ストックフォト業界…そんなに甘くないよ

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前エントリ『「暗黒光子(ダークフォトン)」は存在するか?』の壮大な宇宙の話から、いきなりリアルな日常の話に舞い降りるが……(^_^)

私もやっているストックフォトの話。
アマチュア写真家でも写真を売って稼げるか?……についての記事。
写真誌のアサヒカメラの記事なので、どんなものかと思ったら、中身の薄い内容だった。

実録ルポ! 私が撮った写真、いくらで「売れ」ますか?(前編) 〈アサヒカメラ〉|dot.ドット 朝日新聞出版

 いまこのストックフォト業界で、インターネットを利用して急速に売り上げを伸ばしている会社がある。それが今回紹介するPIXTA(ピクスタ)だ。同社はカメラマンやイラストレーターらを「クリエイター」と呼び、その作品を「デジタル素材」として販売している。2005年に会社がスタートし、昨年9月に東京証券取引所マザーズに上場、登録クリエイター数は19万人以上にのぼる。

(中略)

「稼げる人が増えてきて、うちのストックフォトだけで生活している人もいます。月100万円以上稼ぐ人がちらほら、トップクリエイターは売り上げ3千万円です」

上記記事の続編が以下。

ネットで写真を売ってみた! 売れるヒントは「ニュース」「季節感」 〈アサヒカメラ〉|dot.ドット 朝日新聞出版

ピクスタの統計によると、最初の1枚が売れ出すのは平均で92枚登録してからとか。

(中略)

ちなみに1枚売れての収入は、クリエイターの実績や販売方法によって異なるが、初めての人は通常は販売代金の22 .0%である。私の最初の1枚は安く売っても構わない販売方式を選んだので、収入は27円だった。

いやはや、苦笑してしまう。
7~8年前(現在年からは15年〜16年前)の記事かと思ったよ。なぜ、いまさらこんな記事を書いているのだろう?
月100万円以上稼ぐ人がちらほら」とあるが、数人である。20万3644人(2016/08/19現在)のうちの数人だ。写真仲間にPIXTAで人気ランキング上位の人がいるが、その人ですら月100万円以上稼ぐ数人の中には入っていない。
こういう記事の書き方だと、頑張れば月100万円以上稼ぐことが、誰にでもできるような錯覚を起こしてしまう。

冷静になって考えてみてくれ。
記者が試してみたという実績は、1点売れて27円の売上げ。

100万円÷27円≒3万7037枚

月に3万7千枚以上売れなければいけない。同じ写真がリピート購入されることもあるが、さすがに1枚の写真が3万回もリピートされることはない。1枚の写真が1回の購入だと仮定すると、少なくとも3万7千枚以上以上の写真を登録していないと、不可能な数字だということ。
写真のジャンルにも左右されるが、風景や静物などの人物以外の写真の場合、登録写真点数のうち、売れるのは多くても約1割。たいていは1割以下で、1桁の数%が通例。それが「最初の1枚が売れ出すのは平均で92枚登録してから」の根拠にもなっている。
つまり、3万7千枚売れるには、37万枚の登録写真が必要だという計算になる。ひとりで37万枚の写真を撮って登録することは、事実上不可能である(^_^)。記者の神田氏は、辿り着くことのできない夢を語っているのに等しいということだ。

では、月に100万円稼いでるクリエイターはどうやっているのか?
条件がいくつかある。
(1)登録写真点数が桁違いに多い。
(2)人気のクリエイターであること。
(3)人物写真が多いこと。
(4)リピート購入が多いこと。
(5)PIXTAで長く活動していること。
だいたいこの5つくらいは必須。
写真のジャンルとして、モデルを使った人物写真は需要が高い。
風景や静物は使われるシーンが限定されるため、それほど売れるジャンルではない。
前にも書いたが、売れない写真の代表は「花」である。花は一定の需要はあるものの、どこのストックフォトでも数が圧倒的に多いジャンルなので、競合他者が多くて売れないのだ。
売上ランキングが上位になるほど、配分されるコミッション率も高くなる。その分、手取りも多くなるが、上位になるのがまず難関。
また、料金の安い定額制に写真を提供しないこともひとつの戦略だ。定額制は、売れる可能性は高まるが、売れても二束三文なので収益を上げることには貢献しない。稼ぎたいのなら、安売りはしないことだ。

じつのところ、PIXTAが定額制を始める前の方が、クリエイターの収益は高かった。
低価格路線に舵を切ってからは、古参のクリエイターは収益が下がり、退会した人も多かった。ストックフォト業界のデフレは、いまだ進行中なのだ。それは海外ストックフォトに対抗するための策ではあったが、規模、知名度、写真のクオリティで大きな差のある国内ストックフォトでは太刀打ちできない。

関連して、TAGSTOCKがサービスを終了すると告知していた。
2010年4月に始まったTAGSTOCKだったが、6年あまりで撤退することになる。
TAGSTOCKは売れ筋写真よりも、作家性の出た芸術的な写真をプッシュするという試みをしていたと思うのだが、やはり売れないことには商業的に成り立たないということだろう。

ストックフォトのデフレが止まらないので、現在の状況が続くことは、業界としてますます苦境になっていくことを示唆している。
プロのフォトグラファーとして、ストックフォトに写真を提供している人もこの影響を受けるため、収益の悪化は仕事としての写真が苦しくなることにもつながる。
ストックフォト業界の先行きはあまり明るくない。
生き残るのは、海外勢の巨人だけ……ということもありうる。
なかなか厳しい現実である。


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