電子ブックは売れるか?

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電子ブックは売れるか?

電子ブックは「作家直販」を可能にする」の続き。

電子ブック時代は、確実にやってくるが、出版社が危惧しているのは「電子ブックは売れるのか?」ということらしい。

その記事が以下。

【電子本の衝撃】揺れる出版界(下):電子書籍は売れるのか 期待と戸惑い – ITmedia News

 「著者と直接取引され、出版済みの書籍のデータだけ引き取られたら」と不安を口にする中小出版社の経営者も。アマゾンジャパンは「われわれには編集機能がないし、あくまで本屋なので、そういう直接取引をすることはない」と否定するが、市場が広がり他に電子書籍を販売する新規業者が続けば、杞憂(きゆう)が現実化する可能性も捨てきれない。

(中略)

実際、コミックを除き、一般書の電子書籍は各社とも収益を上げられていないのが現状だ。ある出版社の担当者は「わが社でよく売れているのは官能小説やボーイズラブのたぐい。年間100万円ほどしか売り上げがない」と実情を明かす。

書籍だけのことではなく、電子新聞でも同様の壁にぶつかる。

現状の「紙の本」の体裁を、そのまま電子ブックにしただけでは売れない。

それだけは確か。
なぜなら、メディアの特質がまったく違うからだ。

DTPでは紙の印刷を前提としてレイアウトを組み体裁を整えるが、それをそのままPDFにしただけでは、ページを電子化しただけにすぎない。
読みにくいのだ。

一般的な単行本だと1冊で200ページ前後あるが、

電子ブックではページ数が多すぎる。

また、日本語は縦組みの方が美しく組めるのだが、

縦組みの文字は、読みにくい。

そして、

1ページの文字数も、多すぎる。

小説を例に取れば、ライトノベル等の若い世代向けの本は、ページ数が少なくなり、1ページに入る文字数も少なくなった。
文章の書き方も、改行を多く入れ、1行の長さも短くなり、描写も軽くなった。それがライトノベルの「軽さ」にもなった。

さらに、ケータイ小説では、ますます文章は短く簡略化され、ケータイの小さな画面で見るのに適した形に変化した。

電子ブックも、そのメディアに適した形に適応させる必要がある。

ヒントになるのは、人気のあるメルマガだろう。
数年前に比べると、たくさんあったメルマガ配信スタンドは淘汰され、4~5サイトにまで減ってしまった。メルマガの人気は下り坂だが、人気のメルマガはまだまだ健在だ。

無料のメルマガと連動した有料メルマガもあり、コアな購読者を獲得している。

そのメルマガの情報量(文字数)は、書籍に比べれば、驚くほど少ない。1ヵ月の購読料が500円のメルマガの場合、1文字当たりの単価にすると、おおよそ0.0125円~0.025円くらいになる。
一方、紙の単行本だと、200ページで1ページ当たり600字くらいだとすると、12万字。価格が600円くらいだから、1文字当たりの単価は、0.005円だ。

0.025円 : 0.005円

わかりにくい?
小数点を省いて、25:5 あるいは、5:1
つまり、5倍も高い。

メルマガの場合には、週刊程度で小出しにする。雑誌の連載感覚ではあるが、文字量はずっと少ない。
それでも購読者がいるのは、そのメルマガにしかない情報であり、その著者にしかない面白さだからだ。
だから、買う。

また、メルマガには本のような整った体裁はない。
メールソフトの環境により、表示方法はバラバラ。基本は読めればいいという、アバウトなものだ。

しかも、誤字脱字は珍しくないし、文章がちぐはぐだったり、構成も一貫性がなかったりする。
だが、そんなことは気にならないのだ。
それは、著者からのメールのようなものであり、荒削りな部分は著者の人柄や個性を感じさせるものにもなっている。
つまり、著者と読者の距離感が近い。

ぶっちゃけ、出版社や編集者が不在で、著作として不完全であっても、売れるものは売れるということだ。
読者が求めているのは完成度ではない。

面白いものを読みたいのだ。

なにが面白いか……というのが問題になるが、上記の記事で「よく売れているのは官能小説やボーイズラブのたぐい」というのは、象徴的だ。

これは小説に限ったことではなく、DVDやゲームにもいえること。新しいメディアが登場したときに、最初にブレークするのは恋愛系やエロ系なのだ。
だが、市場が成熟してくると、エロばかりでは飽きられてしまう。嗜好が多様化してきて、ほかのジャンルでも売れるものが出てくる。

電子ブックの方向性としては、

(1)単価は安く(1冊あたり)
(2)情報量は少なく
(3)短時間で読める
(4)発行はこまめに
(5)作家との距離感を縮める
(6)インタラクティブな要素を加える(Twitterとの連動など)

……といったところだろう。
つまりは、今までの出版の常識とは正反対に近い。
出版社が介在しなくても、作家個人でも可能なことである。

極端な話、400字ずつ、毎日配信して、月額500円でも買う人はいるだろう。それで面白くて、続きが楽しみならば、高いとは思わない。
面白さに対する価値観は、変わってきていると思う。

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