裁量労働制の前にやるべきことがある

LINEで送る
Pocket

国会で論議されている「裁量労働制」は、根拠となるデータが捏造っぽいものだったりして、「定額働かせ放題」などと批判されている。

誰がいっていたか失念したが、「働き方改革」ではなく「働かせ方改革」というのが政府の本音なのだろう。主体が労働者ではなく、雇う側の経営者側にとって都合のいい法律だからだ。

それに関する記事を2つ。

残業100時間超、残業代ゼロ、過労死認定も困難にー裁量労働制 先行事例から知る本当の怖さ / Yahoo!ニュース個人

 安倍晋三首相が「一般の労働者よりも労働時間が短くなる」と国会で答弁したものの、その根拠となるデータが重大な誤りがあることが発覚、安倍首相が謝罪するという顛末で、にわかに注目されるようになった裁量労働制。安倍政権は、「働き方改革」関連法案の柱の一つとして、現在、一部の専門職のみに適用されている裁量労働制を、営業職などにも拡大しようとしているが、果たして本当に長時間労働の是正につながるのか?既に裁量労働制を導入しているITやデザイン、ゲーム開発など業界の現場では、どんなに長時間働いても、残業代が支払われず、一定の時間以外は労働したという事実すら無かったことにされるという、最悪のブラック労働環境となっているという。

働き方改革は「下請けいじめ」になりかねない
生産性を高める「働きがい改革」を / 日経ビジネスオンライン

 国内市場が十分に成長しない中、経団連が「賃金を3%上げる」と言いますと、株主たちからは、「賃上げをするのは構わないが、利益を伸ばしてくれ」という声が上がります。すると企業としては、人件費以外の経費を削減せざるを得なくなるわけです。

また、人手不足から、宅配便の値上げが相次いでいます。これも企業にとっては少なからぬコスト上昇要因ですが、それも、売り上げや利益が上がる状況でなければ、他のコストを削ることで対応するしかありません。

その結果、何が起こるか。私が懸念するのは、いわゆる下請け企業にしわ寄せが向かうことです。宅配便の値上げは政府には関係のないことでしょうが、政府は「下請けいじめ」のリスクを考慮した上で働き方改革を打ち出しているのでしょうか。

下請けいじめは、昔からあることだし、それが当たり前になっていた。そんな下町の中小企業の、苦難を乗り越える物語がドラマになったりもして、「美談」にされる。それが共感を呼ぶのは、同じような境遇の人が多いからだろう。
「そんな状況は、おかしいだろ?」という発想は、あまり出てこなくて、
「よし、俺たちも堪えてがんばろう」と、下請けいじめに堪える道を選ぶ。
堪えて、堪えて、ひたすら堪えて、堪え続ける……のが日本人だといわんばかり。

長時間労働を是正するのなら、小手先で法律を作らなくても、現状の労基法を厳密かつ厳格に遵守させれば済む話。
雇用する側と労働者の関係は、対等ではなく、主従関係にある。極端にいえば、支配する側と支配される側だ。労働者に不平不満があったとしても、主人である雇用主には文句がいえない。服従することが求められるから、逆らえない。賃金をもらっていても、隷属している関係性だ。
ようするに、日本の国自体が、ブラック企業容認国家なのだと思う。

なぜブラック企業が多く、過労死や過労自殺が起きるかといえば、企業の規模にかかわらず、労基法を守っていない企業がほとんどだからだ。
法律があっても、守らない。守られていない法律は、あまり意味がない飾りだ。
労基法違反をしていてもめったに摘発されないし、ばれなきゃやりたい放題だから、長時間労働やサービス残業が当たり前のように野放しになっている。

過労死の事件が起こっても、わずかな罰金と一時的な制限が加えられるだけで、誰かが実刑で刑務所にぶち込まれることは稀だ。
責任が軽すぎる。
労基法違反に対するペナルティが軽いから、過労で人が死んでも経営者にとっての痛手は少ない。賠償金を払うことになっても、電通のような大企業であればコストとしての損失はわずかだ。
企業のトップに刑罰を科せられることはなく、頭を下げるだけで済んでしまう。刑事罰を科せられるとしても、直属の上司などのトカゲの尻尾切り程度。

牢獄

労基法違反は犯罪 / Photo by ©AlexVan

もし、過労死認定された事案で、経営トップが実刑として数年くらい刑務所に入れられるとしたら、トップの人間も真剣になるかもしれない。しかし、そういう法律にはなっていない。自分の身は痛くないから、労基法違反を認識していても、それが犯罪だという意識にはならないのだと思う。

前にも書いたが、企業リストを壁に貼って、ダーツで刺さったところに抜き打ちで査察すれば、十中八九は労基法違反を発見できる。そのくらい労基法違反は野放しになっている。
それを取り締まるための「過重労働撲滅特別対策班(通称、かとく)」、俗に“労働Gメン”といわれる人たちが、労基法違反を摘発するわけだが、その人数が少なすぎる。

労働Gメンは、全国に3000人ほどだとされているが、ぜんぜん足りない。何人かのチームで調査するのだと思うが、扱える件数は人数に比例する。裁量労働制を導入する代わりに、法令遵守の監視を強化するために労働Gメンを3万人にするとかの提言があればいいが、それはない。
結局、現状の労基法すら守れないのだから、裁量労働制があったとしても悪用するのは目に見えている。

労基法違反の会社を、ビシバシ摘発して、違反した経営者を刑務所にぶち込む。
そのための法改正をするのなら、国民の大きな支持を得られるのではないか?
そこまでやれば、ちっとはマシになると思う。

(Visited 48 times, 1 visits today)