五輪開催是非について、口を開き始めたアスリートたち

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五輪開催是非について、口を開き始めたアスリートたち

新型コロナは社会を分断したともいわれるが、オリンピックの開催の是非についても、賛成派・反対派の分断の主因になっている。

オリンピックに出場する選手にとっては、直接的に利害が絡むため、自由な発言ができないような空気があったのかもしれない。
だが、ここにきて口を開き始めたアスリートたちがいる。

新谷仁美、意識した五輪中止の声 16分もぶつけた強烈な持論「国民を無視できない」 | THE ANSWER スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

「ニュースで拝見しました。コロナに関係なく、スポーツに対してネガティブな意見を持つ人は当然いるんです。その人たちの気持ちにどう寄り添えるかが重要。それはコロナ禍であっても、そうじゃなくても、当然そこは寄り添うべきだと思う。彼らも同じ国民。私たちスポーツ選手は国民の理解と応援、サポートがあって成り立つ職業です。

反対する人、応援してくれる人すべての理解を得るために、やっぱり寄り添う必要がある。国民の意見を無視してまで競技をするようじゃ、それはもうアスリートじゃない。応援してくれる人たちだけに目を向けるようじゃ、私は胸を張って『日本代表です』とは言えないです。

自分たちさえよければいいというのであれば、本当に通用しないと思う。そこはやっぱり私たちアスリートが応えていかないといけない。競技で結果を出して『じゃあいいよね』っていうわけではない。しっかり自分の言葉で自分の意思を伝えることが大事だと思います」

あくまで持論であり、他の選手に強要しているわけではない。日本記録を持つ1万メートルで代表に内定済みの33歳。新谷にとって「寄り添う」とはどういう形なのか。14年に一度引退し、4年間のOL生活を経験。アスリートじゃなくなった時期があったからこそ、スポーツ界の“外”の意見も知っている。客観的な目線だった。

「結果を出していればいいという選手の気持ちもわからなくはないのですが、やっぱり結果だけじゃ伝え切れないのもあると思うんです。結果を出したら勇気や元気をもらえるのか。たぶん、私が逆の立場だったらもらえないんですよ。現実問題、スポーツで世界を救えるのならもうとっくに救えてます。だからといって、アスリートがペコペコして渡り歩く必要はないんです。

ただ、結果を出したからといって偉いわけではない。やっぱりそういうのがアスリートには目立つのかなと凄く感じました。人によっては嫌味にしか聞こえない時もあるんです。嫌だと思う人は当然いる。そういう見えないところ、スポーツに対してネガティブに思う人たちに視線を向けることが重要。私はOL生活を4年間続けたことで、この人たちの意見を聞くべきだと思いました。意見を聞いて『変えていこうか』って直すことを心掛けています」

長い引用になったが、バランス感覚のある発言だと思う。
五輪をなんとしても開催したい政府や大会関係者から、こういう説得力のある発言が出てこないのが問題だ。
本来なら、元オリンピアンでもある橋本大会組織委員会会長が言わなくちゃいけない。彼女は政治の世界に毒されてしまったのかな。

公言はされていないが、五輪を強行したい理由が「メンツ」と「お金」と「選挙対策」であることが見透かされているから、多くの国民が五輪中止を求めている。
五輪をやる手間と金があるなら、国民の救済に回せと言いたくなるのも道理。

次は、元アスリートの為末大氏の発言。

為末大さん 6連続投稿でアスリートの思い代弁「アマ選手には五輪しかない…ただただ選手の心が心配」― スポニチ Sponichi Annex スポーツ

為末さんは、池江の一連の投稿をリツイートした後、自身の意見を表明。「アスリートやその他の表現者の方も含め様々な方々が自分の夢に向かって一生懸命頑張っていることは何一つ咎められるようなことでもなく素晴らしいことで、それで勇気をもらう人もたくさんいると思います。ただその舞台を行うかどうかはまた別の話で冷静に判断することになりますが、それは別の話です」と書き出した。

(中略)

