講談社の「プロジェクト・アマテラス」に感じる違和感

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 講談社が新しいプロジェクトをスタートさせるという。
 記事を読んで、妙な違和感を感じるのだが……

講談社、新規事業「プロジェクト・アマテラス」を発表――これは出版の地殻変動だ – 電子書籍情報が満載! eBook USER

プロジェクト・アマテラス

 講談社は4月23日、新規事業と位置づける「プロジェクト・アマテラス」を発表した。出版大手の同社が手掛けるWeb事業は何を生み出すのだろうか――。

(中略)

 プロジェクトの参加者の声を取り入れながら、コンテンツを制作し、必要に応じてサブプロジェクトを立ち上げながらさまざまな才能が活躍できるようにする方針はほぼすべてのプロジェクトに共通している。そこに、講談社がこれまで培ってきた編集や販売に関するノウハウを混ぜ合わせながら、参加者全員で創造の喜びを感じてもらおうとする新しい制作スタイルがプロジェクト・アマテラスなのだ。発表資料には「いままでタブーと思われていたことにも積極的に挑戦」とあり、出版社だけでは打破できないような取り組みもプロジェクト参加者とともに変革していこうとする姿勢が打ち出されている。

 ここで強調しておきたいのは、講談社がプロジェクト・アマテラスで見つけ出そうとしている才能は、クリエイティブな才能だけではない。唐木氏は、「プロジェクトの応援も創作活動」だとし、プロジェクトを評価したり、話題にしたりすることの意義も重要視している。もともとこのプロジェクトが多様化を期待する性質のものなので、さまざまなユーザーに集まってほしいと考えるのは自然なことだ。

(中略)

 うがった見方をすれば、ネットで反応がよいものをビジネスにつなげていこうとするものだといえなくもない。ただし、参加者の貢献は、プロジェクト内に閉じることなく、対外的にもその貢献を示すことなどが明言されている。例えば、プロジェクトのアウトプットとして講談社から紙書籍が刊行された場合は、貢献者一覧のページが設けられるといった具合だ。場合によっては収益機会も得られるのではないかと思われる。

 下線部分は私が引いた。
 そこが一番違和感を感じたからだ。

 新しいことにチャレンジする意気込みは買う。
 とはいえ、ここに列挙されているようなことは、すでに商業ベースではない趣味ベースで好きな人たちがやっていることでもある。同人誌レベルでも行われてきたことだ。
 大なり小なり才能はあちこちに転がっている。それが陽の目を見るかどうかの違いだ。
 出版社が行っている新人賞で、なにがしかの賞を取る人は、年間数十人はいる。だが、その才能を生かしきれずに消えていく人も多い。
 当人の努力が足りなかった場合もあるだろうが、せっかく発掘した才能を出版社が生かしきれなかった場合もあるだろう。
 理由はいろいろだが、一番大きな理由は、経済的に食えないことなのだ。
 小説なりマンガなりを書くには、膨大な時間が必要だ。フルタイムで作品制作に取り組めればいいが、たいていの場合、収入を得るために会社員やアルバイトで働きながら、限られた時間の中で作品を書かなければならない。
 それはなかなか大変なことだ。
 作品が仕上がっても、出版されるとは限らず、採用されたとしても原稿料は安いし印税も微々たるものだ。つまり、新人は作家業だけでは食えない。
 結果、新人賞を取った作品の一発屋で終わる人も少なくない。
 過去、出版社はそうやって何人の才能を無駄にしてきたのだろう?
 作家の世界も競争の世界だから、能力のある人が生き残る。食えない状況から這い上がって、ヒット作を生み出すのがプロの作家だともいえる。
 切磋琢磨することは必要だ。
 そのことに異論はない。
 しかし、生き残れないのは当人の努力が足りないからだと断じてもいいのだろうか?
 出版社は「賞はあげた。あとは自分で何とかしろ」というようなことが、才能を育てることになるのだろうか?……とも思う。
 賞金が100万円だとしても、それだけで食いつなげられるのは、切り詰めたとしてもせいぜい半年。その100万で会社を辞めて書くことに専念する決心ができる人は、よほどの自信家か無謀な楽天家だろう。
 厳しい世界であることは事実だが、たくさんある新人賞でせっかく才能を発掘しながら、その人材を生かし切れない責任は出版社にもあるように思う。

 「プロジェクト・アマテラス」で広く一般から才能を募るのはいいが、どうもそこに「安く才能を利用しよう」という思惑があるようにうがった見方をしてしまう(^^;)。
 協力者として名前を載せるとか、謝礼として図書券1000円でも出しておけばいいとか……、そんな姑息なことを考えてはいないだろうか?
 採用する人材には年収1000万円を出す……なんていう太っ腹なことは絶対しないだろうことは確かだね(^^)。
 なんとなく、この構図はアニメ界を連想してしまう。
 アニメ界は、大手の制作会社の下に下請け、孫請け、ひ孫請けの制作会社があり、下に行くほどそこで働く人の給料は安くなっていく。下請けで働く多くのアニメーターは、最低賃金制度よりも安い給料で働いている。
 それが法に触れないのは、弱小制作会社に所属するアニメーターは、社員ではなく、アルバイトですらないからだ。制作会社は机と場所を提供するだけで、個人事業主という扱いなのだ。そのことを知らずに働いているアニメーターも多いと思う。私がアニメーターだったときもそうだった。
 私がアニメーターをしていた頃。アニメーターは使い捨てだった。ちょっと絵が描ければ、簡単に採用された。辞めていく人が多かったから、次々に人員を補充する必要があったのだ。辞めていくのは、極貧で食えなかったからだ。才能を伸ばすのではなく、睡眠不足と空腹に堪えなくてはいけなかった。程度の差こそあれ、アニメが好きで、そこそこ絵が描けるだけの能力はある人たちだ。アニメ界はそうした若き才能の芽を浪費していた。
 「プロジェクト・アマテラス」で才能を発掘しても、社員として採用するわけでもなく、作家として印税を払うわけでもなく……と、出版社に都合のいいように使われる気がする。
 私の杞憂であればよいのだが……?

【追記】
2014年12月にプロジェクトは停止された。

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