【サッカー】オーストラリアとの戦い方は恥ずかしくない

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豪州の選手と競り合う香川(ロイター)

豪州の選手と競り合う香川(ロイター)

 W杯最終予選のオーストラリア戦。
 勝てる試合を引き分けてしまった。残念ではあるが、日本チームの現状を考えれば、負けなかったのは最低限の仕事をしたと思う。
 なかなか上昇気流に乗れないため、スポーツ紙、サッカー誌、サッカー評論家たちの多くが、ハリルホジッチ監督に対する批判(というよりバッシング)をしている。それらを読むと、日本のスポーツジャーナリズムのレベルの低さが情けない。
 まず第一に、的確かつデータに基ずく客観的な分析が少ないのだ。
 感情論や印象論だけで批判している。あるいは、出所の定かではないゴシップ的な情報で批判している。
 典型的な例が、セルジオ越後氏だ(^_^)。

セルジオ越後氏、日本の戦いに「こんな臆病な姿は初めて。恥ずかしい」「勝ち点3を取るサッカーした?」 | サッカーキング

「日本代表のワールドカップ予選をこれまでいくつも見てきたけど、こんなに臆病な試合をする姿を見るのはW杯に出場するようになってから初めて。恥ずかしくなってしまった。これまでは勝敗の結果はあるにせよ、対等に戦おうとする姿勢は見せていた。だが、今日の試合は最初から守りに徹し、相手の実力が上であることを認めるサッカーだった。今の日本の実力が、このくらいのレベルなんだということを表していたのではないだろうか」

(中略)

勝ち点3を取りにいくサッカーをした? グループ最大のライバルとのアウェーゲームとは言え、W杯の予選初戦をホームで落としたチームが勝ち点を取り返すためにやるサッカーをしなかった。

(中略)

あと以前、金崎夢生に忠告をしていたが、自分が審判に詰め寄る姿も子どもに見せられるようなものではない。抗議するにしてもやりすぎだね

 この人、記憶力はよくないらしい。
 10月7日の記事には、以下のように書いていた。

劇的勝利もセルジオ越後氏「内容はひどい」「原口のような選手がたくさん出てこないと」 | サッカーキング

11日のオーストラリア戦は、まともに戦ったら負けるのでは。引き分けを頭に入れた弱者の戦い方も考えなければならない。

 結果的には、引き分けになったんだから、セルジオ氏のいうとおりになった。ここは褒めるところじゃないのかな?
 「弱者の戦いをしろ」といっておきながら、それが「恥ずかしい」とはなにごとだ!
 自分の発言には責任をもってもらいたいね。

 私は弱者の戦い方をしたとは見ていない。
 勝ち点3を取りに行ったから、開始5分での原口のゴールが生まれた。
 セルジオ氏には、あの攻めが見えていなかったのか?
 そのあとが続かなかったことが問題ではあるが、押し込まれる時間が多かったものの、攻めてはいた。毎度の課題で決定機でのシュートが決まらない。

 オーストラリア戦の戦い方を、恥ずかしいとは思わない。
 そもそも、サッカーは「恥」がどうこういうスポーツではない。相手より1点多く取ったチームが勝つスポーツだ。そこに強者も弱者もないし、恥も外聞もない。

強い者が勝つのではない、勝った者が強いのだ」……フランツ・ベッケンバウアー

 セルジオ氏が恥ずかしいという弱者のサッカーをしても、勝てばいいのだ。それを体現したのが、南アフリカ大会でのベスト16だった。
 あの当時のサッカーを続けるというのも、日本サッカーの道ではある。
 しかし、そうではなく攻撃的なサッカーを目指した。弱者の戦い方から抜けだそうとした。それはある程度までは成功していた。
 ブラジル大会の前のコンフェデでは、勝てはしなかったが攻撃的なサッカーができていた。コンフェデでのイタリア戦は負けたが、攻撃的で打ち合いのサッカーだった。ザックジャパンは、この試合がピークだったと思う。
 攻撃的なサッカーは、副作用をともなった。守備がもろくなってしまったのだ。失点が多くなり、先制しても守りきれなくなった。
 そして、ブラジル大会で敗退すると、自信を喪失することとなり、攻撃的なサッカーはできなくなった。しかも、もろくなった守備はさらにもろくなり、悪循環に陥った。それは現在も続いていて、回復途上にある。

 その守備は、オーストラリア戦で回復の兆しが見えた。失点はPKの1点だけであり、相手のシュートが決まらなかったことに助けられた部分もあるが、鉄壁とはいかないまでもベニヤ板くらいにはなった(^_^)。その守備が機能していたから、決定機のチャンスを作れていた。問題は、そこで決めきれるかどうか。シュートコースがあと10~30センチずれていれば……という精度の問題だ。それは蹴るタイミングであったり、わずかなボールコントロールの違いだろう。

 また、「金崎夢生に忠告をしていたが、自分が審判に詰め寄る姿も子どもに見せられるようなものではない」といっているが、この指摘はまったくの別問題だ。金崎選手は、チーム内の監督に向かって不満をぶつけていたが、それはチームの規律を乱す行為だ。対して、監督が審判に抗議するのは、公正な審判を求める抗議であり、チームのための抗議だ。アクションが大きいのは、外国では珍しくない。
 なぜ、同列に比較できるのか?
 監督が審判の判断に疑問を抱いても、おとなしくイスに座っている方がいいのだろうか?
 その方が紳士かもしれないが、選手を鼓舞することにはならない。冷静沈着だったオシム監督でも、抗議するときは激しく抗議していた。それは個人のパーソナリティであると同時に、国民性でもある。