コロナ禍の中、東京五輪中止を求める声も高まっているが、為末さんは「五輪にいろんな思いをみなさんお持ちだと思いますが、アマチュア選手にとっては五輪しかないんです。その為に人生のほとんどを費やしてきているわけですから。最後の一年で大変なことになったからと言って、急に嫌いになってどうでもいいと思うことなんてできないんです」と五輪を前にした選手たちの思いを代弁。最後に「どうかご理解いただきますようお願いします。私はただただ選手の心が心配です。私だったら耐えられていないかもしれません」

五輪反対を主張している人たちは、「自分の夢に向かって一生懸命頑張っていること」を否定しているわけではないと思う。
東京五輪はやめてくれ」といっている。

元オリンピアンだから五輪を神聖視あるいは絶対視するのはわかるが、だからといって五輪だけ特別扱いするのはおかしいだろう。
五輪は特別扱い……問題の本質はここなんだ。

演劇、コンサート、お祭り、映画、学校行事、スポーツの一部など、多くのイベントが中止や延期を余儀なくされ、経済的にも苦境に立たされている人々がいる。彼らはコロナ対策という大義名分のために、中止を受け入れた。
しかし、それらのイベントよりも桁違いに大きなイベントとなる五輪だけは特別扱いということに、不公平感を感じるのは当たり前だ。
それに対する合理的な説明がされていないのではないか。

五輪擁護派の意見を見ていると、「スポーツ最高!」というスポーツを崇高視する傾向があるように思う。
「勇気と元気を与える」とか「感動を与える」とか。
そうかなー? それは過大評価のような気がする。

私はわりとスポーツ好きではあるが、サッカーや野球などの球技限定だ。
陸上や水泳などの、タイムを競う競技には、ほとんど興味がない。速さを競う競技は、肉体のフィジカル勝負なわけで、肉体としてのスペックの高さを競い合っているようなもの。そのために、ドーピングで肉体改造する人がいる。

サッカーでは弱小チームが強豪チームに勝つジャイアントキリングが起きることがあるが、100m走ではほぼ起きない。優勝候補が負けるのは、フライングで失格するか、転倒するか、体調不良で本領を発揮できないときくらい。番狂わせではあるが、ジャイアントキリングではない。決勝に残っている選手は、上位の選手達であって弱小ではないからだ。

過去のオリンピックのテレビの視聴率というのがあった。

夏季オリンピック歴代平均視聴率 【関東地区】

夏季大会 放送局 夜間の番組 夜間以外の番組 全番組
大会平均
世帯視聴率
放送分数
合計
大会平均
世帯視聴率
放送分数
合計
大会平均
世帯視聴率
放送分数
合計
第31回リオデジャネイロ(ブラジル)
2016年 8月6日(土) ~ 8月22日(月)
NHK 11.4 2907 8.4 11741 9.0 14648
民放計 9.1 4738 4.8 8427 6.4 13165
第30回ロンドン(イギリス)
2012年 7月25日(水) ~ 8月13日(月)
NHK 14.6 3438 7.6 11364 9.2 14802
民放計 11.3 3568 6.0 9475 7.4 13043
第29回北京(中国)
2008年 8月6日(水) ~ 8月24日(日)
NHK 17.8 4366 8.1 8130 11.5 12496
民放計 11.1 2858 9.2 8001 9.7 10859
第28回アテネ(ギリシャ)
2004年 8月11日(水) ~ 8月29日(日)
NHK 17.0 2329 9.3 9719 10.8 12048
民放計 13.7 2479 8.1 7930 9.4 10409
第27回シドニー(オーストラリア)
2000年 9月13日(水) ~ 10月 1日(日)
NHK総合 16.7 1861 11.5 8460 12.5 10321
民放計 11.7 1624 10.2 6751 10.5 8375
第26回アトランタ(アメリカ)
1996年 7月20日(土) ~ 8月 5日(月)
NHK 16.7 2357 8.3 9978 9.9 12335
民放計 19.9 552 8.0 7549 8.8 8101
第25回バルセロナ(スペイン)
1992年 7月25日(土) ~ 8月10日(月)
NHK総合 15.5 1973 8.5 8550 9.8 10523
民放計 15.4 1930 6.5 6271 8.6 8201

とまぁ、大会平均世帯視聴率は過去7回を通じて10%前後。
見かたによっては、9割の人は興味がないともいえる。東京大会は多少増えるとしても、過半数に達することはないだろう。
ようするに、1〜2割の熱心な人たちのための五輪なのではないか?

