東京オリンピックのエンブレム公募について、アメリカから苦言

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 気がつけば12月。久しぶりのブログエントリ(^_^)b
 出版・デザイン業界は、年末進行という前倒しの時期に入っていて、忙しいんだ。

 過去記事でもいろいろと書いていた「東京オリンピックのエンブレム問題」だが、一部のデザイナーだけによる閉鎖された公募から、参加資格を問わない一般公募が行われた。
 どんなデザインが採用されるかはお楽しみではあるが、無名のデザイナーも多く応募しているはずなので、レベルとしてはそれほど低くないのではと思う。
 いわゆる有名デザイナーとされる一握り人たちは、たしかに有名になるだけの仕事はしているのだが、無名デザイナーだからとデザインセンスが極端に劣っているわけでもない。そんなデザイナーにチャンスが与えられたことは良いことだ。
 とはいえ、無名デザイナーの置かれている立場は、けっして恵まれたものではなく、安いギャラで仕事を請け負うことが多いのも事実。デザイナーとしての知名度や実績によって、仕事が割り振られ、ギャラの値段が決められるので、陽の光を浴びることも少ない。

 ヒエラルキーに支配されている業界に、一路の光を差すこととなった今回の騒動は、ある意味画期的なこととなった。そういう意味では、佐野氏は意図せず壁を壊してくれた功労者ともいえる。
 そんな日本のデザイン業界に対して、アメリカのデザイン業界から苦言が発せられた。

米最大のグラフィックデザイン団体が東京オリンピックのエンブレム公募に対し苦言 「プロのデザインの価値を過小評価」 – ねとらぼ

「AIGA」による公開書簡

「AIGA」による公開書簡

 米国最大のデザイン関連非営利団体「AIGA」の執行役員であるリチャード・グローフェ氏は、東京オリンピックにおいてエンブレムを一般公募したことに対し苦言を呈し、五輪組織委員会会長・森喜朗元首相にむけた公開書簡を発表しました。

 アートディレクターの佐野研二郎さんによるデザインが白紙撤回されたという問題の経緯がエンブレムの再選定に影を落としているという一定の理解を示しながらも、今回の公募で約1万5000人もの応募者が100万円の賞金と開会式のチケットのためだけにコンペに参加しているが、作品の権利を無償譲渡することが条件になっているなど、一切のロイヤリティなどが発生しないことに言及。

 これではデザイナーに対する対価が不十分で、ひいてはデザイナーの“ただ働き”につながりかねないとし、運営組織とデザイナーの関係がフェアではないとの批判が展開されています。

 下線部については、同感だね。
 賞金は100万円でもいいが、ロイヤリティは別途設定すべきだね。それだけの価値のある仕事だからだ。採用されれば名誉ではあるが、名誉だけでは食えないのだよ(^_^)。
 そのへんの感覚が日本的というか、デザインに対する価値観の低さなんだ。
 書籍の仕事を例に挙げれば、作家に対しては印税として売れた部数(発行部数)に対してロイヤリティは支払われるが、カバーデザインをしたデザイナーにはわずかばかりの制作費が発行部数に関係なく支払われるだけ。そこそこ売れた本だろうが、売れなかった本だろうが、デザイン料は1冊いくらの設定なので、制作費としては変わらない。書籍が重版・再版されると作家にはさらに印税が発生するが、デザイナーには一銭も入らない。デザインは使い捨て感覚なんだ。

 ぶっちゃけ話でいえば、デザイン業界は黒に近いグレー業界でもある。
 博報堂や電通などの大手広告代理店、大日本印刷や凸版印刷などの大手印刷会社、集英社や講談社などの大手出版社がヒエラルキーのトップにあり、そこからデザインの仕事が下の階層に流れていく。下請け、孫請け、ひ孫請け……と、発注される仕事が落ちていくと、中間マージンが取られ制作費も削られていく。発注元が100万円の予算で発注していたとしても、末端のデザイナーの制作費は10万円……1件の仕事のギャラが10分の1になっているということもある。発注元は100万円のデザインができたと思っているかもしれないが、じつは10万円だったりする。そういう業界なんだ。
 また、デザイナーは個人であったり小規模なデザイン会社(数人~十数人)に所属していることが多い。個人の場合は個人事業主だから、労働時間の制約や残業代などとは無縁。小規模なデザイン会社は、社会保険なし、残業代なし、労働時間の管理なし……という会社も少なくない。個人事業主感覚で会社として立ち上げているところが多いためだ。
 私はこれまで小規模なデザイン会社を転々としてきたが、どの会社も「社会保険なし、残業代なし、労働時間の管理なし」だった。つまり、労働環境としては「ブラック」なのだ。安いギャラで仕事を請け負うから、社会保険や残業代を払う余裕がない。安月給で長時間労働を強いられることになる。
 おそらく、このような小規模なデザイン会社が、デザイン業界の大半を占めている。アニメ業界よりはマシだが、かといって褒められるような話でもない。

 そうした問題の根底は、デザインの価値や地位が低く評価されているからだろう。
 エンブレムのようなデザインには著作権が認められるが、書籍のデザイン等には著作権は基本的に発生しない。世の中に出回っている商品や製品は、誰かがデザインしている。車のデザインから100円ショップの商品に至るまで、人の手で作られているものすべてにデザインは存在する。デザインの良し悪しはあるにしても、デザインは日常生活と密接に結びついている。
 パクリや類似のデザインが多いことは事実だが、なぜ模倣が多いかといえば、デザインにかけるコストが少ないことも一因だ。安いギャラのデザインに、時間や手間暇はかけられない。よくないことと知りつつも、パクってしまうこともあるだろう。それがまかり通ってしまうと、パクることに罪悪感は感じなくなる。有名デザイナーがそれをやると大問題になるが、無名デザイナーがやったとしても誰も気がつきはしない。

 デザインにも相応の評価と対価を!
 東京オリンピック2020が、その転機になってくれればと願う。

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