 どこから出てくる情報なのか、監督解任論がくすぶっているのだが……

日本協会、今月中にもハリル監督進退会議 手腕検証 – 日本代表 : 日刊スポーツ

試合後のロッカールームでの第一声「おめでとう」に対し、複数の選手は「何で勝ちにいかないんだ」と吐き捨てた。

(中略)

「後半、監督から守備の方法を変える指示が出て流れが変わった」と話す選手も出るなど、求心力は低下しつつある。11月1日に予定される技術委員会が、続投か否かを含めて協議するため、今月に前倒しになる可能性も出てきた。

 「複数の選手」の選手とは誰なんだ?
 ほんとうに発言したのか疑ってしまう。その発言を、記者の前でいったら大問題だろう。その選手は金崎選手と同様に、代表から降ろされる。
 「流れが変わった」という発言が、なぜ「求心力の低下」といえるのか?
 伝聞情報や推測記事としか思えない。
 スポーツ紙は、なにかと煽る記事を書くのが仕事とはいえ、こういう記事しか書けないようでは、日本のサッカー文化の成長を妨げるものにしかならない。

 監督を代えればチームが強くなるわけでもなく、むしろ1から作り直しになるのだから、リスクの方が大きい。ころころ監督を代えることほど愚かな策はない。
 誰が監督になっても同じなら、セルジオ氏にやらせてみるといい。誰にも文句をいわれない、強いチームになる(^_^)。ただ、監督ができるライセンスは持っていないようだが。
 また、岡田さんに頼む?
 さすがに二度目の途中交代には応じないだろうな。

 分析記事として、よい記事だったのが以下。

ハリルJは悪いゲームをしたわけではない。原口の得点とPK献上に見るハリルの功罪。(小宮良之) – 個人 – Yahoo!ニュース

ボスニア系フランス人指揮官には、戦術を用いるだけの戦略が足りない。

オーストラリアを封じ込めたタクティクスと得点シーンは、ハリルの手柄だった。戦術的に良い準備をし、悪くない内容だった(ボールゲーム主体の方が発展性があるという議論とは別に)。交代に関しては批判も浴びているが、戦局は拮抗しており、動きにくかったのも分かる。アウエーゲームとしては、タイ戦からの上積みを感じさせた。

にもかかわらず、全体で失敗した印象になってしまう理由。それは指揮官が持つキャラクターが、良くも悪くもチームを左右してしまっているからだろう。

 攻撃的なサッカーを好む監督だから、性格的にも攻撃的だ。逆にいえば、こういう性格だから攻撃的なサッカーを目指しているのだろう。
 ところが、日本人はこういうとんがった人が苦手(というか嫌い)だ。出る杭は打ての社会なので、バッシングの対象になってしまう。トルシエ監督も似たタイプだったから、けっこう叩かれた。
 逆に、温厚なオシム監督やザッケローニ監督は、負けると叩かれてはいたが、好感度は高かった。

 もうひとつ、よかった記事。

なぜ日本はアジア王者に負けなかったのか敵地メルボルンで手にした勝ち点1の重み – スポーツナビ

 かくして、日本戦では奇策を持ち要らざるを得なかったオーストラリアであったが、日本が戸惑うことなくしっかり対応できていたことについては、個人的に賞賛したいと思う。「(相手が4-4-2でくるのは)スカウティングどおり」と原口が語れば、ディフェンスリーダーの吉田も「10番(クルーズ)とか4番(ケーヒル)とか7番(レッキー)が出てきて、クロスとかあるんだろうなと思っていたので、そんなに怖くはなかった」と言い切る。これらの証言から、相手の奇策をきちんとリサーチしていた日本代表スタッフの綿密な仕事ぶりをうかがい知ることができよう。メルボルンでの勝ち点1は実のところ、日本のスカウティングスタッフの働き抜きにはあり得なかったのである。

 ファンとしては、このような情報を知りたい。この記事にあるように、誰がなにを言ったかの情報は重要だ。前出の誰が言ったかわからない発言は、信憑性がない。

 結果がすべての世界だから、結果を出せば批判の声は少なくなる。
 次の試合は、11月15日、ホームにサウジアラビアを迎えての一戦。この試合は、最終予選の分水嶺だろうね。
 勝利して来年につなげて欲しいところ。

 ハリルホジッチ監督のチーム作りは、ようやく根付いてきた段階だと思うので、ここからどれだけ巻き返しができるかだろう。
 これまでの展開は、日本人好みのストーリーでもある。
 どん底の崖っぷちに立たされて、そこから紆余曲折を経て、不屈の精神で這い上がる。
 そのストーリーはまだ序盤だ。
 這い上がることができたときの歓喜は、いかほどだろうか?
 しかし、這い上がれず挫折してしまうストーリーの分岐もありえる。
 私は這い上がることを期待しているが、ワクワクしているのだ(^_^)。

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