飛行機にペットを乗せる場合の問題について再考

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飛行機にペットを乗せる場合の問題について再考

huoadg5888によるPixabayからの画像

飛行機でのペットの扱いの悲劇」の続き。

上記の記事について、私のブログにコメントをいただたのだが、それについての続編記事。
この記事はBLOGOSに転載されていたので、そちらでコメントした方がたくさんの意見を見られるし、なんらかの反応もあると思う。

→BLOGOS版「飛行機でのペットの扱いの悲劇
私のブログでは、アクセス数は微々たるものなので、コメントするのならBLOGOSがオススメ。

「飛行機でのペットの扱いの悲劇」へのコメントのやりとりを再掲すると……

1. いしたけ
2013年08月27日 08:19
命あるものは必ずいつかは死ぬ。病気だろうとそうでなかろうと。
それは飛行中かもしれないし、駐機場にいるときかもしれない。
生き物を預かる場合、どんなに注意しても、「死なせない」ことはできない。死に必ず原因を求める風潮があるが、それは死を理解していない。
免責の文言はそういったことを前提にしている。責任逃れではない。生き物は死ぬ。あっけなく死ぬ。機械の故障と同列には考えてはいけない。過失が全くなくても、どんなに注意しても、生き物は死ぬ。熱中症というのは推測であることに注意。
それが理解できていない人間が多すぎる。そういう人はそもそも動物を預けてはいけない。
もっと言えば、世の中がそういうレベルの理解度なのだから、航空会社はペットを預からなければいいのだ。本来はそうしたいはずだ。そこを顧客のためにと善意でリスクを取って預かってくれているのだ。そこをはき違えてはいけない。


2. 諌山裕
2013年08月27日 23:31
死を理解することと、死んでしまうような環境に放り込むこととは別問題ですよ。
航空会社の、ペットに関する告知ページを見たことがありますか?
「ANAでは家族の一員である大切なペットとのご旅行をお手伝いする「ペットらくのりサービス」を提供しています」
というような文言が書かれています。
しかし、「命の保証はしません」とはどこにも書いてないのですよ。健康を害する場合があるとは書いていますが、それでは不十分ですね。
赤字で目立つように「命の保証はしません」と書いておくべきなんです。
それでも預けるのであれば、死んでもしょうがないと覚悟して乗せられるかもしれません。


3. いしたけ
2013年08月28日 00:32
死んでしまうような環境とはANA側は考えていないということですよ。死んだのは結果論なのです。通常は死なないであろう環境で移送を行っていても、生き物はあっけなく死ぬこともある。
死を理解するというより、生物というものの脆さをわかっていない。機械の故障は理屈で原因を突き止められるかもしれないが、生物はまだ未知の領域が大きすぎる。
「ちゃんと管理していれば死なないはずだ。だから死んだというならそれはANAがちゃんと管理していなかったからだ。」
などと考えは誤り。
命の保証など、そんなもの書くまでもなく「できっこない」でしょう?そんなことは常識だと私は考えます。人に言われなければわからないようなことでしょうか。
それを「大きく書いてない」などと、そんなところを責めるのですか?


4. 諌山裕
2013年08月28日 01:09
>それを「大きく書いてない」などと、そんなところを責めるのですか?

そこが重要なんですよ。
そうでなければ、「大切なペットを預かるサービス」などと宣伝してはいかんのです。
介助犬は客室内で人間と同様の安全な環境にいられます。
訓練されているかどうかの違いはありますが、「家族同様のペット」というのなら、家族と一緒に乗せればいいんですよ。
それができないのであれば、ペットは乗せられない規則にすれば良いだけ。

どうやら、根本的なところで考えかたが違うようなので、平行線ですね。


5. いしたけ
2013年08月28日 07:56
考え方の違いというより、知識の差でしょう。普段から生き物というものについて考えを巡らしているかどうか。
ペットを日々、恒常的環境において暮らしているとペットが非常に脆い生物の1個体に過ぎないという現実を忘れがちです。死は自然現象として起きうる。そこに責めるべき対象は無いこともある。
それは人間という体についても同じことが言えますが、例えば病院で手術を受けたけど不幸にして亡くなってしまったという場合、病院側に手落ちが無くてもそういうことは起こりうるわけです。その場合、患者としては病院を責めるでしょう。結果責任として。
しかし、そういう責め方をしてしまうと、病院は怖くて手術を受けるのを止めざるをえなくなってしまいます。実際それで産婦人科医療は後退しました。産婦人科医不足の原因です。

