映画『シン・ゴジラ』を土曜日の深夜に観てきた。
期待を上回る完成度だった。
日本映画はSFが大の苦手。アイデアも特撮も脚本もチープで、役者の演技も大仰でギャグにしか見えない……といった、笑って見るしかできないようなSF映画ばかりだった。
やっとまともな日本SF映画が出てきた。
『シン・ゴジラ』は日本SF映画史上の傑作だ。
初代ゴジラ映画は別格として、これまで作られてきたゴジラ映画の中で、傑出した完成度だと思う。ハリウッド版ゴジラを軽々と超えた。
やればできるじゃん、日本SF映画も。
映画表現としての技術的なことで劣っていたわけではないが、使いこなせる監督がいなかった。
アニメ畑の庵野秀明監督が、それをやってのけた。
やはり、監督のビジョンというかセンスというか、SFを知り尽くしている監督じゃないと、まともなSF映画は作れないことを、この映画は証明している。
ストーリー的なことに関しては、「エヴァンゲリオン」との類似性を指摘する論評が多く出ているが、順序が逆で、エヴァがゴジラ映画をオマージュした作品になっている。エヴァの使徒はゴジラがルーツであり、台風のごとく何度も日本を襲ってくる。
エヴァで出てくる「セカンドインパクト」は、全地球規模の危機をもたらした災厄を意味しているが、日本SF映画史的にいえば、「ファーストインパクト」は「ゴジラ」だったともいえる。
庵野監督は、現代にゴジラが来たら……という形で、リアリティを追求したが、「ファーストインパクト」を描いたとも解釈できる。
「エヴァのいない時代の使徒の襲来」ということでは、エヴァの時代が未来なので、まだ巨大ロボットを作る技術のない現代では、自衛隊の現有戦力で対抗するしかない。
過去のゴジラ映画だと、ここでとんでもなく陳腐な秘密兵器が出てきて、爆笑してしまうところなのだが、庵野監督はリアリティにこだわった。自衛隊の活躍する映画としては、これほどリアルに戦える自衛隊はこれまではなかったことだ。
自衛隊が格好良かった。
劇中で、ティンパニーが鳴る音楽が出てきたときには、思わず苦笑してしまった。エヴァの緊張感を演出する音楽と同じだからだ。狙っていることは明白だが、効果的だった。
また、俳優が出てくるシーンの多くが会話劇になっているが、庵野節が心地いい。独特のセリフ回しで、緊張感を演出するのは庵野監督のお得意だが、こういう手法でシーンを見せるのも、これまでの日本SF映画にはなかったものだ。
そして、なによりもSF的な設定がしっかりしていること。登場人物のセリフにしても、自衛隊の攻撃シーンにしても、説得力のある背景がしっかりと描かれている。SF映画では、ここが最も重要だ。既知の科学をベースに、空想的な科学をブレンドするわけだが、そこに陳腐さがない。SF映画としての「肝」をしっかりと押さえている。
アニメのSF映画では、日本はかなりハイレベルだ。
宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』を始めとした一連の作品は、世界的な評価が高い。
押井守監督の『機動警察パトレイバー 2 the Movie』や 『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』などは、海外の映画監督にも大きな影響を与えた。ただ、同監督の実写映画はいまいちなのだが。
細田守監督の『サマーウォーズ』は、傑出した電脳SFだった。
そして、庵野監督はエヴァンゲリオンのクオリティを、実写映画でも達成したのはすごいことだ。映画畑の監督にできないことをやってしまったということで、風穴を開けることになったのかもしれない。
人気SFアニメを実写化することはよく行われるが、だいたいはコケる。ハリウッドに比べると制作費がショボイことも一因ではあるが、SF映画のノウハウがないのだと思う。加えて、監督や脚本家にSFマインドを持っている人が少ない。
「シン・ゴジラ」の制作費は公表されていないようだが、過去の事例から考えると10~20億円くらいかと推測する。ハリウッド映画だと軽く100億円超えるので、10分の1の予算だ。
それでこのクオリティは素晴らしい。
怪獣映画でありエンターテイメント映画なので、カンヌやアカデミー賞などの著名な映画賞の対象にはなりにくいが、世界的にも評価されていい映画だと思う。
興行的にどれだけ成果を出せるかはわからないが、「シン・ゴジラ」を超える日本SF映画は当分の間出てこないだろう。
現時点で、日本SF映画の最高傑作といっても差し支えないと思う。