火星の女王|NHK

「火星の女王」 SF/Fantasy

 NHKが気合いを入れて制作しているらしい、SFドラマの『火星の女王』
 原作付きなので、とんでもSFにはならないだろうと思うが、どういう見せ方をするかを注目していた。
 全3話で、1話の放送時間は90分と、時間的にも攻めている。

 結論からいうと、まあまあの及第点かな。

映画並みのスケール!菅田将暉出演、NHKドラマ「火星の女王」今夜スタート/シネマトゥデイ

放送100年を機に展開する「宇宙・未来プロジェクト」の一環として放送する本作。舞台は100年後。火星に10万人が移住した世界で、未知の力を持った謎の物体が現れたことで新たな時代が動き出すさまを描く。原作は「地図と拳」で直木賞を受賞した小川哲。脚本を、アニメ「けいおん!」や「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」シリーズの吉田玲子が務める。演出は「きれいのくに」(2021)、「17才の帝国」(2022)などの西村武五郎ら。音楽は坂東祐大、yuma yamaguch。

(中略)

第一回は、人類が火星に入植して40年、火星生まれのリリ(スリ・リン)が「ISDA」の地球帰還計画に参加し、母タキマ(宮沢りえ)や恋人アオト(菅田将暉)が住む地球に移住しようとするところから始まる。しかし、帰還便に乗る直前にリリは突然拉致されてしまう。一方、22年前に謎の物体が地球で引き起こした超常現象を研究するカワナベ(吉岡秀隆)は、火星にも同じ物体があると信じ各地を探索していた……。

「火星の女王」

 SF的なツッコミは、原作へのツッコミにもなってしまうのだが……。
 気になった問題点は5つ。

  1. 火星生まれの火星育ちであれば、体格は地球人とは異なるはず。
  2. 謎の物体は、原子番号188とされていたが、放射性なのでは?
  3. 100年後でも、失明を補完するデバイスはないのか?
  4. 火星↔地球間に片道4か月半かかるのでは、経済的交易は成立しない。
  5. 通信の遅延は、火星と地球の位置によって変わる。

(1)火星生まれの火星育ちであれば、体格は地球人とは異なるはず。

 以前にも別の作品で指摘したことだが、火星生まれの火星人であれば、体格は火星の重力環境に適応するだろう。
 方向性は2つ。
(A)低重力下では、1Gに耐える骨や筋肉は必要ないので、細身で背が高くなる可能性。
(B)逆に、低重力下ではエネルギー消費量も少なくなるので、体を大きくするメリットはなく、小柄で子供のような体型になる可能性。
 火星生まれ第1世代は、長身になるように思う。遺伝子レベルでは地球人要素が強く出るためだ。しかし、世代を重ねていくと、小型化に進んでいくだろう。
 いずれにしても、骨や筋肉は3分の1Gに適応しているので、地球の1G下では立つこともできないと思われる。そんな火星人が地球に行くこと自体が無謀な話だ。

(2)謎の物質は、原子番号188とされていたが、放射性なのでは?

 SF設定の肝ともいえるのが、謎の物質の存在。
 それは原子番号188と説明されていたが、ウラン(U, 原子番号92)以降のすべての元素(超ウラン元素)は放射性であり、自然界には存在しにくい不安定な元素となっている。
 それを素手で触っていたが、それって危ないのでは?
  これまでに合成・確認された中で最も重い元素はオガネソン(Oganesson, Og, 118番)だが、それよりもはるかに重い未知の物質ということになる。

 鉄よりも重い元素は、超新星爆発や中性子星の合体で生み出されたと考えられている。原子番号188の元素は、それよりはもっと莫大なエネルギーが必要なはずで、ブラックホールやダークマターが関与しているのかもしれない。ドラマ映像では、ブラックホールを臭わす表現にはなっていた。

 原作は読んでいないのだが、この未知の物質が物語を左右するように思う。

(3)100年後でも、失明を補完するデバイスはないのか?

 手に埋め込むIDタグや、耳につける自動翻訳機などの未来的ガジェットは出てくるが、先天的な失明を補完するデバイスが出てこないのが不思議に思える。
 現在でも、失明者の視覚を補完するデバイスが、初歩的ではあるが実現している。100年後であれば、もっと進歩しているように思う。
 とすれば、主人公が失明していて杖を使っているという設定は、少々時代錯誤な気がする。未来という設定なので、そこに違和感を感じる。
 また、主人公は貧困層ではなく、地位のある母親の娘なので、最高の医療を受けられる立場にある。失明補完治療が高額であったとしても、受けられたはずだ。

 杖は電源を必要としない道具ではあるが、100年後であればレーザーや超音波を利用した周辺環境感知器があってもよさそうなもの。グローブにそうした機能を内蔵して、手をかざすことで周辺を探れるようなデバイスだ。なんだったら、タグがそうであるように、手に感知デバイスを埋め込む方法もある。
 技術的な未来は想定が難しいのではあるが、もう少し未来感があってもいいように思う。

(4)火星↔地球間に片道4か月半かかるのでは、経済的交易は成立しない。

 これについても過去記事で書いたことなのだが、火星↔地球間の収益を出せる交易は成立しにくい。
 なぜなら、輸送コストがかかりすぎるからだ。
 火星で採れる鉱物資源を地球に輸出すると説明されていたが、金・銀・プラチナなどの貴金属を除く鉱物資源の経済的価値はたかが知れている。それでは収益は出ないだろう。

 そもそも火星には、鉱物資源はあまり多くはないと思われる。惑星自体が小さいし、早くに冷えてしまって、マグマの対流や活発なプレートテクトニクスは、早期に収束したと考えられている。
 地球の鉱物資源は、地殻やマグマの内部に存在していたものが、火山の噴火やプレートの移動によって、地表近くに露出したものだ。
 火星は、採掘可能な鉱物資源の種類や量は少ないのではないかと思う。

 また、火星↔地球間に片道4か月半かかるというのも、最接近時のことだとすれば、その周期は約2年おきになる。遠地点だと数倍の時間がかかる。
 1日で何十便も地球行きの宇宙船が出ているような描写はなかったので、週に1便とか月に1便とかいう頻度では、貨物を輸送するにも量的に少なすぎる。

(5)通信の遅延は、火星と地球の位置によって変わる。

 火星↔地球間の通信に、10分のタイムラグがあると頻繁に出てきたが、厳密には最接近時で往復6分、最遠時で往復40分である。
 このセリフを出すのであれば、現在の位置関係を示して、このタイミングだと10分かかると言わせないと、リアリティが乏しくなる。これは演出上の見落としかな?

そのほか気になったこと。

 一番気になったのはファッション。
 未来感は乏しいし、火星ならではのファッションというのも生まれているはずだ。現代とほぼ変わらないファッションだと、イメージが膨らまない。
 せめて、地球と火星の違いを明確にするファッションは必要だった気がする。

 重力が3分の1Gだという描写がないのも気になった。
 たとえば、地球上では一般人がジャンプできる高さは40〜50cmだが、火星であれば3倍の120〜150cmジャンプできることになる。そういう描写があってもよかったのでは?

 いろいろと気になる点はあるもの、まあまあ頑張っているから及第点だ。
 視聴者は、海外の優れたSFドラマをたくさん見る機会があるから、目が肥えている。少々のSF度では評価しないんだ。
 とりあえず、どんな展開になるのか、3話までを見るとしよう。

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