サービス業は対価としてお金をもらうけれど、だからといって、どこまでも結果責任を取れと考えるのは間違いなのです。
世の中はお互い様。商売でワンちゃんを預かっているのではなくて、お客さんの便宜のため、社会のためにリスクテイクしていると考えられませんか?
そうみんなが考えることによって、コストも下がりますし、サービスも拡大します。

ANA側の瑕疵を推論できる何かがこのケースでありましたっけ?それがあるなら私の言っていることは該当しないと思いますが。

いしたけ氏の意見を短く要約すると、「死は必然だから、責めても仕方がない。死を理解していない」ということのようだ。
コメントでも書いたが、「死を理解する」ことと「死んでしまうような環境に放り込むこと」は、別問題である。
いしたけ氏は、「知識の差」ともいう。

その知識とはなにか?
知識として「死」を知ることとはなにか?
命はもろく、儚いことを知っていれば、それが知識といえるのか?

知識は、なにかについて知っているだけでは不十分だ。1つの知識から、想像力を働かせて、問題に対処することで知識がより有益なものになる。
ある事故が起こった場合、「死は必然だから、しょうがない」で終わってしまっては、そこで思考は停止してしまう。原因や責任がどこにあるかを追求することで、事故を防ぐための知識も積み重ねていける。安全性とは、過去の教訓としての知識でもある。
ペットの命が危険にさらされる可能性があるという「知識」があるのなら、それを回避するための方法を考える「知識」も必要だ。

この記事の発端となったペットの飼い主の肩を持つつもりはないし、航空会社の肩を持つつもりもない。
どちらにも認識の甘さがあった。
悲劇なのは、死んだ犬だ。犬に選択肢はなく、人間の都合に振り回されただけだ。

しかし、ペットが人間社会の中で生きていく(生かされていく)ためには、人間の都合に合わせなくてはならず、ペットの安全や生存の可否は人間側が配慮してやらなくてはならない。「死んでもしょうがない」では、あまりに殺伐としている。

死に関する「知識」を持つことと、ペットを乗せることを認めている航空会社の対応や責任は、まったく別問題である。
それには、法的な問題も絡んでくる。

飛行機にペットを乗せることを「可」としたのは、利用者の要望なのか、航空会社の営業的な思惑なのかは判然としない。前記事で書いたように、私が31年前に猫を乗せたときには、航空会社の対応はあまりに不慣れだったので、当時は動物を乗せることはできるが、サービスとして航空会社の現場の人たちにも周知されていなかったものと思われる。

現在では、犬種によって制限されているものの、利用者は一定数いるようで、そのための告知も行われている。
しかし、この告知内容に問題があるように思う。

航空会社のペット預かりについてのWEBページは以下。

ANA ペットらくのりサービス【国内線】/お預かりの流れ│航空券│ANA国内線

ANA ペットらくのりサービス【国内線】

ANA ペットらくのりサービス【国内線】

JAL国内線 – ペットとおでかけサービス

JAL ペットとおでかけサービス

JAL ペットとおでかけサービス



JALは淡々とサービスの概要を並べているだけだが、ANAは少々あおり気味。ANAのこの告知を見れば、安全にペットを連れて行けるんだと期待してしまうのは無理もない。
ちなみに、JALのページでは……
JAL – 航空機における輸送環境およびお客さまにご留意いただきたい事項

先に申し上げた航空輸送の特殊な環境下では、おあずかりしたペットが変調をきたし、衰弱、もしくは死亡するなど、不測の事態が生じる場合がございます。

……と、死亡する場合があることを明記している。
一方、ANAでは……

ペットをお預けのお客様へ(事前にご確認ください)│ANA ペットらくのりサービス【国内線】/各種ご案内│航空券│ANA SKY WEB

ANAではお客様の大切なペットのお取り扱いには十分注意いたしますが、航空機という通常とは異なる環境におかれることで不測の事態が起こる可能性も考えられます。

……と、「不測の事態」とは書いているものの「死亡」の表現はされていない。死亡する場合があることを、書くのと書かないのとでは、受け止め方がまったく変わる。こういう重要なことについて、曖昧な表現は誤解の元だ。

ANAの告知は、利用者に安全で安心であることを訴えているように見えるから、これは「優良誤認」にあたるのではないか?

