昆虫食に関して、嫌悪感丸出しの反響が多くなっている印象だ。
一部では、コオロギパンの製造メーカーに対して、不買運動を呼びかけている人までいるらしい。それはさすがにやりすぎだが、センシティブな問題だということでもある。
「昆虫食を勧める前にやることがある」の続き。
コオロギパン製造でPASCO不買運動に発展?コオロギ食推進の“戦犯”扱い/Business Journal
コオロギの食用化が急速に広まっている。昆虫食自体は10年以上前から国内でも研究が活発化しており、今に始まったことではない。
2050年に90億人を突破し、深刻な食糧危機がやってくる。そこで国際連合食糧農業機関(FAO)は、昆虫を新たな栄養源として検討すべきだと指摘している。試算では、人口の増加にともなう動物性たんぱく質の不足量は、2050年には1億トンに達するという。オランダのワゲニンゲン大学と共同で行われたFAOの調査によれば現在、世界中で1900種以上の昆虫が食用として消費されているという。
国内でも農林水産省は2020年10月に「昆虫ビジネスワーキングチーム」を結成。官民一体となって、昆虫食の研究を進めている。
昆虫の多くが高タンパクで、脂質・キチン質・カルシウム・鉄分・鉛分・ビタミン・不飽和脂肪酸などをバランスよく備えているという「健康食材」としての性格を持っている。牛は乾燥重量で100g当たり6mgの鉄分を含むのに対して、バッタは、種別また食物の状況にもよるが、乾燥重量で100g当たり8~20mgである。貧血に悩む女性が鉄分を補給する目的であれば、牛肉よりもバッタのほうが、はるかに手軽で、しかも栄養価が高い「健康食材」といえる。
(中略)
そんななか、コオロギを使ったパンを製造・販売しているPasco(敷島製パン)に批判の声が向けられている。
Pascoが食用コオロギパウダーを使用した「Korogi Cafe」シリーズをスタートさせたのは2020年12月のことだが、ここ数カ月の急速なコオロギ食推進の“戦犯”扱いされているのだ。
SNS上では、スーパーのパンコーナーでPasco製品が大量に売れ残っている画像や、Pasco製のパンが投げ売りされているかのようなツイートが散見される。Business Journal編集部が調査したところ、そのようなツイートが大量に出回ったのは2月23日から27日頃だ。また、都内および神奈川県内の複数の食品スーパーで確認したが、Pasco製品だけが大量に売れ残っているような状況は見当たらなかった。
そこで、Pasco本社の広報部に、コオロギ製品に対する反響や最近の消費者の声などについて問い合わせてみたが、「回答は控えさせていただきたい」とのことだった。
Twitterのコメントにも書いたが、昆虫(六脚類)はカニやエビなどの甲殻類と近縁の種なので、甲殻類アレルギーのある人は、昆虫でもアレルギーを発症する可能性が高い。
コオロギに嫌悪感を感じるのは、見た目がゴキブリに似ているからでもある。
Wikipediaによれば……
(ゴキブリの)食用・薬用
ほぼ全世界(日本、中華人民共和国、ベトナム、タイ王国、ナイジェリア、カメルーン、コンゴ、メキシコ、ブラジル、イギリス)の一部地域もしくは先住民族によって、広く食用として利用されてきた歴史がある。ただし、甲虫類やバッタ類、ハチ類などと比べれば、ゴキブリを食べる地域やその消費量は少ないといえる。
清潔な環境下で育成すれば臭みも少なく、種類によっては可食部も大きい。卵鞘も揚げて食べたり酒に漬けたりできる。調理法は食人口の多さから極めて多岐に亘るが、東アジアでは油揚げが一般的である。ゴキブリの唐揚げを食べた人の話によれば、食味はシバエビに似ており、食べられない味ではないとのことだが、少なくとも日本ではゲテモノ料理の扱いである。
……ということで、ゴキブリも食べられないわけではない。
また、昆虫の分類系統図によれば……
コオロギのバッタ目とゴキブリ目は、近しい関係にある。嫌悪感を感じるのは無理もない。
食の安全や品質については、人々は過剰に反応する傾向にある。
賞味期限を1日でも過ぎれば食べないし、産地偽装事件が発覚すれば、関係ない業者も影響を受ける。中国産の食品の安全性が問題になったり、異物混入事案もたびたび発生している。
意図しない異物混入で、虫が入っていたら大問題になるが、意図的にコオロギを入れている商品は、それと同等くらいの嫌悪感を引き起こしている。
つまり、虫嫌いの人が多いということだろう。
回転寿司での迷惑行為が異常に燃えたのも、食に対する安全や品質が脅かされたからだといえる。当事者でなくても、自分がその商品を口にしていたかもしれないという想像が働くと、胸糞悪い嫌悪感を抱く。
これを想像的体験、あるいは代理体験というが、通常はポジティブな方向性で述べられることが多い。寿司ペロや昆虫食に感じる嫌悪感は、ネガティブ性の代理体験といえる。
自分が食べたわけではないのに、食べている想像をすることで、まるで自分が被害者のように感じてしまうのだ。そのため、多くの人が反発していると思われる。
前記事にも書いたが、昆虫食の前にやるべきことがある。
昆虫食で、1億人の国民の腹を満たせるわけではないのだ。
食の安全保障の肝は、昆虫食じゃない。