SFファンにはお馴染みの「超光速通信」が、実現可能になるかもしれない。
日本の科学者もなかなかである。
完全な「量子テレポーテーション」に初めて成功 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
東京大の古澤明教授らの研究チームが、光の粒子に乗せた情報をほかの場所に転送する完全な「量子テレポーテーション」に世界で初めて成功したと発表した。
超光速は略して「FTL」という。Faster Than Lightの頭文字を取ったもの。
どんなに距離が離れていても、タイムラグなしで情報を伝えられる技術だ。現在は架空の技術だが、理論的には可能だとされてきた。
NASAなどの宇宙探査では、探査機との通信に電波が使われているが、ほぼ光速の電波でも、火星までは最大で片道20分(地球と火星の位置関係が遠地点の場合)かかる。FTL通信が可能になれば、瞬時に情報のやりとりができるというわけだ。
アインシュタインの相対性理論では、光速よりも速いものはない、とされているため、超高速は不可能とされてきた。ただし、これは質量のある物質の場合の話で、情報には形も質量もないから、光速の呪縛はない……というのがSF的な解釈だった。
そこに文字通り「穴」を開けたのが、量子理論だった。
極微の世界での量子の振る舞いは、奇妙で不可解だ。ものごとは確率で左右され、存在しているようで存在していない、しかし現象は起きる。異なる状態が同時に存在する世界。
日常的な現実世界に、そのまま適用できるわけではないが、奇妙な量子の世界が実用的な技術として利用される時代は、やがて訪れる。
量子テレポーテーションによる超高速通信もそのひとつだが、未来のコンピュータとして考えられている量子コンピュータも不可能ではなくなっている。
超高速通信が可能になると、未来と過去という因果関係がどうなるのかが興味深い。
地球上の日常的な空間では、光速の守備範囲なので同時性の問題は起きない。衛星中継などで、タイムラグが生じる場合もあるが、あれは衛星を複数経由することで、距離が長くなり、処理時間もかかるために遅延が生じている。
量子テレポーテーションによる超高速通信が可能になったとしても、未来から過去に情報が飛ぶわけではない。たとえば、1光年先の相手に、電波でメッセージを送ると、1年後にしか届かないが、量子テレポーテーションでは発信と同時に相手に届く。
同時性ということであって、時間を超越してメッセージが届いているのではない。
ただ、光速を超えている(ように見える)ことで、過去に飛んでいるような錯覚をしてしまう。
光速は超えられない……という物理法則から、「光速=時間」とも考えられてきた。相対性理論を説明するときによく例えられる「双子のパラドックス」のように、光速の呪縛があると「同時性」が同時ではなくなる。量子テレポーテーションによって、同時性の問題がどのように解釈されるのか面白いところ。
日常とはあまり縁がないように思われる研究なのだが、数十年後にはあたりまえになっているかもしれない技術だ。
かつてはSFの世界だったものが、意外と近い世界になってきた。