「精霊の守り人」はテレビドラマとしては良質のファンタジーになるかも


綾瀬はるか主演の、NHKの大河ファンタジー『精霊の守り人』が始まった。
かなり力を入れているらしく、放送前からいろいろと関連番組が放送され、番宣もたくさんやっていた。
この手のファンタジーもののドラマは、日本のテレビドラマが苦手なジャンルで、チープだったり世界観を描ききれなかったり、イメージが原作から乖離していたりする。
期待半分、できるのかなーという不安半分で見ていた。

精霊の守り人|NHK放送90年 大河ファンタジー

精霊の守り人|NHK放送90年 大河ファンタジー

精霊の守り人|NHK放送90年 大河ファンタジー

NHKが『精霊の守り人』を映像化するのは2度目。
1度目はアニメで、これは及第点以上の出来映えだった。
今度は実写のドラマで、果たしてどれだけ世界観を表現できるのかがポイントだと思っていた。
ファンタジーものの作品は、その世界観が作品のクオリティの7割くらいを決めてしまう。実在しない世界を描くことになるため、既存の街中でロケするわけにもいかず、場面として使えるロケ地は限られてしまう。生活感のある情景を映像化するためには、衣装や生活空間をデザインしなければならず、カメラに映るものは1から作る必要がある。
アニメでは絵に描けばいいだけだが、実写は実物を作らないといけない。
つまり、想像力と手間と時間とお金がかかるということだ。
その世界観を創造することをケチってしまうと、作品はチープになってしまうのだ。

今回、「大河ファンタジー」という冠がついている。
大河ファンタジーというジャンルは初めてだと思う。通常の大河ドラマは、歴史上の人物の生涯をモデルとしているが、「精霊の守り人」はまったくのフィクションだ。
歴史上の人物の場合、時代考証や実際の記録などがあり、世界観はあらかじめ決まっている。多少のアレンジはあっても、大きく外れることはない。見る側も、あの時代ならこんな感じ……というイメージがあるので、予備知識として共有されている。だから、共通認識の世界観に少し上乗せする程度で、物語を構築できる。
しかし、誰も知らない世界の世界観を知ってもらうには、1から積み上げていかなくてはならない。
しかも、NHKがそれをやる。
最初に思ったのは……

「できるのかなー?」

……ということだった。
綾瀬はるかが主演というのも、不安要素のひとつだった。
綾瀬さんは名演技ができる俳優というわけではないが、好感度は高い俳優だとは思う。私も嫌いじゃない……というか、好きな女優ではある(^_^)。
とはいうものの、今回の役であるバルサは戦士だ。つまり、剣術などのアクションシーンが見どころになる。それを綾瀬さんがこなせるのか?……という不安だった。

だが……

不安は良い意味で裏切られた。
予想以上にクオリティの高い作品に仕上がっていた。
ある意味、NHKらしくない作品だ(^_^)。
事前の番宣で、衣装や舞台をデザインした柘植伊佐夫さんのメイキングを見ていたこともあり、この作品に対する世界観の創造には並々ならぬ力が入っているとは感じていた。
ファンタジー作品で、ここまでテレビドラマでやるのは、近年としては例外的な気がする。

ストーリーとしては、アニメ版を見ていることもあって、すでに知っていることなので意外性はないが、実写としてどれだけ表現できているかが見どころだ。
注目したポイントは以下。

(1)ライティングが良い
時代劇の大河ドラマなどでよくあることなのだが、シーンのライティングで光が当たりすぎて、画面がギラギラしてしまうため、奥行きを感じない、空気感が乏しい、リアリティが乏しい……といった映像になってしまう。
細部のディテールを見せる、あるいは見せたいという演出の意図なのか、暗いシーンや夜のシーンでも画面をクリアにするドラマが多い。現代ドラマだったらそれもいいのだが、時代劇のドラマでは暗い場所での光源はロウソクやかがり火だけだ。実際にはかなり暗いはずなのだが、ハイビジョンの高画質ということもあって、シーンが見えすぎてしまう。それは空気感が欠如する原因になっている。
だが、「精霊の守り人」では、あえて陰影の強いライティングで、見えないものは見えないという撮り方を意図しているようだ。ただ、それでもまだ明るすぎるシーンもあって、もっと「影」を表現してもいいのではと思う。

