出世欲が乏しいのは学校教育に原因がある

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日本の労働者は出世欲が乏しい……という調査結果の記事なのだが、サラリーマンという和製英語は、日本の労働者をよく表している。
直訳すると「月給人」……月給をもらう人となる。
英語だとoffice workerで「働く人」という言葉が入っている。
サラリーマンは、月給さえもらえればいいというニュアンスが含まれているように思える。

日本人、「出世したい人」が14カ国・地域で最低 成長意欲も低い 「一人負け」の背景にある「日本型雇用」 [ねとらぼ]

日本は「管理職になりたい」「出世したい」人の割合が14カ国・地域の中で最低──パーソル総合研究所が実施した国際比較調査でこうした結果が出ました。さらに日本は勤務先への満足度が低いのに、転職意向も最低という結果です。パーソル総合研究所は「日本だけ『一人負け』といってよい特異な数字が出た」として、改革が必要だと指摘しています。

(中略)

調査結果によると、日本は管理職になりたい人の割合が21.4%と最下位。13位のニュージーランドが41.2%なのに比べてもかなり低い結果となりました。「会社で出世したい」という人も日本は2.9%で最下位でした。

(中略)

男性中心で強い同調圧力、自社でしか通用しない業務プロセスの習得を通じた業務遂行能力の長期育成、年功的人材運用──これらが見られる組織において、先輩や上司は20~30代にとって魅力的なロールモデルとなりにくい。また、40代以降ではほぼ出世の勝負がついており、逆転人事は期待できない。こうした社会では、自ら学んで力を付けて自らの市場価値を上げ、時には転職をも手段としてキャリアを自ら形成していく意識や行動は現れにくい。

会社の規模にもよるだろうが、大企業に勤めているならまだしも、中小企業に勤めている人が大半なのだから、その中で出世してもたいした出世にはならないということもある。

出世とは、企業組織の中で役職に就くことでもある。
役職がつけば、役職手当が出る。
その相場は……

役職手当の相場(主任・課長)|役職に就いたときの残業の扱い-経営を考えるならMayonez

その賃金事情総合調査というデータによりますと、部長が7万5000円、次長が6万7000円、課長が5万7000円、課長代理、課長補佐が3万4000円となっています。

この手当の金額が魅力的かどうか。
中小企業では、こんなに出るところは少ないように思う。
役職とともに責任もより重くなるし、管理職になれば残業手当は出なくなる。
役職がついたら、実質的な給料が下がった、なんて話もよくあるので、出世することのメリットが少ないのではないか。

日本では転職のしにくさもあり、転職して給料が大幅に上がるケースも少ない。逆に、転職が多いと、なにか人間的に問題があるのではないかと勘ぐられたりもする。
また、ある年齢を超えると、転職そのものが難しくなる。
転職を繰り返してキャリアアップ……というのは、日本ではレアケースだろう。

出世欲が乏しい」のは、出世することのメリットがあまりないからだ。

たとえば、課長になったら給料が5割増し、部長になったら倍増……というのなら、出世することの目標になるかもしれない。
海外ドラマなんかを見ていると、同業他社がある人をヘッドハンティングするのに、給料は倍出すというような条件を出したりする。それなら、転職や出世するメリットは大きい。

月給40万で、課長になったら役職手当が5万7000円というのであれば、増加率は14.25%にすぎない。出世の報酬としては、ないよりマシな程度。

報酬(給料)は、その人に対する評価の指標でもある。
役職に就くことの報酬が少ないというのは、評価としても低いことを意味する。それではやる気は起きにくい。

出世するというのは、人よりも抜きんでることでもある。
記事中に「同調圧力」のことも書かれているが、日本人はとにかく同調圧力が強い。
これは日本の教育のたまものだ。

日本の教育の基本は「みんないっしょ」だ。
不揃いのリンゴではなく、粒ぞろいのリンゴを出荷するのが、学校の役目。しかも、大きなリンゴではなく、小粒のリンゴだ。
腐ったリンゴや傷がついたリンゴは排除し、質がそろったリンゴを良しとする。
リンゴたちはふるい落とされないように、飛び出さず、目立たず、おとなしく、和を乱さないようにふるまう。

校則は、リンゴたちを品質管理するために、憲法や法律よりも優先的に適用される。
ゆえに、人権侵害等の憲法違反であっても校則には従わなくてはならない。
学校を卒業して会社勤めをするようになっても、会社内だけに適用される社則が待ち構えている。校則で束縛するのは、サラリーマンとして会社に服従させる条件付けのためだ。自立心を持つよりも、規則に従う方が、なにも考えなくていいのだ。

かくして、会社は歯車として働くサラリーマンを手に入れる。

生産性など長時間労働とサービス残業で穴埋めすればよい。
うつ病になろうが過労死しようが、安月給で働かせているから、たいした損失ではない。代わりのリンゴを雇えばいいのだ。最近は、より賃金の安い非正規のリンゴたちもいる。
徹底的に服従と同調圧力に慣らされたリンゴたちは、文句を言いながらも黙々と働く。出世欲はないから、余計な人件費を払う必要もない。
使い勝手のいいリンゴたち。

礼儀正しく、協調性があり、行列では列を乱したり割り込みをしない、非常時には騒がす秩序を保つ、命令には素直に従う……これらは日本人の美徳ともされるが、粒ぞろいのリンゴとして育てられた結果でもある。

目立つこと、突出したこと、人とは違うこと、強い自己主張など、普通からはみ出したことをすると、バッシングを受ける。
出る杭は打たれる」だ。
出世欲とは、出る杭になることでもあり、「みんなといっしょ」から外れることにもなる。
同調圧力の中で生きてきたから、仲間はずれや孤立するのを恐れる。
それは生きにくいから、出しゃばらないでおこう。
それがサラリーマンの特性だろう。

良くも悪くも、これが日本だ。
負の側面も含めて、日本人らしさのベースでもある。
これを変えるには、教育を変えるしかない。
不揃いのリンゴたちを育てる教育。
その実現には、50年はかかるように思う。

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