10年後、2028年に火星基地を造ると豪語する、イーロン・マスク氏。
夢のある話なので、期待したい気持ちはあるのだが……。
10年後というのは、かなり無理があるように思う。
マスク氏「スペースXの火星基地は2028年建設が目標」 | sorae:宇宙へのポータルサイト
米スペースXを率いるイーロン・マスク氏は、火星基地「マーズ・ベース・アルファ(Mars Base Alpha)」の想像図を微修正して公開し、その建設がおそらく2028年になることを明かしています。
(中略)
現時点ではBFRは2019年に小規模なテスト打ち上げ、2020年にテスト打ち上げ、そして2022年と2024年に火星探査ミッションが予定されています。また、前澤氏による月旅行は2023年が目標とされています。
この想像図というか計画は、この状態まで建設をするのに10年では無理。
物資を運び、あるいは現地(火星)で製造するにしても、なにもない火星でこれだけの規模の基地を造るのは、並大抵のことではない。
2028年に完成ではなく、2028年から建設に着手するということなのだと思う。
最初のうちは、地球から物資を運ばなければいけないから、宇宙船のペイロードを考えれば少しずつしか運べない。しかも、地球と火星の距離は2年おきに最接近するから、2年おきにしかロケットは飛ばせない。地球から見て、太陽の反対側に火星があるときは、遠すぎて時間がかかりすぎるためだ。
大型の建設機械や建設材料は、現地で製造するしかない。そのための工場の建設も必要だ。
現地で製造するためには、資源も現地調達が必要になる。鉄、アルミ、銅などの資源が、火星にどれだけあるのか、どこにあるのか、それを探すことから始めなくてはいけない。
埋蔵されている資源が見つかったら、掘削し、精錬するための工場の建設。
掘削機械の製造、掘り出した鉱石から必要な金属を取り出し、精錬して、使える材料にするための機械や工場。
荒れた大地を整地するためのブルドーザーなどの工事車両の製造。
人間の生活拠点となる、住居の建設。
空気、水、食料を生産する施設。
降り注ぐ放射線を防御するための対策。
……etc。
人間が行く前に、ロボットで基地建設をするというアイデアもあるが、現在のロボット技術ではそこまでできるほどの能力はない。
最小限の材料と機械を先に送り、どこかの段階で人間が火星に行き、人間の手で基地建設をするというのが現実的な方法だろう。
これは、ナショジオのテレビシリーズ『マーズ 火星移住計画』で描かれた方法だ。
人間の手で火星基地を造るとなると、数人では無理だから、数百人〜数千人規模の人手が必要になる。
それだけの人間を、火星に送ることができるか?
ドラマの『マーズ 火星移住計画』では、火星移住を強行に進めようとする人物が登場する。それはマスク氏がモデルになっているのだとわかるが、計画を進めていくだけの資金がどれだけ保てるかというのは、ドラマの中でも問題になっていた。
資金が尽きれば計画は頓挫する。
火星に数百人の人間を送ったあとで頓挫したら、彼らを見殺しにすることになってしまう。
また、マスク氏が生存中に目標を達成できるとも限らず、大黒柱を失えば計画は頓挫するだろう。
火星移住計画は、やり始めたら途中下車はできない。火星に送った人間を見殺しにするのなら、途中下車もありだが、それを社会は受け入れるだろうか?
冒頭のMars Base Alphaが、想像図のように完成するには、楽観的に見積もっても50年はかかる気がする。50年で完成すれば、いい方だろう。
マスク氏の生存中に完成できるかどうかも、疑問符が付く。
夢のある話ではあるが、問題は地球上の話ではなく、火星だということ。
火星は地球の隣にあるのではなく、現在の宇宙船で飛んでいくにはとてつもなく遠くにある。ヨーロッパから、海を渡ってアメリカ大陸に移民したのとはわけが違う。
火星には、人間が生きていくためのものが、なにも用意されていない。すべてを1から作る必要がある。
火星基地に比べれば、月に基地を造る方が、もっと簡単だろう。
ステップとしては、まず月基地を建設して、ノウハウを構築するのが妥当じゃないかな。