コロナワクチンについての、気になる論文があった。
Twitterで流れてきた怪しげな情報の1次情報を辿って、その論文に行き着いた。
ワクチン反対派が喜びそうな部分もあるのだが、とりあえず翻訳して転載する。
Immune boosting by B.1.1.529 (Omicron) depends on previous SARS-CoV-2 exposure | Science
B.1.1.529 (Omicron)による免疫力増強は、SARS-CoV-2への曝露歴に依存する。
感染歴の重要性
英国における医療従事者の長期研究により、彼らの感染歴とワクチン接種歴を正確に追跡することが可能になった。Reynoldsらは、Omicron/Pango系統のB.1.1.529による最新の感染の波に対して、異種変異体による感染で予想外の免疫減衰効果があることを発見しました。
著者らは、オミクロンの感染は他のすべての変異体に対する免疫反応を高めるが、オミクロン自体に対する反応は鈍いことを発見した。
また、α変異体への感染では、オミクロン特異的な反応の増強は弱かった。さらに、武漢Hu-1感染後にオミクロンを感染させても、オミクロンに対する中和抗体やT細胞応答を高めることができなかった。
このことは、深い刷り込み効果を明らかにし、頻繁に再感染が起こる理由を説明するものである。構成概要
はじめに
B.1.1.529(オミクロン)およびその亜種は,COVID-19パンデミックを制御するための新たな課題を提起している.ワクチン接種を受けた集団は重症化および死亡から比較的保護されているが、ワクチン接種率が高い国では、ブレークスルー感染や頻繁な再感染を伴う症例が相当数発生している。
根拠
我々は、祖先の武漢Hu-1、B.1.1.529(Omicron)に対する交差防御免疫を、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の異なる免疫刷り込み歴のある3回ワクチン接種医療従事者(HCWs)で分析した。
B.1.1.7 (Alpha), B.1.617.2 (Delta) 波、および B.1.1.529 (Omicron) 波の感染後、それまで感染しなかった人とハイブリッド免疫※を持つ人を対象に、 B.1.1.529 (Omicron) 感染が適応免疫をさらに高めることができるかどうかを調査するために行った。
スパイクサブユニット1(S1)受容体結合ドメイン(RBD)とスパイク全体の結合、ライブウイルス中和抗体(nAb)効力、メモリーB細胞(MBC)頻度、ペプチドプールと自然加工抗原に対するT細胞応答を評価した。結果
3 回ワクチン接種を受けた HCW では、過去の懸念される変異体(VOC)に対して B 細胞および T 細胞の認識と nAb 効力が高まったが、B.1.1.529(Omicron)そのものに対してはこの免疫強化は減弱していた。
さらに、B.1.1.7(Alpha)感染後の免疫刷り込みにより、B.1.1.529(Omicron)に対する抗体結合の耐久性が低下し、S1 RBDおよびスパイク全体のVOC結合と生ウイルスnAb効力はほとんど相関がなかった。
3回ワクチン接種を受けたHCWの半数は、B.1.1.529 (Omicron) S1処理抗原に対してT細胞反応を示さず、全員がSARS-CoV-2感染歴に関係なくB.1.1.529 (Omicron) ペプチドプールに反応低下を示していることが明らかになった。
クラスIIヒト白血球抗原導入体におけるT細胞免疫のマッピングは、個々のスパイク変異がT細胞抗原認識の喪失または獲得につながり、T細胞の効果因子および制御プログラムに変化をもたらすことが示された。
① B.1.1.529(オミクロン)の流行時に感染した3回ワクチン接種済みの未感染者は、以前のVOCに対して交差反応性S1 RBDおよび全スパイク結合、ライブウイルスnAb効力、T細胞免疫を増強したが、B.1.1.529(オミクロン)自体に対してはあまり増強されなかった。
武漢Hu-1感染による免疫刷り込みは、B.1.1.529(オミクロン)感染後の交差反応性抗体結合、T細胞認識、MBC頻度、nAb効力の増強を無効化することが示された。結論
SARS-CoV-2感染とワクチン接種の組み合わせにより、ワクチンブーストによるハイブリッド免疫のパターンが明確に刷り込まれた。3回ワクチン接種を受けた感染未経験者では、B.1.1.529(オミクロン)感染により免疫防御が増強されるが、その増強は武漢Hu-1感染前では失われた。
② この「ハイブリッド免疫減衰」は、 免疫刷り込みによる免疫認識と免疫調節の実質的な破壊を示し、B.1.1.529(オミクロン)波の特徴が、3回ワクチン接種者において重症化に対する防御は比較的保たれているものの、ブレークスルー感染と頻繁な再感染の理由であると考えられる。※ハイブリッド免疫とは、新型コロナに感染し、なおかつワクチンで抗体を作った人の場合。
ここまでで論文の冒頭の概要。
これ以下は、研究内容の詳細になるので、割愛。気になる人は元論文を見てほしい。
重要な部分に下線を引いた。
論文調の文章は、ときにわかりにくかったりするのだが、平易に表現すると……
① 3回目のワクチン接種では、オミクロン株に対して免疫機能の増強は小さかった。
② 3回目のワクチン接種は、重症化を防ぐ効果は持続するが、感染そのものの予防効果は薄れる。
……ということのようだ。
なるほど、そういうことなら、現在の第7波の感染者数が過去最高を更新し続けている理由がわかった気がする。
日本はワクチン接種率が高い方だが……
- 重症者が減っているのは、上記②の理由。
- 感染者数が増えているのは、①の理由。
……ということになる。
端的に言えば「ワクチン接種は感染予防策として通用しなくなった」となる。
反ワクチン派の人が、この論文を元にした中国系のアメリカ右派メディア(トランプ支持派)の記事を見て、「ワクチンを打つと免疫力が下がるからワクチンを打つな」みたいなツイートをしていたが、そうではなくて「ワクチンを打ってもオミクロン株に対して免疫系は強化されなかった」というのが正しい。
ようするに、現在使われているワクチンは、初期の新型コロナウイルスを元にして作ったものなので、変異したオミクロンには効果が薄れているのは道理ではある。
近々オミクロン対応のワクチンが出てくるようなので、それを使った場合の検証も必要だろう。
「ワクチン打ったのに感染した」というのが話題になったりするが、理由はこの論文で明らかになった。
感染予防には役に立っていないのだ。
ワクチン接種は、重症化リスクのある人だけでいいと思うよ。