軌道エレベータのミニチュア版の実験をISSで実施予定

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軌道エレベータ関連の記事。
ISSで実験をするようなのだが……

夢の宇宙エレベーター計画始まる! 日本のチームがミニチュア版の実験をISSで実施予定 | ギズモード・ジャパン

実現への第一歩は10mのミニチュア版から。

かねてより噂に聞いていた「宇宙エレベーター」計画。これは地上から高度35,786kmまで続くエレベーターを造るという、夢物語みたいな話でしたが……毎日新聞では、「9月に静岡大工学部が稼働実験を行なう」と報じています。

(中略)

かつて634mのスカイツリーを建てた大林組は、カーボンナノチューブ製のケーブルを使ってこのエレベーターを造ることに意欲を燃やしていましたよね。米Gizmodoは当時その技術(カーボンナノチューブの耐久性)について懐疑的な意見を持っていましたが……ホントのところ、どこまで大丈夫なのでしょうねぇ?

まず、「宇宙エレベーター」という言い方は、安っぽいB級映画みたいだからやめようよ(^_^)。間違いではないが、イメージの問題。

10mで実験ね。
エレベーターの昇降機が、どう動くかを見るとのことだが、それって、いまやる実験かな?……と思う。まぁ、いろいろやってみるのはいいんだけど。

軌道エレベータの実現に一番必要なことは、全長10万kmにおよぶケーブルを可能とする素材だろう。自重で破断せず、耐久性があり、実用的な昇降機が走れるようなケーブル。
そして、建造に際して、静止軌道からケーブルを垂らしていって、地上に固定することができるのかどうか。
可能かどうかも定かではない問題がたくさんある。

NASAによる軌道エレベータ想像図

NASAによる軌道エレベータ想像図(Wikimediaより)

NASAによる軌道エレベータの想像図では、ケーブルに付随して昇降機を走らせるための周辺構造物がある。新幹線並みのスピードでは遅すぎて、終点である静止軌道(高度35,786km)に到着するのに1週間くらいかかってしまう。その間、乗客は飲まず食わずというわけにはいかないから、空気、水、食料、生活する場所等が必要になる。乗客数が増えれば、それだけ積載量も増えることになる。

もっと速い昇降機が必要で、リニアモーターなどが考えられている。しかし、現状のリニアモーターでは、電力を食い過ぎて3万6000kmを走らせるには不向きであり、もっと省電力低コストで高速が出せるリニアモーターが求められる。平均時速1万kmを出せれば、静止軌道までは約3.6時間だが、時速1万kmで走るリニアモーターは未来の技術だ。

軌道エレベータの肝であるケーブルの素材として、カーボンナノチューブが有力視されていたが、ISSで宇宙空間にさらす実験をしたところ、劣化することがわかったという。

国際宇宙ステーション/「きぼう」日本実験棟における宇宙実験の試験体を回収 | ニュース | 大林組

国際宇宙ステーション/「きぼう」日本実験棟における宇宙実験の試験体を回収宇宙インフラ建設への活用の視点から、カーボンナノチューブの損傷度合いを検証

(中略)

確認された損傷は、その原子状の酸素がCNTに衝突して生じたものと考えられ、秒速9kmで進行するISS船外の曝露環境では、ISSの前面にある方が背面よりも損傷しやすい環境であることを確認できました。さらに、背面で曝露期間の違う試験体を比較したところ、損傷の程度にあまり違いがなかったことから、今回の実験では背面での曝露期間の違いは損傷程度に影響が少ないことも判明しました。また、回収した試験体に対して強度試験を実施したところ、前面・背面ともにCNTより糸の引張強度の値が曝露前より低下しており、前面の方がより大きな低下を示しました。

これは由々しき問題。
ISSの飛行している高度400kmあたりは、完全な真空ではなく、希薄な大気がある。原子状酸素とは、酸素原子が単独のため、きわめて反応しやすい状態の活性酸素。これによりカーボンナノチューブが劣化するとなると、いかに劣化から守るかが課題になる。

耐「原子状酸素」コーティングとして、酸化されない金やニッケルなどの金属でコーティングする方法が考えられているが、それはケーブルが重くなることを意味し、コーティングは永久的ではないので定期的なメンテナンス(再コーティングまたは交換)を必要とする。

静止軌道に近くなると原子状酸素は減るが、宇宙線や太陽風にさらされるようになる。これまた劣化の原因になりえるので、ケーブルをいかに保護するかが問題になる。
軌道エレベータは長大な建造物であり、建造するだけでも大変だが、メンテナンスはより大変になる。そのコストは膨大だろう。造ったはいいが、メンテナンスする財源がありません……なんてことになったら、軌道エレベータが数十年後に倒壊という事態になりかねない。

「夢の軌道エレベータ」ではあるのだが、いまだ発明されていない材料や技術が必要であり、膨大なコストもかかる。
それに見合うだけの採算が取れる事業になるかどうか……。
採算度外視ではなく、収益を見込むのだとしたら、軌道エレベータが儲かるかどうかは怪しい。

軌道エレベータは、理想としては素晴らしいが、実現性としては前途多難な夢でもある。

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