ソニーのロボット再参入は「落ち穂拾い」か?

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「知性の壁」は超えられるか?……に関連して。

ソニーがロボット分野に再参入するというニュースが流れたのは、6月29日のこと。
一部のソニーファンから、かつてのAIBOQRIOの再来を期待する声も上がっているが……
私の感想は、
「なんで今さらロボットなんだ?」
という、冷めたものだった。
先見性のあったAIBOを切り捨て、コンピュータのVAIOも切り捨ててしまって、コアとなる技術者や技術がなくなっているのではないか?
そういえば、PS3Cellプロセッサも捨てちゃった。スパコンを自作できるほど、可能性のあるプロセッサだったのに。
PS4があるじゃないか……といっても、頭脳となるAPU(Accelerated Processing Unit)はAMD製だし、GDDR5 RAMはサムスン製で、組み立ては台湾のFoxconnが中心になっている。
自前で新しいものを作れなくなっている現在のソニーに、革新的なロボットができるとは思えないんだ。

「ソニーのロボット再参入は棘の道」とする記事が以下。

ソニーのロボット再参入は棘の道か:日経ビジネスオンライン

「やはりあの時、完全にロボットの研究開発をやめてしまったのは旧経営陣のミスだった、と今の経営陣が認めたということでしょうかね。『なぜAIBOやQRIOといったロボット事業から撤退してしまったのか』という、ソニーOBの方々の批判は正しかったということです」――(「オレの愛したソニー」)。

(中略)

ソニー関係者に内情を聞くと、以下のように説明してくれた。「大きな予算と100人以上のエンジニアを投入して1種類のロボットを作っていたAIBOやQRIO時代の開発体制とは異なり、用途別に複数種類のロボットを低コストでスピード感を持って作り、実際に当たったものをさらに伸ばしていくようなやり方になるだろう。みな口に出しては言わないが、日々感じるのは、やはりロボットの研究開発をやめてしまったツケは大きいということだ」。

(中略)

「結局は、こういうコミュニケーションロボットに数万円とか、10万円以上の金額を払う消費者はいないということが証明されている。過去にこの分野のロボット開発を目指して失敗した企業は死屍累々。実はソニーもその一社のはず。AIBOで利益を出すことができず撤退した経験から、一体何を学んだのだろうか」

周りがロボット・AIブームだからと、乗り遅れまいとして再参入しようとしているようにも見える。
AIBOの遺産は、すでに淡い思い出しかなく、AIBOと同じものをすぐに作れるわけでもない。これから新しいものを作ろうとしたら、他社の後追いでしかなく、二番煎じ、三番煎じのロボットしか出てこないのではと思ってしまう。
ロボット掃除機がいい例だ。
先駆者だった「ルンバ」の成功例に追随して、各社が似たようなロボット掃除機を出してきた。ルンバの特許がどうなっていたのかわからないが、ほとんどパクリのような製品ばかり。
ロボットも参入する企業が多いほどに、コモディティ化するのは必然だろう。

現在の「ロボット・AIブーム」は、今後5年前後のうちに冷めるのではと思う。
少々おおげさに騒ぎすぎているからだ。
ロボットやAIの技術は、今後も進歩していくのは間違いないが、それは拡散と浸透をしていく技術だろう。つまり、あえて「ロボット」とか「AI」とか、断り書きをしない製品になっていくということだ。
かつて、「マイコン」というのが商品名や機能性のアピールに使われていた。「マイコン搭載炊飯ジャー」とか「マイコン洗濯機」とか、マイコンを組みこんだ製品が目新しい時代には、「マイコン」を売りにしていた。
しかし、現在はマイコンはあらゆるものに組みこまれているので、いちいち表記しなくなった。もう普通の、当たり前の技術になってしまったからだ。スマホは、1970年代のコンピュータレベルから見たら、スパコン並みの処理能力を持っているが、だれもそんなことに驚きはしない。
スマホは超小型高性能コンピュータではあっても、もはやポケットに突っこむ財布と同様のアイテムのひとつにすぎない。

そのうち、ガンプラはただのプラモデルではなく、自律歩行のできるロボットになるだろう。動かないガンプラなんて過去の遺物……なんていわれる日がくるかもしれない。
そう遠くない未来には、リカちゃんバービーも、自律して動き、しゃべる人形になる。それが当たり前になったとき、あえてロボットと冠をつけることはなく、「リカちゃん」、「バービー」と呼ばれるだけ。ロボット&AI技術は、バックグランドになってしまう。

スマホやタブレットなどタッチスクリーンを使い慣れている子供は、古い据え置き型のテレビ画面をタッチして操作できないことに驚くという。
それと同じことで、近未来では人形やぬいぐるみは自律的に動き、話しかければ答えるものになる。その内部には高度なロボット技術が組みこまれ、クラウドと接続する通信機能があり、巨大なサーバー群に常駐するAIが、端末である各人形やぬいぐるみを制御する。
そういう近未来は、10~20年くらいの間に実現は可能だろう。
AIは万能ではないが、機能を特化すればかなり役に立つ。

落ち穂拾い
Jean-Francois Millet [Public domain or Public domain], via Wikimedia Commons

ソニーのロボット事業の 失われた10年の穴は想像以上に大きいと思う。
逆にいうと、10年先行していたのに、その優位性を活かせなかった。
再参入はいいとしても、10年後の展望があるのかどうか?
他社の追随をするだけでは、刈り取られた畑の落ち穂拾いをするだけになってしまうよ。

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