表示対策課 | 消費者庁

優良誤認とは

景品表示法第4条第1項第1号は,事業者が,自己の供給する商品・サービスの取引において,その品質,規格その他の内容について,一般消費者に対し,
(1) 実際のものよりも著しく優良であると示すもの
(2) 事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示すもの
であって,不当に顧客を誘引し,一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁止しています(優良誤認表示の禁止)。
具体的には,商品・サービスの品質を,実際よりも優れていると偽って宣伝したり,競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに,あたかも優れているかのように偽って宣伝する行為が優良誤認表示に該当します。
なお,故意に偽って表示する場合だけでなく,誤って表示してしまった場合であっても,優良誤認表示に該当する場合は,景品表示法により規制されることになりますので注意が必要です。

このへんは、弁護士などの法律の専門家に意見を聞きたいところ。

飛行機にペットを乗せるときには、同意書を書かされるが、その内容は以下。

ANAのペットに関する同意書。

ペットを飛行機に乗せるときの同意書

ペットを飛行機に乗せるときの同意書



この同意書の日本語部分には……

私は下記貴社航空便による私の手荷物・ペットの運送に当り、当該運送中に発生した下記の損害について貴社に一切ご迷惑をおかけしません。

……とある。
英文も併記されているのだが、その内容は日本語とは微妙にニュアンスが違う。
重要な部分を抜き出して、稚拙な翻訳をしてみると……

…. hereby specifically agree that ANA, its officers, agents, employees or servants shall not be liable for any and all losses,damages or expenses incurred by myself, ….

….役員、代理人、従業員や公務員に対して、自分が被った一切の損失、損害または費用の責任を、ANAが負わないことを明確に同意する….

一切の責任を負わない」という強い内容になっている。「迷惑をおかけしません」というような曖昧な文言ではないのだ(^^;)。

JALの同意書。

JALのペット運搬同意書

JALのペット運搬同意書



こちらの方がストレートな表現だが、自然的原因に「航空機内の気圧や温度などの変化を含む」としている。それって、人為的(人工的)な原因といわないか? 歪曲表現ではあるが、それをいうのなら、墜落したときでも「物理法則によって落下した自然的原因」という屁理屈もいえるぞ(笑)。

生命の保証はしない……ということなのだから、サービスを広告するなら以下のようにするのが好ましい。

ただし、生命の保証はいたしません

ただし、生命の保証はいたしません



ただし、生命の保証はいたしません」としておけば、「死ぬかもしれない」と熟慮することになるように思う。

別の例では、タバコのパッケージに、以前は「健康を害する場合があります」と曖昧な表現だったものが、現在では「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとにります。疫学的な推計によると、喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約2倍から4倍高くなります」と、具体的に記述するようになった。リスクを告知するには、そこまでの具体性が必要でもある。

仕事で、保険会社のパンフレットを制作したりするのだが、そこに書かれている規約などの内容には、あやゆるケースに対して、保障できるできること、できないことが、事細かに書かれている。保険だからというのもあるが、想定される事案に対して言及しておかないと、顧客の誤解を招き、責任の所在が不明確になるからだ。説明責任を果たす意味もある。

ペットに関する同意書は、どこまで有効なのか?
ペットではなく、人間の場合にも、事故があった場合の同意書を書かせる場合がある。エジプトで起こった「気球墜落事故」では、そんな同意書が取られていたという。
しかし、その同意書は無効の可能性が高いらしい。

