これまで、あまり問題視されていなかった事例についての、衝撃的な内容のドキュメンタリーだった。これについての記事や専門家の発言は、ほとんど見聞きしたことがない。
温暖化問題の原因について、再検討が必要な現象ではないだろうか。
ゴースト オブ オイル 廃坑井が危ない|NHK BS世界のドキュメンタリー
廃坑井という言葉そのものに馴染みがない。
油田やガス田で、稼働しなくなった(放棄された)掘削用の井戸(油井やガス井)のこと。その廃坑井が世界中にたくさんあり、そこから大量のメタンガス等が漏れ出ているという。
石油とガスは最大の負の遺産かもしれません。
世界中には、膨大な数の放棄された油井とガス井があります。数え切れないほど。
放棄された油井やガス井は地球を汚染していますが、最も強力な温室効果ガスの一つ、メタンの発生源としては疑われてきませんでした。それが今、気候にとっての時限爆弾となっています。
ジャーナリストや研究者が、各地の廃坑井を見つけ出し、その影響を調査していた。廃坑井の多くは、その存在すら知られておらず、適切な処理をされることなく放置されているという。そこからはメタンガスが絶えず漏れ出ている。
彼らはドローンと金属探知機で、放棄された廃坑井を探し出す。
その場所を見つけ出すと、特殊な赤外線カメラで撮影し、メタンガスが漏れていることを確認する。廃坑井は枯れているわけではなく、ガスを放出し続けている。
別の廃坑井では、地面が陥没し、直径100メートルほどの大きな穴が開いたという。原油の採掘は行われなくなったが、穴の底は真っ黒な原油まじりの汚水で覆われていた。このような陥没穴が、増えているという。
油田やガス田は、海でも採掘されている。廃坑井は海底にも存在する。
廃坑井から北海へのメタン排出量の推計からわかるのは、これがメタン排出の主な経路となっているということ。廃坑井から、1年あたり20キロトンから30キロトンのメタンが、北海に放出されています。この事実は、これまで一切公表されていませんでした。
でも、一部の石油ガス会社と話したところ、彼らがこの問題を十分認識していたとわかったんです。
これまでの温暖化論議で、廃坑井から出るメタンガスは、まったくのノーマークだった。メタンガスは二酸化炭素の28倍の温室効果があるとされている。その主たる発生源は、田んぼや家畜のゲップや糞尿だとされてきたが、廃坑井からの漏出の方が上回っているとしたら、主犯は二酸化炭素ではなくメタンガスということになるかもしれない。
だとするなら、脱炭素の取り組み方を根本的に変える必要がある。車の排気ガスや火力発電の規制をメインにするのではなく、廃坑井を徹底的に封じることに専念すべきという話になる。
排気ガスをゼロにしても、廃坑井からメタンガスが出続けていれば、温暖化は止められないことになってしまう。
この新たな問題提起に対して、どう対処するのか?
『「混迷の世紀」と「欲望の資本主義2023」(1)』で取り上げた、EV車等に必要な銅が足りない問題も、事態をさらに複雑にしている。
メタンの分子構造には炭素も含まれているので、脱炭素の対象ではある。二酸化炭素だけの問題ではない。
廃坑井がどこにどれだけあるかは、正確には把握されていないという。これがやっかいなのは、廃坑井を塞ぐための工事は、巨額の費用がかかり、利益を生まないために、負債でしかないということ。だから、放置されている。
解決策は……ないね。
絶望的だ。