Amazon、新品書籍の安売り解禁?

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再販制度(再販売価格維持制度)によって守られてきた書籍の価格。自由競争には反する制度だが、出版業界はこの制度に甘えてきた。

販売価格を販売業者が自由に設定できるのが、本来の姿。かつては、家電製品なども「定価」というのがあって、多少の値引きはあっても、店によってあまり差はなかった。その後、「メーカー希望小売価格」という呼び方に変わり、現在は「オープン価格」と呼ばれるようになり、元値がいくらなのかはわからなくなっている。
書籍も、そういう方向に向かうのが市場経済だよね。

その突破口を、Amazonが開いた。

ついにアマゾンが書籍の「安売り」を始めた! | オリジナル | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

アマゾンが、ついに書籍の値引き販売に乗り出した。ダイヤモンド社、インプレス社、廣済堂、主婦の友社、サンクチュアリ出版、翔泳社の6社から約110タイトルを「定価の2割引き」で販売するのだ。キャンペーンは6月26日から7月31日まで行う。

(中略)

しかし、アマゾンの狙いは、期間限定キャンペーンをやることではなく、恒常的に自由な価格で販売できるようにすることだ。「価格の柔軟性があれば返本率を減らすこともできる。なるべく早く、”自由な価格で売れること”を普通のことにしたい」(種茂本部長)。

書籍が「オープン価格」になるには、まだまだ一山、二山越えないといけないだろうが、安くなったからといって売れるようになるわけでもないからね。

私の場合、欲しい本があったら、まず古本を探す。Amazonであればマーケットプレイスで古本も出てくるから、安い方の古本を買う。多少の傷や汚れがあったとしても、必要なのは中身なのだし、新品で買ったとしても年月が経てば劣化するもの。読んだあとは、本棚に眠ることになるわけで、読みたいときに読めればいい。

古本が流通しているという時点で、再販制度はあまり意味がない。新刊本でも、ブックオフなんかに行けば、発売日の翌日には出ていたりする。
古本にない場合には、新品本を買う。

よくいわれるのが、書籍の出版にはコストがかかるという話。
しかし、それは言い訳でもある。
書籍の制作がDTP化されている現在は、30年前(現在年からは39年前)に比べたら、かかるコストは3分の1から4分の1くらいに下がっている。
昔と現在の制作工程を図にすると、以下のようになる。

▼DTP化前と後の書籍の制作工程
※クリックで拡大表示

書籍の制作工程

書籍の制作工程

大きな違いは、DTP化によって「デザイン」「写植」「版下」「製版」の工程を、デザインの部分でまかなえるようになったこと。DTP化以前は、この工程で、少なくとも4人が関わっていたのが、1人でできるようになった。実際には手分けして作業していたので、10人前後の人たちが関わっていた。それが1人で済んでしまう。その分の人件費が浮くことになった。しかし、職人さん達は仕事を失った。

また、作業時間も大幅に短縮されるようになった。校正で間違いを拾い出して修正するわけだが、写植時代は間違い箇所の文字や文章を写植機で打ち直し、版下で切り貼りして修正し……ということを繰り返していた。修正するだけでも半日~数日がかりだった。それがDTPでは、画面上でキーボードを叩いてほんの数秒で終わる。かかる時間としては、数百分の1くらいの短縮だ。

昔だったら納期1週間の仕事が、数時間で終わる。コスト的には、かなりの削減につながっている。
その一方で、制作費も圧縮されているので、昔に比べると、仕事1件当たりのデザイナーの取り分も減った。デザイナーがこなす仕事量が増えているのに、制作費は低くなっているのが現状。

さらにいえば、作家と編集部の間のやりとりも、昔は電話+FAX+原稿の受け取りは物理的な手段(足または郵送)だったが、現在はメールで原稿(データ)を送れる。時間とコストは大幅に削減されている。

印刷に関しては、数万部単位の出版では、昔ながらの印刷方法だが、少部数の場合にはDTPデータから直接印刷出力できる方法もある。紙のコストは昔と変わらないが、印刷のコストは下がっている。

にもかかわらず、書籍の価格は下がるどころか上がっている。
物価が上がっていることを考慮しても、上がり続けていることの説明にはならない。出版不況といわれて久しいが、制作コストは下がっているのに、価格を下げようとはせず、売れないからと価格を上げることで読者離れを誘発してきたように思う。

私の好きなジャンルはSFだが、名作といわれる作品は、何度も重版され、現在でも販売されている。だが、その価格は、昔は300円くらいだったものが、今では1000円近かったりする。何度も重版しているから、元は取れているはずなので、重版では価格を下げてもいいように思うが、そうはならない。
再販制度にあぐらをかいていたといわれてもしかたがない。

出版社は値崩れを恐れているようだが、それよりも本を読まない人が増えることを恐れた方がいい。読者がいなければ、出版しても読む人がいなくなるんだ。
本としての内容も問題ではあるが、価格が高ければ興味があっても二の足を踏む。

新品の本じゃないと嫌だというのは少数派かもしれないが、そういう読者を大事にすることも必要だと思う。オーブン価格で安く新品本が買えるのなら、コアな本好きは戻ってくるかもしれない。

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