授業用タブレット問題は必要性と目的がないのでは?

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授業用タブレット問題は必要性と目的がないのでは?

Photo MixによるPixabayからの画像

 タブレットを教育にも活用する事例が、アメリカなどでも話題になったが、日本では混乱が続出しているようだ。

「生徒も『プリントの方がいい』と言います」 佐賀県の授業用タブレット問題、現場から伝えたブログ終了 – ITmedia ニュース

 今年度からすべての新入生が授業用のタブレット端末(ARROWS Tab Q584/H)を購入している佐賀県の県立高校について、現場の混乱を赤裸々に報告してきたブログ「佐賀県ICT利活用教育の現場報告」が終了する。

(中略)

 記事で報告されているのは、県の対応の混乱や職員の研修不足、タブレットのタッチパネルの反応の悪さや、教科書のインストール中のエラーの続発、授業支援ソフトのハングアップなど。ハードやシステムのエラーで授業が進まず、生徒が「プリントの方がいい」と言ったことなどもつづられている。

 目的や必要性からタブレットを導入したというより、まず導入ありきだったように思える。
 そもそも、なぜARROWS Tabなんだ?(笑)
 OSがWindowsだから?
 MS Officeが使えるから?
 スペックがいいから?
 価格が安いから?
 一般ユーザーのレビュー記事を参照すると、けっこうトラブルに悩まされている人が多い気がした。
 機種選定は必要だが、これにした決定的理由がよくわからない。

 教師側がタブレットに不慣れで、それを生徒に教えようというのも無理がある。
 自動車教習所の教官が、
「いや~、じつは、私も免許取ったばかりでね」
 なんてことでは、教官はつとまらないだろう。
 エンストしても、
「なにが原因か、わからないね」
 と、立ち往生する。動かない車の中で、教官と生徒はなすすべもなく……。
 授業のなにもかもをタブレットで済まそう、という発想もよくわからない。
 タブレットは万能機器だったのか?
 いつ、そんなすごいタブレットが登場していたんだ?
 それがARROWS Tabだったのか?
 知らなかった(笑)

 「プリントの方がいい」という生徒の発言はもっともな話で、電源入れなければただ板でしかないタブレットは、ときには不便だ。

 タブレットを使えば、なんでもできる。

 そんな過信というか、無知があるように思う。
 昔、まだインターネットがなかった時代のコンピュータにも、そんな都市伝説があったな。
 その頃のパソコンは、OSがMS-DOSだったりしたのだが、パソコンを使えないオヤジ世代の上司(現在は、多くがあの世にいかれた)が、「パソコンがあればいろいろなことを効率化できる」という先入観だけで、パソコンでなんでもやろうとした。
「そんなの無理」といっても、
「でも、コンピュータなんだろ? なんとかしてくれよ」と無茶をいったものだ。
 MS-DOSのPC-98よりは、なんでもできるようになったタブレットだが、得意なことと苦手なことはある。その特性を理解しないで、いきなり授業に導入するのは、昔の上司と同じ無茶ぶり。

 「佐賀県ICT利活用教育の現場報告」のブログ主は、パソコンには詳しいようだが、教師全員がそうではないために混乱に拍車がかかっていたようだ。
 iPadにしておけば、ハードもソフトもトラブルが少なかったのでは?……という気がしないでもないが、iOSだと授業用のアプリが開発できなかったのかもね。ePUB形式のデジタル教科書だったら、さほど問題はないと思うのだが。
 いずれにしても、タブレットを使って、どんな授業をするのか……という、計画性がなかったのだろう。
 紙をタブレットに置きかえるのが、タブレット授業の目的ではないはずだ。
 普通の教科書やプリントを使いつつ、補助的な役割でタブレットの機能を使うのが、本来の利用方法だと思う。
 それ以前に、子どもたちがタブレットに慣れるために、タブレットで「好きに遊ばせる」ことが先かな。オモチャとしてのタブレットなら、子どもたちは使い方を自分たちで発見していく。その過程が、学ぶことにもなるのではないか。遊びは、学びで有効な手段だからだ。

 「IT立国」なんてのは、もはや死語だが、かけ声だけでぜんぜんIT立国にはなれていない。
 これは教育現場だけの話ではなく、他の分野の業界でも大同小異だ。
 私の仕事である出版・印刷業界は、現在ではほぼ100%デジタル化されていて、データの受け渡しで仕事が完了する。しかし、コンピュータを介したやりとりをしているにもかかわらず、トラブルが発生したときに対処できるだけのパソコンスキルを持った人はごく少数だ。
 メールを送るときは、このボタンをクリックする、ファイルを解凍するときはこれをダブルクリックする……と、ある特定の動作しかできず、それ以外の処理が必要になると、なにをどうすればいいのかわからなくなってしまう。パソコンは仕事に不可欠になっているものの、ルーチンワークになっていることしかできない。問題が発生すると、仕事が止まってしまうのだ。
 社内でトラブルが発生すると、私のところにヘルプ要請が来る(笑)。たいていは、些末な問題で、ちょちょっと解決する。キーボードのタイピング速度は速くても、パソコンのトラブルには対処できない人は、けっこう多い。

 ブログ記事の中に、「ダウンロードに時間がかかった」という記述もあったが、1クラス40人が、いっせいにアクセスすればWi-Fi環境にかかる負荷も増えるだろうから、それに耐えられる通信環境になっていないのではと思った。
 試験的な導入では、タブレット授業が1クラスずつだとしても、仮に全学年、全クラスがタブレット授業をするようになると、ネットワーク環境はかなり増強する必要に迫られる。そのための設備投資をするのは、なかなか大変な気がする。

 ともあれ、タブレット端末、アプリケーション、通信環境、教師のスキル、カリキュラムの構成など、すべての面で準備不足だったとはいえるようだ。

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