表現として「日本中が熱狂した!」みたいな見出しが躍ったりするのだろうが、じつのところせいぜい多くても視聴率は30%がいいところ。大部分の人にとっては、五輪はそれほど重要ではない。

続いて、競泳・五輪メダリストの松田丈志氏の発言。

池江璃花子への五輪辞退要請 松田丈志氏「絶対やってくれとは誰も言ってない」選手の心境代弁― スポニチ Sponichi Annex 芸能

スタジオに出演した松田氏は「池江選手は素晴らしいコメント出してくれた」とした上で「今回はSNSで池江選手にダイレクトメッセージなどで反対の声をあげてほしいというのがいってるわけですけど、池江選手は病気から奇跡的に回復して代表権を獲得して今回の五輪を印象付ける選手の一人だと思うんですね。そういう選手の影響力を使って、開催してほしくない人たちが自分たちの声を拡大して伝えてほしいということですからそれ自体は良くないことだと思います」と述べた。

「逆に言えば、五輪をやりたいと思っている人たちも、(池江のような)個人の影響力を使って自分たちの意見をリードしていきたいというやり方は良くないなと思いますけどね」と語った。

さらに元アスリートの立場として、「選手自身は絶対やってくれとは誰も言ってませんから。この状況下で冷静に、安心安全な形で開催できるのであればやってほしいというのが選手の気持ちだと思います」と代弁した。

元オリンピアンは、自分が出るわけではないから、一歩引いた視点から発言できているように思う。
松田氏は的確なことをいっている。

五輪開催の反対派も推進派も、池江さんの影響力を利用しているとの指摘は鋭い。
池江さんに対する反対派の発言が「筋違い」であるならば、推進派が「池江さんがかわいそう」と利用することも筋違いなのではないか?
反対派も推進派も、選手個人を持ち出すな……ということだ。

選手自身は絶対やってくれとは誰も言ってませんから」というのであれば、松田氏が代弁するのではなく、個々のアスリートが発言する方がいいのでは?
そういう意味で、新谷仁美さんの発言は称賛に値する。

テニスの大坂なおみ選手は、なにか発信するだろうなと思っていたら、やっぱり。

「私は待ち望んでいた」大坂なおみが東京オリンピック開催に対する私見を語る「もし人々を危険にさらすなら…」<SMASH> | THE DIGEST

 非常に厳しい状況に直面している点を考慮した上で、大坂は「もちろん、東京オリンピックは開催されてほしいと思っている。なぜなら、東京オリンピックへの出場は私の人生の中で待ち望んでいたことでもあったから」と素直に心境を吐露している。

だが一方で、「もし東京オリンピックが人々を危険にさらし、人々を非常に不愉快にしているのであれば、それは間違いなくしっかりと議論されるべきだと思う」と開催反対の声に対する理解も示している。

「やはりたくさんの人が入国するから、正しい判断をしなければならない。私はすでにワクチンを打っているけど、結局のところ、誰かにワクチン接種を強制することもできない」とも主張した。

じつにまっとうな意見だ。
アスリートが競技のことだけ考えていればいいというのは、人間性に欠ける。
それでは『「筋違い」が筋違いに思える』に書いた競走馬と同じになってしまう。
議論を発展させるためにも、当事者のアスリートはもっと自由に発言した方がいい。

開催か中止かというのは、お金の問題であったり、政治的な問題になっていて、国民もアスリートも蚊帳の外。
結局、密室で可否が決められるんだろうね。

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