少々、記事としての鮮度は落ちてしまったのだが……
一世を風靡した『PLAYBOY』が、ヌードの掲載をやめてリニューアルされた。
日本語版の『PLAYBOY』はずいぶん前に廃刊されていたが、新しくなった『PLAYBOY』がどんなものなのかは気になるところ。
それに関する記事。
ヌードを封印した『PLAYBOY』のエディトリアル・デザイン ≪ WIRED.jp
伝統あるポルノ誌『PLAYBOY』(プレイボーイ)のリニューアル号が発刊された。インターネットにポルノが流通する時代に「ヌードをやめた」ポルノ誌は、どう生まれ変わったのか。とくにそのエディトリアル・デザインに注目した。
(中略)
官能性のデザイン
レイアウトをきれいに整理すると、読者の体験は改善されうる。「(新しいPLAYBOYを見ると)とても“ラク”だと感じる」と、モシェ・バーは言う。彼は、イスラエルのレズリー・アンド・スーザン・ゴンダ多分野脳研究所の認知脳神経科学研究室ディレクターだ。
彼ら研究者による予備調査結果によると、人間の脳は「局面物体」を魅力的だと感じるという。「U字型の機能は興味深い。あまりにもシンプル過ぎると退屈だが、複雑過ぎると楽しめない。キーワードは『乱雑さ』(clutter)だ」と、PLAYBOYによるそうした要素の排除について語っている。「同時に、乱雑さは人にストレスを与えうる」。シンプルさとカオスのバランスを的確にとることで、デザイナーは雑誌を楽しもうとする読者の能力を最大限に引き出すのだ。
『PLAYBOY』といえば「ヌード」だったわけだが、あまたあるヌード雑誌の中でも、ヌード写真のクオリティは高かった。その写真は性的好奇心を刺激するだけでなく、写真としてアートとしても鑑賞に耐えうるものだった。
日本語版・US版の両方を定期購読していた時期もあったのだが、その主目的は絵を描くときの人物モデルとしてのヌード写真だった。うちの妻は、「ヌード写真が綺麗」ということで『PLAYBOY』を見ていた。男性向けのためのヌードではあったのだろうが、女性から見ても共感を得られる美しさはあったと思う。ヌードというだけで、忌避していた女性がいたことも事実ではあるが。
これまでの既定路線を捨てて、新しいチャレンジをすると、必ずしも評価されるものではない。作り手の意図に反して、読者は物足りなさを感じてしまうこともある。
「PLAYBOY=ヌード」という刷り込みは強く、それが否定された新しいPLAYBOYは、これまでの読者から見放されてしまう。
アメリカAmazonのレビューでも、評価は★1つになっている。
英語のレビューで書かれていることは、どれも手厳しい。おおむね共通していることは、ヌードを廃したことに対する不満と、誌面のデザインに対する不満だ。つまり、変化に対する失望となっている。これらの評価は、以前のPLAYBOYファンからの苦言だろう。そこには古き良きPLAYBOYへの郷愁もある。
こりゃ、現物見ないと評価できないな……というわけで、入手を試みる。
日本のAmazonでも発売直後は売られていたようだが、この記事の執筆時点は在庫なし。アメリカAmazonでは取り扱っているが、主だった販売主は日本に発送してくれない。いくつかの販売主をチェックして、日本に発送してくれるところを見つけた。
しかし、送料が高いなー。雑誌そのものは7ドル前後なのだが、送料が速い便(航空便)だと4,500円(円-ドルのレートで変わる)くらいかかる。
ebayにも出品されているが、送料は安いものの、たぶん船便なので数週間はかかるだろう。
コストはかかるが早く着くことを優先して、アメリカAmazonで発注した。
そんなわけで、現物が届くまで、この記事は保留。
……というわけで、掲載を控えていた。
3月16日、PLAYBOY 2016年3月号が届く
やっと届いた。結局、1週間かかった。
▼PLAYBOY 2016年3月号の実物を入手。
US版のPLAYBOYは、昔から紙質はザラッとしていて、印刷の線数は133線くらいで荒い。日本版のPLAYBOYの方が印刷クオリティは高く、同じ写真を使っていても日本版の方が高級感があった。
その荒さは相変わらず。まぁ、コストを下げるためだからしょうがない部分でもある。アメリカでは価格はショップによって変わるが、7ドル(1ドル113円のレートで791円)前後。輸入本として国内の販売価格は3000円くらいになっている。輸送費がかかっているにしても、かなり高め。電子ブックで買えればいいのだが、アメリカAmazonの電子ブックは日本からは買えない。そのへんは音楽のダウンロードと同じ。
実物を手に取った感想は……
う~~~む………(^_^)b
画像で見た拍子抜け感は、やっぱり実物でも同じだなー。★1つというのには同意してしまう。
シンプルでスッキリしているとは思う。これがPLAYBOYではなく、新しい雑誌だったらそれはそれで納得しただろう。でも、次号も買いたいかというと、買わないなー。ファッション雑誌というにはファッション性は乏しいし、もちろんヌード誌でもない。セミヌードが魅力的かというと、これまた微妙なのだ。
