iPadの登場により、日本でも電子ブックの普及が進むかどうか、注目するところだが、前にも書いたように、日本は業界的にも、制作サイド的にも、技術的にも遅れている。
参照→「電子ブックは売れるか?」
遅ればせながら……という感が強いが、以下のニュース。
「紙と共存共栄を」 大手出版31社が「電子出版社協会」発足 – ITmedia News
講談社や小学館、集英社など国内大手出版31社は3月24日、一般社団法人「日本電子書籍出版社協会」を正式に発足させた。KindleやiPadの日本上陸に備え、電子書籍フォーマットの統一などに取り組む。「紙とデジタルを共存・共栄させることが目標」と、代表理事の野間省伸氏(講談社副社長)は話す。
う~む……(^_^;
どうしてこういう発想になるかな?
「紙とデジタルを共存・共栄させることが目標」……などとという欲張りな目標を立てるから、立ち後れてしまう。
二兎(にと)を追う者は一兎をも得ず
……である。
内容が同じでも、媒体の異なるものがあれば、顧客は分散する。
どちらか一方しかなければ、そちらに顧客は集中する。
出版が生き残る道は、紙を取るか、デジタルを取るか、の二者択一だと思う。
中途半端が一番悪い。
両方をやるためには、そのための人員や経費がかかる。選択と集中というのが、企業経営で大切だといわれているが、それとは逆行する考え方だろう。
たとえば、音楽。
かつてはアナログのレコード盤だったが、今ではデジタルのCDになり、さらに物理的なメディアを必要とはしないデジタル配信へと向かっている。
技術の進歩によって、必要に迫られて音楽業界が変わっているとはいえ、「アナログとデジタルの共存」などという人はいない。
たとえば、テレビ。
完全地デジ化する日が近づいてきたが、ある日を境に、ガラッとデジタルに変わってしまう。
アナログのテレビは、過去の遺物になってしまうのだ。
そのために地デジテレビの需要が起きている。
「アナログとデジタルの共存を維持」など、ありえないし、コスト的に採算が合わない。
また、A局はアナログでB局はデジタルというわけではなく、一蓮托生、みんなでデジタルに変身!(^_^)である。
出版界(新聞も含む)も、デジタル化するのなら、期限を切って、この日からアナログ(紙の出版)は終了、電子ブック化する……と宣言して、業界で面舵をいっぱいに切るべきなのだ。
書籍が不要になることはないだろう。
電子ブックしかなければ、読者は電子ブックを買わざるを得ない。
ネットの情報だけで足りないところに、書籍の意味がある。そういう意味では、広告収入をあてにして無料で記事などを提供することもやめるべき。サンプルとして一部分だけ無料なのはいいとしても、まるまる無料にするというのは、自分の首を絞めるだけ。
「フリーエコノミーはいずれ破綻する」でも触れだが、無料モデルが通用するのは、初期の競争相手が少ない段階だけ。無料のものがあふれかえれば、わざわざお金を払おうとする人も減っていく。
新聞が電子化+有料化で困難にぶつかっているのは、無料のニュースがネットにあふれているからだ。1社だけ有料化しても、読者が無料の他社に流れてしまうだけ。
有料化するのなら、一気に、全社・全紙そろって有料化する方が、業界としては有利なはずだ。無料のニュースをなくしてしまえば、読者は有料のニュースを求めるしかなくなる。
需要と供給の関係で、同程度あるいは代替のできるのものが、より安い値段で供給されるなら、消費者は安い方に流れる。
基本中の基本だろう。
書籍で紙とデジタルを共存させた場合、紙の方が値段が高く、デジタルの方が安くなる。かかるコストが違うから当然だ。
だが、安い方のデジタルに顧客が流れると、紙の方で収益が下がる。デジタルだけで採算が取れればいいが、現状は紙の方で収益を上げようとしている。結局、紙とデジタルを平行して出すことで紙離れを加速させ、自分の首を絞めることになる。
デジタルに移行するのなら、一気にパラダイムシフトを起こすことだ。地デジのように。
少しずつデジタルにシフトしていく……というのは、安全策のようで、じつは顧客離れを誘発するだけのような気がする。
可処分所得があるように、使える時間……可処分時間も限られている。書籍のデジタル化が紙との共存を優先するあまりに、遅々として進まなければ、消費者は興味の対象を別の娯楽へと可処分時間と可処分所得を割くようになる。
電子ブックのライバルは、同族の他社の電子ブックではなく、音楽、映像、ゲームなどの他のデジタル作品だ。それらと競い合うためには、悠長にデジタル化を進めるのではなく、一気に、期限を切ってでも完全電子ブック化することだと思う。