4Kは印刷・出版業界に脱アナログをもたらすか?

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 私の仕事でもある、印刷・出版業界の業界話になるが。

 印刷物や出版物には、「校正」という過程があり、これが欠かせない作業工程になっている。
 「校正」とは、誤字脱字などの間違いや、レイアウトの変更、写真やイラストの差し替えなどの修正を行う行程で、最終的な印刷物を完成させていく。

 誌面(紙面)のデザインやレイアウトは、完全にデジタル化され、文章原稿はテキストデータで扱い、写真やイラストは画像データとして扱う。

 側は、DTPアプリケーションを使ってディスプレイ上で制作するため、パソコン上(たいていはMacintosh)で仕事が完結する。

 しかし、クライアントや出版社の編集側は、「校正」の段階で、いまだにアナログのままなのだ。

 現在の校正は、プリントアウトまたは校正紙として印刷した「紙」に、赤ペンで書き込むという方法だ。
 DTPアプリケーションは、かつてはQuarkXPressが主流だったが、現在はAdobeのInDesignが主流。

(1)InDesignで制作したものを、PDFとして書き出して、編集者にメールで送信。
  ↓
(2)PDFを受け取った編集者は、プリンタで紙に出力。
  ↓
(3)紙に赤ペンで、修正箇所を書き込む。
  ↓
(4)校正指示を書き込んだ紙を、スキャナーで読みとってPDF化して、デザイナーにメールで送信。
  ↓
(5)校正指示PDFを受け取ったデザイナーは、そのPDFをプリンタで出力し、手書きの指示をDTP上に反映させる。ここでプリントアウトするのは、ディスプレイ上では、DTP画面と校正指示PDF画面を、並べて表示すると作業性が悪くなるため。ディスプレイが2台あればよいが、そういう環境にはなっていない。紙の利便性は、捨てきれない。

……と、このような行程を、何度か繰り返す。

 アナログな作業があるために、手間と時間が余計にかかり、ミスが発生する一因にもなる。たとえば、文章を書き換える場合、手書きで該当箇所に書き込むのだが、書き込むときに書き間違いをしたり、汚い字で読めなかったり、入力するときに間違ったりが発生する。1文字、2文字なら手書きでもいいが、文章を数行書き換えるときにも手書きで書かれると、ミスは発生しやすくなる。手書きで書くのが「校正」なのだという、暗黙の慣習が残っている。

 気の利いた編集者は、長い文章の差し替えで、テキストデータを添付してくれる場合もあるが、そういう人は少ない。
 デジタル化が進んでいる印刷・出版業界ではあるのだが、ある部分は最先端のデジタル化になっているものの、ある部分では旧態依然というアンバランスな状態だ。

 そんな現場に、ひとつの朗報かもしれない記事が以下。

4Kタブレットでオンライン校正支援、DNPが開発 紙と同等の表示 – ITmedia ニュース

 大日本印刷(DNP)は7月3日、4K表示対応タブレットを活用し、印刷物の校正作業をオンラインで行えるようにするシステムを開発し、8月から提供すると発表した。4K表示により、印刷用データを使って紙と同等の表示で校正作業が行えるという。

4Kタブレットでオンライン校正

4Kタブレットでオンライン校正

 方法論として、これは一歩前進だ。
 現状でも、PDF上に書き加えることは可能ではあるのだが、編集者が使っているPCの環境が不十分だったり、編集者自身にPCスキルがなかったりする。
 プリントアウトして赤ペンで書いてスキャニングして……という行程を省くことで、作業効率は上がる。

 記事ではA3表示可能な4Kタブレットを使うことを前提にしているが、現実的にはA3よりも大きなサイズの印刷物もあるので、もっと大きな画面が必要だ。

 過去記事に書いた「続・次世代PCは「テーブル・タブレット」かも」のような、テーブルタブレットだといいだろうね。DTP業界の人間にとっては、私が提案したテーブルタブレットがあれば、どんなに重宝することか。現状、使っているディスプレイは24インチだが、このサイズでは作業領域が狭くて、画面を切り替えながらの作業になるので、とても不便なんだ。

 4Kディスプレイは、テレビとしての用途が第一に考えられているが、プロユースとしてグラフィックデザイナー、CGクリエイター、映像クリエイターには重宝される。市場は狭いかもしれないが、ニーズは確実にある。
 メーカーには、そういう方向性も考えてもらえたらと思う。

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