デジタルメディアとしての出版

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Books, text, human faces, eyes, digital

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 ケータイ小説からヒット作が出たり、ブログや掲示板から話題になって出版されたりと、デジタルメディアのコンテンツを出版社が本のネタとして探すようになった。
 柳の下にドジョウが……何匹出てくるかという話だろう。
 とはいえ、「電車男」や「恋空」ほどヒットした作品は少なく、2匹目、3匹目のドジョウは大物ではなかった。
 それでも次なる獲物を発掘しようと、躍起になっているようだが、青田買いの様相にもなっている。

 現状の構造的なイメージは、「メジャーな出版社」が上位に君臨し、個人が発信する「デジタルコンテンツ・ユーザー(書き手)」が下位にある。
 無料の小説サイトで好評な作品を、出版社が拾い上げて出版するという形だ。
 無料のサイトに掲載している時点では、書き手に収入は発生しない。そこにあるのは、書き手の「書きたい」「読んでもらいたい」という無報酬の欲求であり、自己表現だろう。
 本来なら、サイト内でヒットしていれば、書き手にとっては当初の目的は達成されている。
 そこに出版社が、これは売れると商品化を持ちかけるわけだ。

 音楽や映画がネットでも配信されているように、書籍もデジタル化してネットで配布されるようになった。もともと、インターネットの基本は「テキスト」であるから、小説などのテキストはネットに載せやすいものだった。
 だが、商品としてのデジタル小説(有料コンテンツ)は、現在のところ、あまり成功しているとはいえない状況だ。
 ネット発のヒット作は、無名の個人が発信して多くの支持を集めたものだ。
 出版社発のデジタル・コンテンツでヒットした作品は少ない。出版社は「本」として形のあるものを出すことに固執するあまり、デジタル・コンテンツとしての販売方法や販売ルートを開拓することを怠ってきたからだろう。
 小説をデジタル・コンテンツとして出す場合には、PDFや独自の体裁を用意したリーダーによって配布される。データとしての配布であるため、出版コストは大幅に軽減できるメリットがあるにもかかわらず、出版社はデータ配布に積極的ではない。
 音楽がデータ配信され、iTunesが売り上げでトップになっている現在。音楽の販売方法はネット配信が主流になりつつある。
 それに比べると、出版界は古い体質から抜け出せないでいる。
 出版社の不振や倒産のニュースも、よく見かける。出版点数だけは相変わらず多いものの、ヒット作が少なくなっている。

 それに関連した記事を以下に。
おもしろさは誰のものか:「出版界、このままでは崩壊する」――ダイナミックプロ、絶版ラノベ・SFを電子書籍化 (2/2) – ITmedia News

 作家は低収入で不安定な職業だという。「小説だけ書いて食べている人は、日本に5人もいないのではないか。小説家や漫画家には、JASRAC(日本音楽著作権協会)のように権利を集中管理して収益を上げている団体もない。『先生』などと呼ばれるが、作家は実質、出版社の下請けでしかない」と幸森さんは話す。

 例えば、半年かけて小説を書き下ろし、700円の文庫で1万冊売るとする。印税率を10%で計算すると、印税収入は70万円。年2冊書くとして年収は140万円。純文学の作家なら、1~3年に1冊というペースも珍しくない。「ある作家が税務署に確定申告に行ったら、『生活保護を受けたほうがいい』と言われた、なんて笑い話もある」

 友人・知人に作家や漫画家が何人かいるが、それ専業で食べている人は少ない。
 ことに小説だけで食える人は少ないようだ。自分のオリジナルの小説ではなく、ゲームやアニメのノベライズで収入を得ている人もいる。それでも「書く仕事」があるだけマシだろう。
 小説の新人の場合、初版で1万部というのは恵まれている方だ。ジャンルや作品内容にもよるが、5千部程度というのも珍しくない。そして、多くの場合、再版されることはない。
 作家として食っていくことは、並大抵のことではないのだ。

 印税率が10%しかないのは、出版にかかるコストが高いためだ。
 デジタル出版であれば、印刷にかかるコストはゼロである。印刷会社は打撃かもしれないが、作家や出版社にとっては自分の取り分を増やせることになる。
 在庫の山を抱える必要もなく、必要なだけデータをコピーすればいいだけで、無駄な出版をしなくて済む。
 ちなみに、出版物の印税は、基本的に出版部数に対して支払われるので、実売数がどのくらいかは関係ない。返本され、売れ残ったとしても、作家には発行部数分の報酬は支払われる。それは作家にとってはありがたいことだが、返本される出版社にとっては赤字である。効率の悪い販売方法でもあるのだ。

 デジタル・コンテンツとしての印税はどのくらいかというと、「まぐまぐプレミアム」の場合には、実売単価に対して60%である。
 上記の記事では、「作家に30%、イラストレーターに5%を配分する」という。
 イラストレーターにも配分するというのが、新しい試みだ。通常、文庫のカバーのイラストを描いても、印税としてではなく、その仕事に対していくらという形だからだ。その場合、再版されても、イラストレーターには分配はされない。再版、再使用の場合の契約を取り交わすこと自体がないからである。

 本の出版よりも、デジタル・コンテンツの印税率の方が多いのは当たり前だろう。
 とはいえ、30%でも少ない気がする。まだ試行段階で、利益が見込めないからだろうが、作家の取り分が少なくとも半分はあってしかるべきだ。
 その点、「まぐまぐプレミアム」は、書き手(発行者)主体のコンテンツ配布になっている。
 実際、「まぐまぐプレミアム」で有料メルマガを発行し、それで生活できている発行者が少ないながらもいる。それは印税率が高いからだ。
 仮に、月500円の購読料で、1000人の読者がいれば、月収は30万円になり、そこそこの生活はできる計算だ。
 本の出版の場合、この程度の売り上げでは、500円×1000部×10%=5万円にしかならない。
 この差は歴然としている。

 小説を始めとした「デジタル・テキスト・コンテンツ」は、まだその売り方、効率のいい利益の上げ方のビジネスモデルが確立していない。
 出版社がそのビジネスモデルを確立するのか、あるいはネット業界が確立するのか……。
 そこにはビジネスチャンスがあると思うのだが……。

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