(2)空気感の色調が良い
前述のライティングとも関連するが、シーンごとの色調がよく考えられている。撮影後の処理で、色温度を変えたりカラーフィルターをかけていると思うのだが、ノーマルな色調ではなく、あえて青系や緑系あるいは赤系と画面をコントロールしているのは、空気感や緊張感を高める効果になっている。
手法としてはオーソドックスなのだが、ここまで徹底しているドラマは珍しい。
それはファンタジーであることで、大胆に取り入れられるからではと思う。

(3)衣装や舞台セットの作りが細かい
衣装や生活空間のデザインは、世界観を表現する重要な要素だが、それがよく作りこまれている。
日本、、韓国、モンゴルあたりのイメージを複合したようなデザインとなっているが、和風異世界感をうまく表現していると思う。ネットの評価の一部には、「韓国ドラマにイメージが似ている」という意見もあったが、宮廷の衣装はそう感じる部分もある。しかし、バルサや一般民衆の衣装は、古代中国やモンゴル的という印象だ。広く「アジア的」という世界にはなっていると思う。

(4)CGとの合成は及第点
現実にはないシーンを作るのに、ロケ地だけでは足りない部分をCGで作っていると思われるが、その合成はさほど違和感を感じない程度の及第点だと思う。そこでCGが浮いてしまうと台無しになってしまうが、そうならないギリギリのところで映像を仕上げている。

(5)綾瀬はるかのアクションはけっこう良い
綾瀬さんの立ち回りなどのアクションシーンは、思ったよりもよかった。すべて自身で演じたそうなので、そのためのトレーニングもかなり積んだのだろう。
この手のシーンの手法として、撮影時のスピードよりも若干再生スピードを速くしてスピード感を出すが、それを差し引いてもなかなかに見応えのあるアクションだと思う。
欲をいえば、カメラワークがやや引き気味の全体を映す構図が多いので、表情や手元・足下などの瞬時の動きをインサートして、素早いカット割りでスピード感を出すといいように思う。速すぎて目で追えないくらいのシーンがあってもいい。そのへんは演出家の腕しだい。

綾瀬さんに注文をつけるとしたら、滑舌をもう少しよくしてほしいかな。ときどき言葉が濁ってしまうので、なにをいったのかわからないときがある。録画してあったので、見直したときに何度もプレイバックして言葉を聞き取ったシーンがいくつかあった。
あのしゃべり方は、綾瀬さんの癖というか味なのだと思うけど、決めゼリフで単語が聞き取れないのはマイナス。

(6)ジグロ役の吉川晃司はいい味を出している
吉川晃司さんは、いい味出してるね。「下町ロケット」でもいい味を出していたが、今回のジグロ役もはまり役かな。正直なところ、演技がずば抜けて上手い役者ではないけど、存在感のある役者なのだと思う。

ジグロが出てくるシーンでは、バルサとの剣術のトレーニングをするシーンが素晴らしい。
幼少期のバルサと成長したバルサが、森の中でジグロに鍛えられるが、そのシーンには羽毛が舞っている。なぜ羽毛が舞っているのかは定かではないが、羽毛が舞っていることで空気の流れが感じられ、幻想的であると同時に、空間的・時間的な奥行きが感じられた。この演出は見事。
第1回目の、ベストシーンに推薦したい。

書きたいことはまだまだあるけれども、とりあえず注目して見ていきたい作品だ。
全22回を、3年かけて制作・放送するとのことで、かなりの長丁場。途中で挫折しないで、完結させてほしいと思う。

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