意のつもりなのかどうかはよくわからない。

記事では「捨て猫」と書かれているが、警察署や交番に届けられる猫が、「捨て猫」だとは限らない。飼われていた猫が逃げ出した「迷い猫」の場合もある。

都会で飼われる猫で、特にマンションで飼われている猫は、屋外に出ることがほとんどない「完全室内飼い」であることが多く、部屋から逃げ出してしまうと自力で戻れないケースがある。室内飼いの猫は、外の環境に不慣れで、部屋から飛び出してしまうとパニックになる。周囲の見慣れない環境におびえて、闇雲に逃げてしまう。犬のように群れの習性はないので、帰巣本能は希薄だ。犬が人間に従順なのは、人間を群れのボスだと認識するからだ。

また、マンションのような階層構造の家では、猫は逃げ出した部屋が何階だったかを認識できない。たとえば、10階から逃げ出して、階段下り、地上に出てしまったとしたら、10階に戻ることは困難なのだ。

私たちは「迷い猫.NET」という、迷子猫を捜索するための掲示板をボランティア運営しているが、そこに書き込まれる数々の迷い猫の事例や、私自身の経験から、逃げ出した猫が自力で戻ってくるのが困難であることを知っている。
迷子になった猫を救出するには、飼い主が探してあげる必要がある。
それも時間との勝負だ。

猫はなにかに驚いてパニックになると、ところかまわず走り出してしまう。元来、臆病な動物なので、パニックで暴走すると道路に飛び出したりする。それで車に轢かれることもある。ときどき車に轢かれた猫が、道路沿いの街路樹の茂みに放置されているのに出くわすが、動物を轢き逃げしても罪には問われないので、助けてくれるドライバーはほとんどいない。

交通事故に遭わなくても、「捨て猫」として捕獲され、保健所送りにされると、飼い主が捜し当てられなければ、1週間後くらいには殺処分の運命だ。
飼い主の保護下から離れた猫の命は、風前の灯火なのだ。

記事中に……

 「自分で生きていけるような猫を、元の場所に戻す行為は遺棄にあたるとは考えていない。違法性はない」

……とあったが、それは大きな誤解というか、猫が野良猫として生きていくのに、どれほど大変かをわかっていない。
野良猫の生きる環境は、かなり厳しい。
交通事故もあるし、猫特有の伝染病にもかかりやすい。適切な健康管理をされた飼い猫であれば10年~20年は生きられるが、野良猫の寿命は3年程度といわれている。

猫は残飯をあさる……というイメージがあるが、昨今では生ゴミはカラスなどに荒らされないように、扉のあるゴミ置き場やネットで防護されているため、猫といえども容易には残飯にありつけない。野良猫が食べていける環境では、近所の人が餌をあげている場合が多いのだ。そういう世話人がいない地域では、猫も生きていけない。
野良猫を保護するボランティア活動している人たちもいる。都会の野良猫は、自力だけで生きていけるわけではない。

猫が迷い猫になった場合、「迷い猫.NET」では、

(1)交番に届け出を
(2)保健所に連絡・確認を

ということを勧めているが、交番で迷い猫のことを受理してくれないケースも多々ある。
受理してくれなかったことが一因で、捜索対象の迷い猫を保護した別の人が、行き違いで交番に持ち込んだものの、飼い主には連絡が行かず、届けられた猫は高齢だったこともあって死んでしまった、という悲しい事例もあった。

交番のお巡りさんにしてみれば、生き物を預かるのは手間だし面倒なことだろうから、受理はしたくないのだろう。そもそも交番には、生き物を預かるための設備がないし、迷い猫の情報を共有するためのシステムも貧弱だ。届けられた情報や猫そのものが、ちょっと離れた交番だったりすると、飼い主とは連絡を取りようがないこともある。

東京都には「警視庁拾得物公表システム」というのがあり、その中に動物の項目もある。あるにはあるが、交番で迷い猫の届け出も受理してくれなければ、このシステムにも登録されない。登録されている情報も「動物(ネコ)」となっているだけで、具体性がなく情報としての価値が著しく低い。犬の場合には、毛並みの色なども書かれているのだが、猫には記述がないのはどういうわけか?

▼警視庁拾得物公表システムの一例

警視庁拾得物公表システムの一例

警視庁拾得物公表システムの一例


金品の拾得物と違って、ペットは「命」がかかっている。早急に対処はできないにしても、なんらかの方策は考えて欲しい気がする。
たとえば、迷い猫保護の情報があったら、詳細な情報、できれば写真付きの情報を、私たちの「迷い猫.NET」に投稿してくれてもいい。「迷い猫.NET」には、ペットを迷子にした人たちが多く訪れているので、捜している人の目に触れる機会は多いと思う。

そういう面での官民協力ができるのなら、私たちとしてもできる限りの労は惜しまない。ただ、スタッフは2人だけなので、できることにはおのずと限度がある。

殺処分ゼロが理想ではあるが、飼い主が不明のペットを預かる自治体の苦悩も理解できる。ひとつの保護センターで何十頭、何百頭も世話をするのは大変だし、全国的には数十万頭の動物を保護して、生かし続けることは困難なことだ。

「かわいい」犬や猫たちではあるが、彼らの生死は人間の責任でもある。
犬や猫を殺処分しなくてもいい社会が実現できたら……と願う。

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