エジプト「気球墜落事故」 旅行会社 「免責同意書」の効力は?|弁護士ドットコムトピックス

それを免除するとしたのが、今回の「同意書」です。報道によると、この同意書は、事業者と消費者との間に結ばれた契約にもとづく責任を「すべて免除」する内容のようですが、そのような条項は、消費者契約法8条1項1号で無効とされています。つまり、一切責任を負わないという「同意」は、無効であるとされる可能性が高いということです。

消費者契約法8条1項1号」とは、以下。

消費者契約法

    第二節 消費者契約の条項の無効

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
第八条  次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一  事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項

ペットに関する同意書についての、法的な有効性はあるのか、これまた弁護士の方にお聞きしたいところ。

動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)についても見てみよう。

動物の愛護及び管理に関する法律

(基本原則)
第二条  動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。

(中略)

第三章 動物の適正な取扱い

第一節 総則

(動物の所有者又は占有者の責務等)
第七条  動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者としての責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。

ここでいう「占有者」とは、ペットホテルなどで一時的に飼い主より管理を委託された者を指す。
飛行機にペットを預ける場合には、管理を委託しているわけで「占有者」に該当すると思われる。したがって、本法律の占有者としての責務を果たす必要がある。
飼い主からペットを預かった段階から占有者であり、機内に運び込む段階での生存環境の確保ならびに機内での環境が適切かどうかの管理責任は発生する。
機内への搬入に際して、荷物と同様に炎天下の状況に置かれることは、「動物の健康及び安全を保持」は怠っているとも判断できる。

以上のことから、ペットが死に至る結果をもたらした航空会社には、
(1)優良誤認の疑い
(2)消費者契約法8条1項1号による、同意書の無効の疑い
(3)動物の愛護及び管理に関する法律の第七条の占有者責務違反の疑い

この3つに抵触する疑いがあると思われる。

海外の航空会社ではどうなのかというと、乗客が手荷物として直接機内に持ち込める航空会社もある。

・ペットと乗れる航空会社 – ペットと一緒の海外旅行や赴任・移住をサポートします!

・ペットを機内へ持ち込めるエアライン
小型犬、猫、うさぎ、小鳥などの小動物に限定されますが、貨物室扱いではなく、お客様の座席までペットの機内持ち込みが可能なエアラインをご紹介致します。

離れた暗い貨物室に運ばれるのではなく、機内持ち込み手荷物としての扱いになりますので、ペットと目的地まで一緒いられますので安心ですよね。

けっこうたくさんある。海外の航空会社にできて日本の航空会社にできないのは、法的な問題もあるのだろうが、不可能ではないということだ。

また、いしたけ氏は、人間の病院の例を挙げ、死亡した場合の責を医師が問われると手術ができなくなる……とも書いている。

しかし、これまた別の問題だ。

医療事故については、原因と責任が問われなければ、患者は安心して医療を受けることができなくなる。
医師不足は、政府が1982年に 「2007年頃に医師が過剰になる」 として、医師数の抑制を閣議決定したことに発端とされている。加えて、医療費抑制のために医師を積極的に増やそうとはしていない。長時間労働などの労働環境の悪さによって、やめてしまう医師も多いために、さらに医師不足に拍車がかかっている。
医師を育成するためのシステムの問題もあり、医師になるためのハードルが高くなっているのも一因だといわれる。
医療事故が起こったときの結果責任が、医師不足の主因ではないので、いしたけ氏の論拠は説得力が乏しい。

それはともかく、動物の問題と人間の問題を同列には論じられない。
「命」あるいは「生死」の問題では、通じるものではあるが、その「命」の扱いが動物と人間まったく異なる。動物愛護法があるとはいえ、場合によっては「物」扱いであり、法的に一貫性のある扱いにはなっていない。

「そんなの常識」というような言い方がよくされるが、ある人の常識は別の人にとっては常識ではないこともある。「不測の事態」を「死」と受けとめるかどうかも、人それぞれ。だから、タバコのパッケージのように、具体的に書くことで意図を明確にする必要がある。人によって受け止め方の異なる「常識」について、一定の判断基準を明文化したのが「法律」でもある。

人間の都合によって、動物たちの生死は左右される。
知識のある人間ならば、その知識を最大限活用して、動物たちにとっても安心かつ安全な環境が提供されるようにするのが、人間の「智」であると思う。

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