昔のPLAYBOYの、おもちゃ箱をひっくり返したようなゴチャゴチャ感、猥雑感とアート感の入り交じったカオス感が、PLAYBOYの魅力でもあった。
▼2007年3月号との比較
WIRED.jpの好意的な評価が、PLAYBOYの読者に受け入れられるには、少々時間がかかるかもしれない。デザイン的に洗練された(ように見える)のは、方向性としてはわかるが、果たしてそれがPLAYBOYにふさわしいかどうかだ。まるで女性向けファッション雑誌のような誌面が、旧来からの男性読者の興味を引きつけるかどうか。
チャレンジであると同時にリスク。
旧来からの読者を切り捨て、新しい読者を獲得できればいいが、ただでさえ雑誌の売り上げが低迷している昨今では、なかなかに難しい状況だろう。
「ヌードなし」に舵を切ったPLAYBOYの刷新は思い切った試みだと思うが、エロティシズムをなしにしているわけではない。最小限の下着なり隠す手段で、チラ見せのエロティシズムなのだが、古典的ともいえる手法は、今の時代、エロティシズムには見えないところが問題かもね。表紙に代表されるような写真は、普通のファッション誌にもありふれているし、目新しさは乏しい。
PLAYBOYとしては刷新でも、見慣れた読者にとっては懐古趣味の後退にしか見えない。狙ったものが、狙った的に当たっていない感じだ。
▼三つ折りピンナップは健在だが……
ワクワクしない(^_^)
ヌードではないからワクワクしないのではなく、チラ見せのエロティシズムに迫力とか魅力が乏しいと感じるからだ。これはカメラマンのセンスの問題かもしれない。
なんというか……、気の抜けたコーラを飲んでいるような感じ。
いっそのこと、生身の人間すらも「なし」にした方が斬新かもしれない(^_^)。
実在の女性モデルではなく、バーチャルな女性をビジュアルとして使う。
たとえば、こんな風に……
▼バーチャルプレイメイトのPLAYBOY ※クリックで拡大表示
※バーチャルカメラのレンズは35mm、F2.8相当。
注釈もなくこの画像を見せられたら、これが3DCGによるバーチャルな女性には見えないかもしれない。このCGの女性は、私がカスタマイズしたモデル(フィギュア)なので、リアルで似ている人はいてもバーチャルに存在するただひとりのモデルだ。
日本ではアニメに代表される2次元のアイドルを、あたかも実在するアイドルのように慕うファンがいる。音声合成システム「VOCALOID」の「初音ミク」は、バーチャルアイドルとしてコンサートまでしてしまう時代だ。
バーチャルプレイメイトがあってもいいじゃないか(^o^)。
アメリカでは受けないかもしれないが、日本だったら受ける素地はあると思う。
▼同キャラで誌面をイメージしたシーン ※クリックで拡大表示
※バーチャルカメラのレンズは50mm、F4相当。文章はイメージとしてのダミーなので、深い意味はない(^_^)
刷新したPLAYBOYには、こういう見開き裁ち切りのページがないんだ。本のサイズは、タテ275mm×ヨコ230mmと、昔のPLAYBOYのヨコが207mmなので、若干大きくなっている。その広くなった誌面をもっと大きく活用する表現があってもいいように思うのだが、「余白を活かす」という意図のためか、ページの中にこじんまりと収まってしまっていて、それがスカスカ感に作用している。
ビジュアル重視なのか記事重視なのかが中途半端で、バランスが悪い。まだ手探りで方向性がはっきりしていないのか、その迷いが出ているようにも思える。おそらく、このままの路線では読者の支持は得られにくいと思うので、デザイン的にもさらにテコ入れが必要だと思う。
三つ折りピンナップは、雑誌の中の「山」でもあるので、セミヌードだとしてももっとインパクトは欲しいところ。
バーチャルアイドルでもこのくらいはできるよ(^_^)
▼昔のPLAYBOYには定番だった、三つ折りピンナップのイメージ ※クリックで拡大表示
※バーチャルカメラのレンズは50mm、F5.6相当。
とまぁ、結論としてPLAYBOYはPLAYBOYを卒業してしまった……ということかな。
ブランドとして関連商品を展開していくようなのだが、果たして刷新したPLAYBOY誌がブランド力を牽引していけるかどうかは……ちょっと疑問。
ともあれ、しばらくはウォッチしてみようとは思う。
追記
CNN.co.jp : 米プレイボーイ誌、ヌード復活へ 掲載停止から1年(2017.02.15)
ヘフナー氏はツイートで「プレイボーイのヌードの見せ方が古かったことは、私も真っ先に認める。だがヌードを誌上から完全に消したのは間違いだった」「ヌード自体が問題なのではない」との考えを示し、「私たちは今、本来の自分を取り戻す」と述べた。
……ということだったが、2020年3月に紙媒体の雑誌は廃刊となった。