静かに浸透している感のある電子ブックだが、最近ではあまり話題にのぼらなくなった。
 当初、出版社は電子ブックの普及が紙の本の衰退を加速すると恐れ、「黒船」といわれたAmazon等の海外勢の進出を懸念したりしていた。
 著作者との権利問題などもあって、なかなか電子ブックの出版点数も増えなかった。政府主導の「緊デジ」は、100万点の電子ブック化を目標に掲げたものの、実際には6万点あまりにしかならなかったという体たらく。

▼詳しくは以下の記事を参照。
「緊デジ」問題を読み解く11の疑問(前編)–“100万点電子化”という妄想 – CNET Japan

 緊デジに投じられた20億円は、関連業者によって無駄に食い荒らされただけだったといえる。是非はともかく、20億円のおこぼれに預かった出版関連会社は一時的に潤ったとは思う。しかし、文化的資産としての書籍の電子ブック化や、電子ブックの普及にどれだけ貢献したかは……いささかお寒い。
 政府主導の「クールジャパン」も、同じような結果になるではと思う。

 とはいえ、電子ブックは書籍・著作の発表・発売のひとつの選択肢にはなっている。
 大ブームにならないまでも、定着はしつつある。
 今後の予想として、以下のような数字が出ている。

電子書籍市場規模は今後も順調に拡大 19年度は2,900億円規模へ | 電子書籍 – エコノミックニュース

2015年度以降の日本の電子書籍市場は今後も拡大基調で、2019年度には2014年度の2.3倍の2,890億円程度になると予測している。今後もスマートフォンやタブレット等のデバイスの進化や保有者の増加をベースに、認知度の拡大や利便性の向上による利用率の上昇、紙の書籍との同時発売の増加、電子書籍ストアのマーケティングノウハウの蓄積、電子オリジナルのコンテンツや付加価値のついた電子書籍の販売、セルフパブリッシングの拡大等により、2015年度以降も拡大が続くと予想している。

 希望的予想なのだが、少々楽観的な気もする。
 その一方で、利用率は頭打ちという調査もある。

電子書籍の利用率が2割弱で頭打ち、「利用意向なし」が増加、「関心なし」と合わせると6割以上に -INTERNET Watch

 昨年1年間におけるネット利用状況の変化を分析したレポートを株式会社ジャストシステムが公表した。同社が15~69歳の1100人を対象に毎月1回実施している「モバイル&ソーシャルメディア月次定点調査」の2015年度総集編としてまとめたもの。

(中略)

電子書籍の利用率は1月度調査で18.5%だったのに対し、12月度調査では19.0%とほぼほ横ばいで推移した。一方、「利用するつもりはない」とする人が1月度調査では36.4%だったものの、12月度調査では43.3%と上昇。「あまり関心がない」の23.4%(12月度調査)と合わせて7割近くのユーザーが電子書籍に関心がないことがわかった。

 この手の調査は、調査方法や調査対象で傾向は変わってしまうが、ひとつの結果ではある。
 電子ブックの端末としてのタブレットも、一時の勢いがなくなり、爆発的に売れる時期は過ぎている。端末が売れなくなると、電子ブックを買う人も増えないことになるので、右肩上がりの電子ブック読者の増加は見込めないと思われる。

 そもそも「本を買う人」の割合は、紙でも電子ブックでも大差はないだろう。
 読書を趣味とする人、あるいは学業や仕事で本を必要とする人が本を買うのであって、読書に興味がない人は買わない。その潜在的な購買層が「2割」ということなのだと思う。日本の人口からいえば、約2000万人が対象だ。
 2019年度に2,890億円規模の市場だとすると……

2,890億円÷2000万人=1万4451円(1人当たりの年間電子ブック購入費)

 ……となる。
 電子ブックの価格は百円~数千円とあるが、中をとって平均500円とすると……

1万4451円÷500円=約29冊

 年間30冊近く読む人は、かなりの読書家(^_^)。
 ただし、現状の電子ブックを牽引しているのはコミックであること。文字主体の小説等の占める割合は低い。30冊すべてがコミックという場合もあるだろう。
 いきなり読書ブームが起きて、多くの人が読書に夢中になる……ということは考えにくい。
 逆説的にいえば、電子ブックによる読書ブームを起こせれば、一気に情勢は変わる。

 紙の本を電子ブックに移植するだけのものがほとんどなので、物理的な本があるかないかの違いでしかないのが、電子ブックの弱みでもある。データだけで、かさばらないという利点でもあるのだが。
 紙の本は不用になったら売ることができるが、電子ブックは転売できない。本棚に並ぶ本は、自身の読書履歴の表現になったりするが、電子ブックは飾ることができない。あるいは、紙の本を燃料にして、暖を取ったり、たき火で焼きいもを作ったりできるが、電子ブックは煮ることも焼くこともできない(^_^)。電子ブックは、一次利用のみで二次利用ができない。
 本好きの人は、コレクター傾向があるので、物理的な紙の本への執着が強いのではと思う。

 また、電子ブックは、画像だけ文字だけではなく、動画や音声・音楽を組みこむことも可能だが、そこまで作り込んだ電子ブックは少ない。インタラクティブな電子ブックを作るには、コストやノウハウも必要なので、採算ベースに乗せるのはなかなかに難しい。

 電子ブック先進国のアメリカでは、電子ブックの勢いに陰りが出ているという。

アメリカで電子書籍の売上が大失速!やっぱり本は紙で読む? 【最新レポート】電子出版革命のゆくえ | The New York Times | 現代ビジネス [講談社]

しかし「デジタル黙示録」は、少なくとも予定通りには訪れなかった。かつてアナリストたちは、電子書籍は2015年までに印刷本を超えると予言したが、その代わりに最近はデジタルの売上が急速に鈍化している。

現在は、電子書籍に飛びついた人々が紙の本に戻る、もしくはデバイスと紙の両方を使い分けるハイブリッド型読者になりつつある兆候が見られる。

約1,200の出版社からのデータを収集している米国出版者協会によると、今年の最初5ヵ月間で電子書籍の売上は10%落ちたという。昨年は、電子書籍の市場占有率は約20%で、これは数年前と同水準だ。

 数年遅れでアメリカの後追いをしている日本でも、同様の現象が生じる可能性は高い。
 ただ、アメリカではセルフパブリッシング(自己出版)の比率が高く、プロ・アマを問わずセルフで出した電子ブックがベストセラーになるというケースもある。日本では、そこまで注目されるセルフ出版は少ないので、土壌として弱い面がある。その分、鈍化すると落ち込みは激しいかもしれない。

 いずれにしても、右肩上がりの成長予想というのは、楽観的な気がする。
 2割で頭打ちなのを、安定期と捉えるか、停滞期と捉えるか、あるいは鈍化の前兆と捉えるか。今後の展開に注目したい。

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