「年間の自殺者数が15年ぶりに3万人を下回った」というニュースがあった。
 交通事故の死者数が年間約5000人前後なので、その6倍近い人が自ら命を絶っていることになる。自殺の原因とされるのは、「心の問題」や「経済的な問題」であったりするが、じつはそれだけではないかもしれない。

記者の目:自殺者、3万人下回る=山寺香(生活報道部)- 毎日jp(毎日新聞)

 警察庁が17日公表した統計(速報値)で年間の自殺者数が15年ぶりに3万人を下回った。なぜ減ったのか。自殺の原因は複雑な要因が絡むが、適切な対策を行えば減少することはフィンランドやハンガリーなど海外の事例で明らかになっている。日本ではここ数年どのような対策がとられたのか。

 「心の問題」というと、精神的・肉体的な悩みであったり、経済的・社会的な悩みによって、心が病んでしまう……というロジックになる。
 一般的に「」は、肉体とは別に人の中にある魂のようなものだと解釈される。
 しかし、科学的な解釈では、心とは脳の活動であって、「心=脳」となる。心が病んでいるということは、脳が正常に機能していないことでもある。

 脳の機能が低下する病気や外傷によって、性格や行動が変わる場合がある。認知症がその典型だが、心が肉体とは別の存在であるならば、脳が損傷を受けても「心」はどこかに影響を受けることなく存在しているはずだ。
 心の存在は、脳が生み出した幻想だともいえる。
 とかく、「心」と「体」を切り離して考えがちだが、心とはすなわち「脳」なのだということ。
 脳の機能低下は、脳細胞が損傷することによって起こるだけでなく、脳の活動を左右する脳内化学物質によっても起こる。
 気分が爽快になったり、逆にひどく落ち込んだりするときは、脳内の化学物質が作用して「気分」を作り出す。脳内化学物質は、心の状態を切り替えるスイッチになる。
 鬱病などに薬を処方するのは、化学物質のスイッチを切り替えるためだ。

 自殺願望が起きる心の状態……つまり、脳の状態が変わってしまう原因として、寄生虫のトキソプラズマが一因だという説がある。

ニュース – 科学&宇宙 – トキソプラズマが人の脳を操る仕組み – ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト(ナショジオ)

 それから15年間、公衆衛生データによる実験と分析を行った結果、フレグル氏はトキソプラズマと人間の行動にいくつかの驚くべき関連性があることを突き止めた。トキソプラズマに感染した人は交通事故に遭う確率が2倍以上高まるが、これはトキソプラズマが反応時間を遅くするためだとフレグル氏は考えている。さらに、感染者は統合失調症を発症しやすくなるという。トキソプラズマ感染は自殺率の上昇に関連しているという別の研究チームの報告もある。

 トキソプラズマがこうした変化を生じさせるメカニズムは謎だったが、2009年にイギリスの研究チームが、トキソプラズマはドーパミンの前駆物質であるレボドパ(L-dopa)を生成する2つの遺伝子を持つことを発見した。ドーパミンの増加は統合失調症の発症と関連付けられている。しかし、この発見だけではすべてを説明できず、依然として多くの謎が残った。

 自殺者3万人が、トキソプラズマに感染していないかどうかの調査は行われていない。
 自殺の原因は「心の問題」という一般論が大勢だからだろう。
 「心の問題」とは「脳の問題」である。
 脳が健康であれば、心も健康になる。
 脳の活動が顕現したものが「心」だということ。

 「健全なる精神は健全なる身体に宿る」……ともいうが、ユウェナリス(古代ローマ時代の風刺詩人)が意図したこととは別の意味に誤解された格言だとはいえ、これは脳と心の関係では正しいといえる。
 精神的に追い詰められた人へのサポートは必要だが、同時に脳の病気やトキソプラズマの感染も疑うべきかもしれない。

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