電子ブック関連の記事。
「出版デジタル機構」が船出 官民連携で市場拡大へ – ITmedia ニュース
官民ファンドの産業革新機構は29日、書籍や出版物のデジタル化を進めるため出版業界が共同で設立する株式会社「出版デジタル機構」(東京)に、最大150億円を出資すると発表した。公的機関が投資や経営支援に関わることで、電子書籍市場の拡大を後押しする。
(中略)
5年後に電子出版の市場規模を100万点、2000億円に拡大することを目指す。
……ということで、5年後にどうなっているか、注目したい。
青写真通りになっているだろうか?
それは、たぶん難しいだろうと思う。
電子ブックが普及していくことは間違いないが、それはどのフォーマット、どこのプラットフォームがスタンダードになるか?……ということ。
前途多難だと思う。
私もいちおう下請けではあるが、出版業界に関わっているから、率直なことをいえば、出版社側の「本気度」が低い。
WEBのこと、DTPのこと、電子ブックのことに疎い編集者が少なくないのだ。
現場の理解度が低いのに、電子ブックで売れるものを作るのは、もっと難しい。
と、これに関連して、以下の記事。
電子出版系事業者の立場から出版デジタル機構を考える – 電子書籍情報が満載! eBook USER
現状の書籍電子化の問題点
そもそも日本において書籍の電子化が進んでいなかった理由は幾つかあります。以下、大きな理由と考えられるものから列挙していきます。
1. 著者およびその他(挿絵や画像などの)権利者に対して、電子化に関する権利処理が出版契約の中にかつて入っていなかったので、権利処理でもめて旧作の一律電子化ができない
2. DTPデータを出版社が保持していないケースが多く、その場合リフローコンテンツを作るときに紙版のスキャンから始めなければいけないので、電子化コストが高い
3. 電子書籍市場がまだ小さく、上記のようにコストも高いので、電子化コストを回収するまでに長い時間が掛かる(ないしは回収できない)ことが予想される
4. 権利処理上、ないしは出版社の経営判断上、厳しいDRM(具体的には、閲覧用ビューワソフトを限定し、電子書籍ファイル自体を読者が操作することを禁じる)を掛けた状態でしか流通できないケースが多く、読者の満足度が低い
5. フォーマットがまだ発展途上であり、現状では相互変換が難しいため、形式が乱立して統一が難しい。また、これが電子変換への投資をためらう要因の1つになっている
6. そもそも電子化によって紙書籍が売れなくなるのでは、という幻想があったりなかったりする
7. (これは個人的な感想ですが)紙書籍として売ることを前提に作ったコンテンツが、WEBを通じて売れるコンテンツとは限らないため、コンテンツのミスマッチ頻度が高い可能性がある。
ほぼ私の懸念を代弁してくれている(^_^)
報道されている記事を見る限り、出版デジタル機構は日本の電子ブックを主導的に牽引していくというよりは、傍観して流れに乗るだけ……という気がする。
フォーマットに関しては、「これにする」という決定はなく、複数のフォーマットを様子見するというスタンスだ。
日本語の書籍は、基本的に日本語のわかる日本人しか買わないのだから、フォーマットは日本はこれを採用すると決めてしまってもかまわないのではないか?
世界標準のフォーマットに無理に合わせる必要はなかろう。
そもそもデバイスとして、生き残るのはなにか?……という問題の方が大きく、AmazonとAppleが2強になれば、それで採用されているフォーマットに合わせるしかない。
悩む余地はないと思うのだが?
【追記】2013年5月31日付
結局、たいした成果を上げられず、ほぼ挫折したようだ。
出版デジタル機構の電子書籍取次買収は最悪の愚策繰り返される「JAL再生での失敗」 | 岸博幸のクリエイティブ国富論 | ダイヤモンド・オンライン